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54

祖母に会ってから、切った筈の昔の繋がりが再び結ばれていく。


54



太陽がなかなか沈まない夏。

セミの声も落ち着いた夕方に、住宅街の一角にあるコンビニの駐車場に竜一は居た。

車止めを椅子代わりにして座っている高校生は、人相も悪くコンビニを使用する人は目を合わせようとしない。

気だるい暑さの中アイスを齧っている竜一に、コンビニから出てきた少年が歩み寄る。


「お前のところ、中間いつからだ?」


プシュッと500mlの炭酸飲料のボトルを開けながら、竜一に声を掛けるのは明。

遠目から見れば2人は同じ高校に見えるが、シャツの胸ポケットの刺繍は別高だと表している。


「5日後。お前の所は?ってつってもバカ高だから名前書きゃ終わりだろうな」


「バカにすんな」


ヒヒヒと笑う竜一の足をコンと蹴る明。


「知ってるさ。姉貴が、お前わりと頭いいって言ってたしな」


「まぁ、赤点は免れるぐらいはな」


「・・・・何であんな高校入ったんだ?お前ならもう少し上の高校行けただろう〜」


既にアイスを食べ終え、残った棒をガシガシと噛みながら、突っ立っている少年を見上げる。

こんなに暑いのに、彼はそれを感じさせない涼しげな雰囲気だ。

あの馬鹿ばっかの高校にも不釣り合いな、飛び抜けて整った風貌。

いくら喧嘩が強く悪い奴らと一緒に居ても、彼だけは家柄のせいか品がありいつも浮いて見えた。


「蛭が鹿馬に行くっつ〜から・・・」


蛭・・・蛭崎、明の悪友だ。

何かにつけて、竜一に喧嘩を吹っ掛けてくる。

さほど相手にしていないが、華拳の生徒にも手当り次第難癖をつけては、力を見せつける暴力にうんざりしている。

ただの暴力好きの蛭崎に、何故明がこれほど付き合っているのか竜一は理解出来なかった。


「少し、距離をとったらどうだ?」


「何で」


「お前を慕ってついてくるヤツも居るだろうに、あいつと一緒に居なくても・・・・・・」


大きなお世話かもしれない。

竜一とぐっと距離を縮めたのはここ最近の事、中学から一緒だった2人の方が長い付き合いだ。

それでも・・・都合よく利用されているようで、見ていて心配になる。


「あいつだけなんだよ・・・・オレの顔の事言わなかったの」


ボソリと話す明に、竜一は黙ってその綺麗な顔を見ていた。


「別に言われて嫌なわけじゃない、昔からだったから慣れてるし。だけど誰かが、オレの顔を弄って言った言葉にあいつは『顔なんて関係ないだろう』って言ったんだ。今までそんなヤツ居なかったから、ビックリして・・・・んで、めっちゃ嬉しかった」


明の言葉に、竜一は思わず頭を抱える。

姉もそうだが、竜一も明の顔の事を平気で口にだしていた。

嫌なわけじゃないと言っておきながら、心の何処かで快く思っていなかったのかもしれない。


「わりぃ・・・」


「キモチワル〜〜」


謝らずに居られなかった竜一に、明は笑いながらそう返した。


「何だよ、ちょっと反省したのによ」


「そういうのが気持ち悪いんだよ。綺麗なのは真実なんだから、もっと言っても良いんだぜ」


「う〜わ〜。お前こそ、気持ち悪ぅ」


高校も学年も違うが、2人は昔から友人だったかのような距離感。

同じ高校の生徒から目を盗んで会うのは、お互い遠慮のないやり取りが心地いいから。

竜一は、この関係がずっと続くものだと思っていた。

これから先、進む道は違うかもしれないが・・・・・大人になっても、姉と明そして自分も今と同じように笑い合っている事を望んでいた。



******



明は竜一と再会を果たし、ジムを後にした。

駅までの道のりを、ポケットに手を突っ込みながら歩く。

そして先ほど竜一と連絡先を交換する時に、LINEの通知があったのを思いだした。

いつも入れている尻のポケットを探るも、スマホは無い。

咄嗟に違う所に入れたかと、歩きながら胸ポケや内ポケも探る。

無い。

最後は鞄だと、肩に掛けている鞄に手を突っ込みながらガサガサと探り、スマホの感触にそれを掴み引き出す。

その時に、コツンと地面に何かが落ちる音がした。

明は立ち止まると振り返り、地面の上に定期入れが落ちているのを確認する。

もと来た道を戻り、身をかがめてそれを拾う。


「・・・・・・・」


そのまま何事も無く、鞄に定期入れをしまい。

駅に向かって再び歩き出す。

このまま真っ直ぐ大通り沿いに進めば、駅が見えてくるはず。

だが明は、差し掛かった曲がり角で曲がり、そして走り出した。

細い道の路地は小さな飲み屋が並び、店探しでウロウロしている人々がいる。

その人達を避けて走る明。

背後から追いかけてくる足音を耳にすれば、自分の勘は間違っていなかったと確信した。

定期入れを拾う為に振り返った時に、視界に入った通行人。

ジムに向かう時に、見かけた人間によく似ていた。

偶然と言えば偶然なのだろうが、逃げるように走る明の後を追ってくるという事はそういう事。

つけられている・・・・

明は路地を抜けると、商店街通りのアーケードに出る。

サラリーマンに混じって、学生服の人間も多く居る。

明はその人混みに紛れるように、歩き出し・・・・・明かりが届かない換気扇がむき出しの路地へと体を滑り込ませた。



55へ続く

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