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いつものLINEではなく、初めてのプライベートコールを明にする白田。

ドキドキで掛ける電話に出た明は、少し様子がおかしかった。



55



白田家



夕食の後片付けを済ませ、淹れたての珈琲を手にリビングに移動する。

ソファに腰掛けると、珈琲をローテーブルに置いた。

そして足元に置いてある、マガジンラックから読みかけの本を取り出す。

しおりが挟んでいるページを捲り、目を通す。


「はぁ・・・・・」


やはり、本を読む気分にはならない。

ストーリーは面白いが、どうも集中できないのだ。

昨日も結局1ページ程読み進めるだけで終わった。

今日もパタンと本を閉じて、元あった場所にそれをもどす。

自分の家なのに、妙にソワソワしてしまう。

その原因は解っている・・・・・日富美から渡されたメモ紙。

あの日捨てたメモ紙は、今は白田が愛用している手帳に挟まれている。

結局捨てられなかった・・・・・

明が話してくれるのを待つと決心したにも関わらず、もし明が離れていってしまったら・・・と嫌な想像をしてしまい捨てられなかった。

URLには、まだアクセスしていない。

捨てれずにいるのに、サイトも未だ見ない宙ぶらりんな状態。

一層の事、サイトを見た方が気が楽になるかもしれない。

そう思っても、やっぱり明の口からとの思いが湧き上がる。

グジグジと悩む気持ちを何処かへ追いやろうと、白田はローテーブルの上にあるスマホに手をのばす。

今頃・・・明は何をしてるのかな

普通ならば、家に居る時間だ。

LINEのメッセージでも送ろうか・・・・最近は、何してるの?の意味のない問いかけにも、短い文章で返してくれる。

LINEを教えて貰った当時の時に比べて、かなりの進歩。

『可愛い』とメッセージを送った時は、既読は付くものの暫く間が空く。

それでも『それしか言えね〜のかよ』と照れ隠しで送ってくる。

どんな顔でメッセージを送ってるのかと想像しただけで、胸がキュンキュンとしてしまう。

今日は、電話でもしてみようか・・・

今まで仕事以外で電話をした事が無い。

その時はいつもの、営業モードの他人行儀の明。

プライベートでは初めてだが、ちゃんと出てくれるだろうか。

甘い期待を胸に、白田は明の番号に電話を掛けた。

コール音が耳に入ると同時に、体が緊張し始める。

自分でも驚くほどに緊張している事に、思わず笑いが漏れる。

数回のコール音の後、電話が繫がった。


「明っ」


向こうが何か言う前に、先走って名前を呼んでしまう。


「何?」


「あれ・・・今外?」


電話の向こうから聴こえた明の声の響きが、少し違っていた。

それに微かに色んな人の声や笑い声が、聞こえる。


「そうだけど・・・」


「今、忙しかった?ごめんね」


「別に・・・今、帰ろうとしてたところ」


電話でも相変わらずの素っ気なさ。

いつもの無表情で、話しているのが想像できる。

だが、白田は何か引っかかるものがあった。


「そうなんだ、何処かへ出かけてたの?」


「ボクシングジム」


「あぁ。雛山が言ってた人、居た?」


「居たけど・・・」


やっぱり・・・・・

明が話すのを聞いていると、違和感を感じる。

いつもの素っ気なさとは違う、声の調子。


「ねぇ明、今どの辺にいるの?」


ボクシングジムの場所は知っている、そこから帰る途中。

電車に乗る前か、既に電車で自宅の最寄り駅に着いているのか・・・

それに帰ってる途中ならば、明が歩いていないとおかしい。

わざわざ立ち止まって話す内容でもないのに、電話の向こうの明の声の響きは外と言う割には狭い場所に居るような声の反響の仕方だ。

最初っからずっと同じ場所にいるようで、白田の胸に不安が湧き上がる。


「だから帰るとちゅ・・・・・・・」


「明?」


明の言葉が途中で途切れる。


「あ・・・・」


「明、聞こえてる!?」


小さな明の呻きに、白田は思わず声が大きくなる。

電話の向こうから、明の声が聞こえない。

確かに電話は通じているのに・・・


「何処に居るの!?」


白田はソファから立ち上がるとスマホを耳に当てたまま、壁に掛けてあった上着を手に取った。



******



秋から冬に切り替わる時期。

制服があるにも関わらず学ランを着ずに、年上の彼女が見立てたアウターを羽織っている明。

両手をポケットに突っ込み歩く明の姿に、アーケードの通行人は振り返る。

高校に入ればぐっと男らしくなったが、それでも綺麗に整った顔は【美人】の形容詞がつけられる。

私立高校や女子校からも近いこのアーケードは、学生たちのたまり場。

