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恋人になって3日目。

どういう態度で居ることが正解か悩む明に、白田は普段どおりだった。


71



フスカル


明の出勤日。

カウンター席は相変わらずのメンバー。

BOX席も二組座っているが、桃と林檎の姿は無い。

すでにカップルとして席に着いているBOX席は、注文を取るだけでいい楽なお客様。

なので明は、雛山と白田の席へと着いている。

そしてそんな明と白田もカップル。

雛山と雅にはその事を言っていないが、一応フスカル内では前々からカップルだ。

偽りのカップルだったのが、今では本当のカップル。

もう演じる必要はなくなったとはいえ、明としては逆にどう接していいか解らない。


あの日から3日たった。

その日の夜と一昨日、昨日も白田からLINEが来た。

それは明が【内容としては中身のない】と言っていた『何してるの?』『もうご飯食べた?』の類。

状況が変わればその中身のない内容でも、恋人と繋ぐ甘いメッセージになる。

昨夜の『本当は電話したいけど、声を聞くと会いたくなるから我慢するよ』と白田からのメッセージ。

そんなメッセージに明は『明日、フスカルで会えるだろう』と相変わらずの可愛げのない返事しか出来なかった。

そんな自分にイライラして、部屋のサンドバッグを汗まみれになるまで殴りつけた。

本当は「オレも」と言いたい、言いたいが気恥ずかしすぎて断念。


恋人が出来る事は初めてじゃない。

10代の頃はとっかえひっかえ状態。

ナンパや逆ナンからのなし崩しで、付き合っていたようなもの。

所詮、性欲処理と寝床確保の付き合いだった。

唯一、長く付き合ったのは麗子だけ。

酔っぱらいに絡まれていた麗子を助けた、一番マトモな出会いだった。

それに彼女自身も親に苦労していた為、明の実家での事を理解してくれていた。

肉体関係はあったものの、彼女を好きかと訊かれれば・・・・人として好きだった。

それは多分、日富美に抱く感情と一緒。


離れていれば相手を求めて、寂しい会いたいと思ってしまうのは白田だけ。

相手の言葉の一つ一つに、感情が揺さぶられるのも白田だけ。

目の前に居るだけで嬉しくて、目が合うと至福に包まれるのも白田だけ。

全てにおいて、白田が初めて。

だからここで、どういう態度を取るべきか戸惑ってしまう。

そしてそんな白田は・・・・いつもと変わらない。

元々、明しか目に入ってない。

明に笑いかける甘ったるい笑顔も前々からのもの。

だから明自身、余計に混乱する。

前のそっけない態度のままでいいのか、らしくなく甘い雰囲気を出せばいいのか・・・・


「ったく、お前が酒飲まね〜と売上あがらね〜わ」


あれこれと悩みながらちびちびとノンアルを口にしていた明に、雅からの小言。

明はそんな叔父を、ジロリと横目で睨む。

人が真剣に悩んでるのに、お前は売上の事しか考えられね〜のか・・・と意味を込めて。


「しょうがねぇ〜だろうが、バイクで来てんだ」


「くそ婆め・・・さっさと諦めろ」


売上が上がらないのは明のせいでもない。

雅は八つ当たりのように倖田の母に怒りを向けるが、元凶なだけに八つ当たりでもない。

その雅の呟きに、明も全くその通りだと心の中で同意した。


「それでっ僕も少し体力をつけようと思って、昨日走ってみたんですけど・・・・もう続けられない気がします」


悶々と悩んでいたお陰で、雛山の話が全く入ってなかった明。

雅の横槍のおかげで、青年の話がようやく明の耳に届いた。


「諦めんの、はぇ〜よ」


前向きに運動しようとした雛山だったが、早くも脱落した青年に明は呆れ顔。


「それなら、形から入ってみたらどうだ?」


雛山の横に座っている白田が、提案を投げかける。


「形からって、どういう事ですか?」


