第二十話 頑張った甲斐はあるでしょ
諸々の準備が終わり、他三人が見守る中、いよいよ着火の儀式が行われようとしていた。
儀式って言ったら怪しいな。ただの着火。
朱夏は杖を構えていて、私は思いっきり避けるように枝を掲げているので周りから見たら大分滑稽なのだが、私はいっちょ前の聖火ランナーみたいに掲げたまま待機するのができない人間だからご勘弁。
すでに火がついてるなら聖火ランナーできるさ。
今からつけられるんだから避けるだろうが!!!
「あーちゃん大丈夫?百面相してるけど」
「そりゃ今から顔面すれすれを火球が通り過ぎますからね?」
ご本人は楽しそうだけど私はそうもいかないんですわ。
他三人もご愁傷様、って顔してるし。何?私何かしました??
そんな中ダイジョブダイジョブ。当てないし。と軽く言われたって命の危険しか感じないのに避けないなんて朱夏の言葉を借りれば生物学的にアホ、である。
「まあバンジーするくらいの気持ちでよろしく、[水弾]」
「無理だyっておい!!もう水魔法打っとる!!」
計算上打った瞬間から4秒後くらいに飛んでくるはずなので、手元はずらさず体は逃げられるように瞬時に体勢を取る。
再詠唱まで0.5秒というタイミングではあるが、朱夏がミスをするなどありえないのでそれはもう正確に飛んでくるだろう。そもそも再詠唱までと打つタイミングだったら8倍くらい余裕があるしな…。
焦ると思考回路バカになるのは本当だったらしい。
なんて考えていたらもう打つようだ。
「[火弾]」
「っ来た!」
顔の真横をかすめる業火。熱すぎて逆に寒いような錯覚さえ覚える。
秒速11m。普通の人間が見てから避けるのは難しい速度。
この世界でAGI特化になったと同時に動体視力や反射が強化されているため、ギリギリ反応できたが、そうじゃなかったらしっかり当たってお陀仏である。
火球の行き先を見ると、丁度水とぶつかって消えたようだ。
とりあえず大火事になるのは避けられたわけである。実にめでたい。
…めでたいけど、ぶつかってシュッと消えたかと言えばそういうわけでもなく、しっかり爆ぜて割とすごい音がしてから消えたので正直怖かった。
「火ぃ付いた~~」
「ではあーちゃんそのままそのランタンに点火してもろてよき?」
「寿命10年縮まった後の仕事がこれとはずいぶんここは平和なのね」
「ごめんて」
目が死んだ状態で言ったらしっかり謝られた。
まあ大会でおごってもらうからいいんですよ。
そう思いつつ、メラメラと燃える松明の先を、ランタンの中心部へそっとあてがう。
しばらくしてポッ…と火がともると、フレームに刻まれた黄色い紋章が光を帯び始め、それに呼応するように周りの、いや、全てのランタンが連鎖するように光を湛え始める。
光が限界まで達すると、それぞれのランタンがあたりを柔らかく照らし始め、まるでそれは夜空にばらまかれた星の様で。
放心状態の私からそっと火を取って朱夏が消火していたが、他のメンバーも目を奪われていた。
『光石』
世界各地で採掘可能な汎用性の高い光属性の石。特に日照時間の多い地域や魔力がある地域で取れやすいとされる。
付近の光に反応して一定範囲内の光石が連鎖的に発行することで知られている。
これを利用して鉱夫は光石をフレームにあしらったランタンで効率よく採掘する。
光源に近ければ近いほど、光源に近い光石が多いほど強く光を発するとされ、時には岩すら貫通するほどだという。
____世界鉱石目録より
「少なくとも頑張った甲斐はあるでしょ」
「「「うん…」」」
うん????
あまりの光景の美麗さに思わず二つ返事をかましてしまったが、本当か?
あの労働量とこれは釣り合うのか??
前に一度家族と一緒に初日の出を拝むために山登りして、確かに初日の出は絶景だったけど個人的に労働量と釣り合ってないと思ったものだ。
家族、特に兄には苦笑されたが。
懐かし…。
じゃなくて。
「ということでおごりは免除」
「「「なわけあるかぁ!!!???」」」
珍しく氷人も大絶叫していた。
やっぱり?と朱夏は頭を掻いていたが、そりゃそうだろう。
明らかに釣り合わない。本当に、明らかに。
全国の登山者の方に盛大に怒られそうな気はするが感性は人それぞれなのでどうか許してほしい。
「精々あと10日あまり金をためておくんだな…???」
「待ってこの人怖い!!!」
え?何を言っているんだ。私はいたって健全な顔をしているだろう?
失礼だなーアハハ…おい、男子組。何逃げとるんや。
私そんなひどい顔してないだろ。おい。おーい?
「あーたん乙」
「何言ってんだ金央、君もおごるんだろ」
「ヒェ…」
自分だけ例外にしてる金央に物申したら涙目になった。
えー?何で蚊の鳴くような声を出されないといけないんですかねー?
解せぬ。
「…おごりはするけど拠点も手伝ってよ?」
「そりゃもちろん」
そう言ったら悪い顔をし始めた朱夏だが、大会で全員分の食費を持つことがいかに大変化はまだ知る由もない。




