68
恋の辛さに、全てを諦めた明。
何も感じない心に、無意識に昔のあの子の事を思い出す。
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明は拾ったキーホルダーを手に、ある女子校の前に居た。
下校時刻、正門の前は華やかな女子高生で溢れている。
正門にもたれ掛かっている明は、そんな女子高生達の注目の的。
こんな所に他校の男子生徒が居るからではなく、噂の倖田明だからだ。
男臭さを感じさせない整った綺麗な顔立ちに、同年代とは思えない落ち着いた雰囲気。
そんな彼に近づきたい女子は居るだろうが、彼は鹿馬高校の不良グループの1人だ。
気安く声を掛けれないと、女子達は遠巻きに見るだけの存在だった。
そんな彼が女子校に居る事で、グランドでクラブ活動している筈の女子達も正門前にやってくる始末。
普段は人の視線を気にしない明だが、流石にこれには居心地の悪さを感じる明。
来たことは間違いだったかと、後悔してしまう。
落とした物を届けるほど親切でもないが、亡くなった母からの「女の子には優しくしないと駄目」の言葉は今も心の中に生き続けている。
勿論世の中の女性全員に対して、それが適用はしない。
この落とし物を無くした事で困っているのでは・・・・そう思ったら、多少の親切心も出る。
「倖田君っ」
ビックリしたような声で、名字を呼ばれる。
その相手に視線を向けると、数日前に華拳高の馬鹿から助けたあの子が居た。
この場に明がいる事が信じられないのか、驚愕した表情で固まっている。
明はその子に近づき、ポケットからキーホルダーを取り出し差し出す。
「ん」
「え・・・これ、拾ってくれてたの?」
不良である相手からの落とし物のお届けに、彼女は更に驚く。
そして顔を真っ赤にして、そのキーホルダーを手に取った。
「ありがとう。友達からのプレゼントだったから、失くして困っていたの」
「なら、落ちないように括り付けるか、接着剤でくっつけとけよ」
冗談か本気はわからない明の言葉に、キョトンとする彼女。
だが次には「うんっ、そうする」と笑顔で返事を返した。
そんな彼女の雰囲気が、昔知り合った女の子と似てると感じた明。
明は毎日のように家に来ていた少女を思い出し、思わずフッと口元を緩めた。
途端に周りから湧き上がる、歓喜の声・・・・そんな正門の様子に異変を感じ、先生方が駆けつけたのは明が去った直後だった。
カチン・・パチン・・・カチン・・・パチン・・・・
明の手元にある、雅が愛用しているジッポーライター。
口に火のついてないタバコを咥えて、ぼ〜としたままジッポーライターを開けたり締めたりを繰り返している。
タバコはフローラに就職が決まった時に止めた。
化粧品を扱う会社には、体の中だけではなく肌にも悪い有害な物は止めたほうがいいと思ったからだ。
今更タバコに火をつけたところで、もう体はその煙を受け付けないだろう。
咳き込んで終わるのが目に見えている。
ただ非常階段に逃げたかっただけ・・・
ワイワイと賑わっている場に、何も感じなくなった自分が居るのは場違いだとそこから去りたかった。
休日のテナントビルはシーンと静まり返っている。
明の手元から発せられる金属音だけが、非常階段に響き渡る。
上着を着てない明の体は、外気の冷たい風に晒されて冷たくなっているがそれすらも明は感じない。
もう全てどうでもよくなった。
そう思えば心の中は空っぽで、何の感情も湧き上がってこない。
倖田の事も、もうどうでもいい。
なんなら、祖母の言うとおりにした方がこの先楽かもしれないとも思ってしまう。
カチン・・・パチン・・・・カチン・・・
規則的に動いていた明の手元から、ジッポーがこぼれ落ちる。
踊り場から下へと落下するジッポーは、途中どこかへぶつかる音がした。
「あ・・・」
明は手すりに身を乗り出し、見下ろす。
弾みで口に咥えていたタバコも、下へと落下していった。
地面に落ちたのかそれともどこかの踊り場に落ちたのか、光る物がないか目を凝らして見る。
「明!!!!」
「!?」
名を呼ばれ、そして背後から抱きかかえられて手すりから離される。
そして勢い余って、2人その場に尻もちをついた。
何が起きたか理解出来ない明に、背中から回された手にギュッと力がこもる。
「そんな・・・そんなに落ち込んでいたなんて」
「っ・・・・」
耳元で聞こえる男の声に、明は胸が張り裂けそうになる。
さっきまで何も感じなかった心に、色んな感情がとめどなく湧き出す。
「飛び降りなんて・・・」
「は?」
「そんなに思い詰めるなんて、ごめん」
「ちげ〜よ!!物を落としただけだ!」
「え・・・」
背後から回された手を、明は無理矢理解く。
そして白田から体を離して、後ろを振り返る。
文句を言ってやると男を睨むが・・・・言葉が出てこない。
何を言っていいのか・・・
勝手に腹を立てて帰って、ムカついた
竜一を庇って、ごめん
追い掛けられなくて、悔しかった
見放されたと、寂しかった
言いたいことが沢山あるのに、男の顔を見るだけで感情が高まり過ぎて言葉に出来ない。
男の手が伸びてくる。
明の頬に手を添えられ、瞳から溢れ出た雫を男の親指の腹が拭う。
来てくれて、嬉しい
言いたい言葉が浮かんだのに、勝手に流れる涙に喉をつまらせて声に出せない。
気持ちを口で伝えられない明は、男の手を払いのける。
そして今度は自分が手を伸ばし、白田の両頬に手を添えると顔を寄せ・・・・
男の唇に口付けた。
【お前が好きだ】
と気持ちを込めて。
69へ続く