だがたまに明蛭崎コンビと華拳三年生の抗争が勃発する事もあるが、一年程前に比べればまだ安全だといえる。

何せ華拳高校の生徒はここを我が物顔で歩き、道行く学生に絡んでは金を巻き上げたり、女子高生にはしつこく声を掛けたりと厄介な存在。

それが明と雛崎が鹿馬高校に入学してきたこの年から、それは激減した。

お陰で以前より安全にこのアーケードを訪れ、華拳の生徒と鉢合わせになっても眼中にないとばかりに、他の学生に絡むことは無くなった。

そう思えば、救世主ともなる明と蛭崎。

明の風貌も相まって近くの女子校の生徒は皆、明の事を知っている。

一応不良という部類に入るので気安く声を掛けてくる女子は居ないが、遠巻きに熱い視線を送るだけ。

それに明自身は同年代の女子には興味はない、今まで付き合った女性は全員年上。

大半は女子大生だが、今付き合っている麗子は7つ上だ。

だからどんなに可愛い女子高生が声を掛けてこようが、18禁の遊びは出来るが付き合うのは無理なのである。


〜〜〜〜〜〜〜♪


尻のポケットから聞こえた、着信音。

明は歩きながら、スマホを取り出して通話を開始する。


「明〜〜今どこさ」


「向かってるって、もう目と鼻の先」


「前もそう言って、1時間来なかっただろう」


皆と待ち合わせしている、ゲームセンター。

明以外は全員揃っているようで、催促の電話だ。


「今回はホント・・だ・・・・・・?」


「アキラ〜〜〜どうしたの〜?」


会話の途中で、女の子の声が聞こえた。

普通の話し声じゃなくて、掠れたような・・・。

明はスマホを耳から離して、周囲に聞き耳を立てる。


「や〜〜〜〜〜!!」


ハッキリと聞こえた、悲鳴にもならない掠れた声。

明は声のした方へと足を向ける。

テナントとテナントの間にある路地。

むき出しの室外機とテナントの不要な荷物が放置されている路地に、3人の男子生徒がこちらに背を向けて立っていた。

彼らの影で見えないが、女性の足も隙間から見える。


「おいっ、何やってんだ?」


その背中に声をかけると、一斉に振り返る。

華拳の生徒だ。

そして彼らの前には、怯えた顔の女子高生。

華拳の生徒は明の顔を見て、「倖田だ」と呟いてたじろぐ。


「女に見向きもしてもらえないからって、こんな所に連れ込んで情けね〜なぁ」


「うるせ〜〜!」


明の言葉に、言い返す生徒。

睨んでくる3人に、ゆったりとした足取りで近づく明。

そして自分よりも背の小さな華拳の生徒3人を見下ろし。


「どうする?何だったら、相手してやろうか?」


3対1でも余裕そうな明に生徒はお互いの顔を見て、そそくさと明の脇を通り過ぎて路地を出ようとする。


「あぁ〜そこのゲーセンの前は通るなよ、蛭達が居るから問答無用でボコられるぞ」


そう振り返らずに言う明に、アーケードに出た三人は進もうとした方向から逆に向き直して去っていった。


「あ・・有難うございました」


絡まれていた女子高生は、明にペコリと頭を下げる。

彼女の来ている制服は、この近くの女子校のものだ。

黒いセミロングのサイドの髪を三編みにして後ろで括り、化粧っ気は無いがそれでも目鼻立ちがハッキリとした可愛い顔をしている。

いくらここが以前より安全になっとは言え、一人でウロウロするのは無謀と言える。

あの3人も、こんな女子高生が一人でいる所に遭遇してラッキーだと思ったのだろう。


「別に・・・・お前も、一人でこのアーケードウロウロすんなよ」


「はい」


「あ!!居た!アゲハ〜〜〜あっ、えっ嘘!」


アーケードから女子高生を呼ぶ、同じ制服を来た女子。

明が振り返り、その姿を目にすると驚いたように口に手を当てる。


「倖田君、本当にありがとう」


アゲハと呼ばれた女子高生は、もう一度明に頭を下げてお礼を言うと呼びに来た女子の方へと走って行く。

名乗っていない明の名字を言うという事は、そういう事なのだろう。

彼女も、彼女の友人も明の噂は聞いていたという事。

だが明は特に気にしてない顔で、アーケードへと足を向ける。

そしてその途中に、落ちているキーホルダーに気がついた。

有名なネズミのキャラクターの小さなヌイグルミがついたそれは綺麗で、今しがた落ちたという様子だ。

明はそれを手に取ると、まいったなと「はぁ」と溜息を付いた。






「明、聞こえてる!?」


手にしているスマホから、白田が呼ぶ声がする。

だが、明の耳には入っていない。

ただ・・・・暗い路地の奥をじっと見つめている。


ここは真木サナギ 亜蝶アゲハと初めて会った場所だった。



56へ続く

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