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87

明の左腰のタトゥーに隠された傷痕。

恋人の白田に、やっと過去の自分の過ちを口にする。


87



草原リゾート



テントの中で1人。

何処に腰掛けるでもなく、突っ立っている明。

服を脱ぐことを躊躇しているものの、服の下に火傷はないと証明しない限り白田は納得しない気がした。

それにこれを切っ掛けにすれば・・・・と明はトップスの裾を掴んで一気に脱いだ。

そこへつい先程出たばかりの男が、手に氷袋を持って戻ってきた。


「明っ。これで冷やして」


こんなに早く戻ってくるとは思っていなかった明は、ビクンと肩を震わせてテントの入り口へ振り返る。

白田の視線が明の素肌に吸い寄せられる。

男同志で恥じらうことは無いはずなのに、じっと見られてソワソワしてしまう。

背中を向けてその視線から逃れればいいのだが、背中には・・・・あの痕がある。


「は・・・やかったんだな」


「ついそこまで、さっきの子が持って来てくれててね」


明の問いかけに、ハッとした白田は口元に笑みを浮かべて氷袋を持って明の側へと歩み寄る。


「引っかかったのは手だけだ。服の下までは染みてないから」


「じゃ・・・何で脱いでるの?」


「お前が脱げって言っただろうが!それに、見せなきゃお前が納得しね〜と思って」


「そうか。そうだった・・・」


「何だよ、ほんの数分前だぞ。忘れたとか」


「違うよ。ちょっと・・・明の裸に、頭の中が真っ白になっちゃって・・・」


何言ってんだと思うも、男の言葉に何も言えなくなる。

聞いてるこっちが恥ずかしくなってしまい、居た堪れない。


「あっ。服を濯がないとシミになるから、ちょっと洗面所まで行ってくるよ。身体冷やさないように上着着てストーブの前で、手冷やしてて」


男はそう言うと、明がソファの上に放おっていた服を手にして明に背中を向ける。

この男なら服のシミより、火傷の明を優先させそうだが・・・まるでこの場から立ち去りたいかのように感じる。

明はこのまま話を先延ばしたくないと、テントを出ようとした男に声を掛けた。


「仁」


初めて下の名前で呼ぶ。

白田は足を止めてゆっくり振り返る。

明の声が聞こえたにもかかわらず、ハッキリと理解していない様な表情。


そして明は、男に背中を向けた。


男が何を感じ、思うのか・・・・

テント内の照明の柔らかな明かりでは、傷痕はハッキリと見えないかもしれない。

背後から男の足音が近づいてくるのを耳にして、握っていた手に力がこもる。

きっと左腰を見ている・・・・

背中越しに感じる、視線。

やがて柔らかな何かが、左腰の傷痕に触れた。

途端に、明の身体に緊張が走る。

それが白田の指だと解ったと同時に、傷痕の形を確かめるように動く指。

そして指が離れると、今度は背後からギュッと抱きしめられた。


「誰が・・・こんな事を・・・・」


耳元で聞こえる男の声は怒りを含み、身体が微かに震えている。


「もう・・・10年前の事だぞ」


「それでもっ!・・・明を傷つけた」


「・・・・・・・・・・・・昔の事件知ってるんだろ?」


「ある程度は・・・・」


「被害者の父親だよ」


「え・・・・」





真木 亜蝶

彼女の事を少しでも特別だと感じていた。

日富美を思い出させる雰囲気に、親しみを感じていたのかもしれない。

道端で顔を合わせると彼女だけに向けられる明の態度に、グループの中でも付き合ってるんじゃないかと言う奴も居た。

それを否定しつつも・・・・他の女子達とは違う態度は改めなかった。


「私、近々遠くへ引っ越すの・・・・だから最後に、これを受け取って欲しい」


彼女が差し出したのは、両手に余るほどの大きさのラッピングされた箱。


「本当は、来年のバレンタインに渡したかったんだけど・・・」


バレンタインまでまだまだ先だし、甘いものは苦手だ。

だけど、最後だと思うと・・・・受け取ってあげたほうがいいのかと思った。

だから、受け取った。

それから1ヶ月後、あの事件が起こった。

引っ越したと思っていた彼女は、アーケード周辺で顔を合わせなかったが何故かまだあの女子校に通っていた。


蛭崎は偶然見かけた彼女に『倖田が寂しがって逢いたがってたぞ。連絡するから、会ってやれよ』と誘い出し、人気のない場所で彼女に暴行した。


蛭崎以外にも4人居たにも関わらず、誰も彼女を助けようとしなかった・・・

男の欲望に勝てなかった奴も居れば、彼女に手を出さなくても蛭崎に逆らえず見ているだけの奴も居た。

明が主犯格とされたのは蛭崎の口から名が出た事もあったが、共犯者と食い違う証言もあり捜査では疑いだけの状態。

ただ主犯として有力とされたのは、彼女の日記に何度も明の名が出ていたからだ。

彼女は明の事が好きだった・・・・それは明も感じていた。

麗子と付き合っていたにも関わらず、好意を寄せている彼女を冷たく突き放さなった。


全て自分が蒔いた種・・・・


彼女を助けたから

落とし物を届けたから

彼女を特別扱いしたから

仲間達の前で、満更でもない態度を取ったから

チョコを受け取ったから

振り返れば振り返るほど、今まで起こしてきた自分の行動に非があるように思えた。


釈放された後、彼女の家に通い始めた。

勿論、父親に罵倒されて追い返されたが、それでも彼女の家が見える公園に毎日通った。

何のためか・・・

謝罪したかった

心配だった

側に居てやりたかった

今思い返しても、あの時どういう気持ちで通っていたのか解らない。

もしかしたら、ただの自己満だったのかもしれない。

忘れたい出来事に終止符を打ちたくて・・・・彼女の心情等考えずに通っていたのかも・・・・



88へ続く


長くなるので一旦切ります。


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