「ウェアとかシューズを揃えるんだ。良いものを買う程、タンスの肥やしになるのが勿体なくて続けるだろう?」


「あぁ、なるほど〜〜」


「それと初心者がいきなり走るな。習慣化出来るまで歩きゃいいんだよ」


白田と明からの提案に、何度も頷きなるほど〜と納得する雛山。


「それじゃ、早速ウェアとシューズを買いに行きます。今週の日曜日空いてますか?」


「「!?」」


雛山の突然の日曜日の誘いに、言葉を失う助言者2人。

まさか自分達が誘わるとは予想していなかった。

今週の日曜日は・・・・・【デート】だ。

初めての・・・【デート】

明自身は2人で楽しくお出かけというよりは、あくまで過去の事を彼に話す事が目的。

そう思っているのだが、白田が【デート】と言った事で変に意識してしまい、心の中がウズウズしたりワクワクしたりキュンキュンしたり収集がつかなくなってしまっている。

早く日曜日にならないかなと、カレンダーを眺めるまでの重症化。

カレンダーを見たところで1日が早く過ぎる事もないのに・・・・


「おいっ、口元緩んでんぞ」


ポソリと耳元で囁く雅の言葉に、明は慌てて口元に力を入れる。

そして雅のせいでもないのに、ジロリと叔父を睨んだ。


「おぉ〜お〜、余計な事言っちまったみたいだな。これからは何も言わねぇ〜よ」


「チッ」


大袈裟に肩を竦めてみせる雅は、明の舌打ちを鼻で笑い飛ばし厨房へと入っていった。


「悪いな雛山、その日は予定があるんだ」


「そうなんですね。明さんは?」


雛山ししてみれば2人が一緒に出かけるとは思ってないのだろう。

そう聞かれる事はごく自然のことだが、明は「え・・と」と言葉に詰まる。

そして雛山の隣の男に視線を向ければ、相変わらずのニコニコ顔で明を見ている。

その笑顔がどこかワクワクして、明の返事を待っているようにも感じる。


「オレもその日は、予定有る」


【デート】なんですとは言えない明は、普通に答えた。


「えぇ〜2人ともですか?ん〜〜〜何買っていいかアバイスして欲しかったのに」


確かに初心者にしてみれば、どんな靴がいいのか悩むだろう。

店員に訊けば済む話だが、中には買わせることだけを目的とした店員も居る。

そんな店員に当たってしまっても、彼なら言われるがまま疑いもせずに買ってしまいそうだ。


「なら、竜一に声掛けといてやるよ」


「うえぇぇぇ!?」


「スポーツ用品ならあいつ詳しいだろうし、オレらより適切だと思うけど」


なんせスポーツマンだ。

趣味で体を動かしている明と白田よりは、本業の人の方がメーカーの特徴や癖を知っているだろう。

我ながら良い提案だと思った明だったが、雛山の驚き方はかなりオーバー気味。


「やっ!だって・・・僕・・・」


「あ?何?」


「あの人、ボコボコ殴っちゃいました・・・・」


「はぁ!?」


俯きながらそう口にする雛山に、白田は肩を震わせて笑う。

その様子から、白田は知っているようだ。


「なに・・・オレが居ない間、リングで一試合したのか?」


「そんな事したら、僕今頃病院に居ます」


「だよな・・・お前の拳もかすりもしね〜だろうしな」


「うううう・・・だから、会い辛いです」


「日曜日、迎えに行かすから住所教えろ」


「え!?ちょっと明さん、聞いてました?」


「聞いていた聞いてた。面白そうだから、さっさと住所教えろ」


「面白くないですぅぅ!!」


「良かったな?雛山」


「白田さんまで!良くないですよぉぉ!!」


半泣きになる雛山に、二人して笑いながら誂う。

住所を言わなければ白田が調べて明に教えると脅され、結局自ら言う羽目となった。


2組の今週末の予定は、ドキドキウキウキの日曜日と、ドキドキヒヤヒヤの日曜日の2パターンに分かれそうだ。



72へ続く

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