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白田と明は、サラリーマンらしく居酒屋にいた。
そこで白田は、以前から不思議に思ってた事を明に訊いた。
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居酒屋
仕事帰りのサラリーマンで賑わっている、至って普通の居酒屋。
四人がけ席に向かい合って座る、白田と明。
手元には既にアルコールとお通しが運ばれ、乾杯を終えたばかりだった。
「大変だね、営業部と企画部の両立」
「ん〜〜・・・別に仕事は嫌いじゃないから、忙しい方がやり甲斐あるし」
小鉢に入った枝豆をもぐもぐと食べている明。
白田とこうやって飲むのは、初めてあった顔合わせ以来。
勿論明が仕事中のフスカルは、カウントに入ってない。
常に忙しなく明が動いているし、他のお客とも絡みがあるので2人で落ち着いて会話をする事がないからだ。
「前から不思議に思ってたんだけど・・・・訊いていい?」
「何・・・・」
何を訊かれるのかと、戸惑う明。
「大学卒業して、すぐにフローラに入社したんだよね?」
「ん」
コクンと頷く明。
「どうして化粧品会社に?フローラは高級化粧品として大手だし、男性ではなかなか入社は困難だと訊いたことがあるんだけど。よっぽどの志願理由があったのかなって」
「・・・・・・・・・」
白田の質問に、険しい顔をして黙る明。
だが枝豆を食べる動作だけは、止めない。
ひたすらもぐもぐと食べ続ける明に、白田は訊いちゃいけなかったのかと苦笑い。
「ごめん。話題変えようか」
「親父、禿げてるだろ」
「え・・・太郎さん?」
「親父の家系遡っても、爺婆全員ふさふさなんだよ」
「そ・・・そう」
髪の毛の話はデリケート。
白田はハッキリと太郎は禿てますとは言えず、困った表情だ。
「親父のハゲの原因はオレだから、今の会社で良い育毛剤開発して毛根復活してやりてーの」
そう面接の時に言ったら、その場に居た面接官達に爆笑された。
笑っていなかったのは、梅沢と営業部の上司、そして社長だった。
笑われたことに頭にきて怒鳴ってやろうかと立ち上がった時、社長の一声に笑った者たちが青い顔をしたのを覚えている。
『私の母は顔に火傷の痕があってね。子供の頃私を庇って熱湯をかぶってしまったんだよ。全く化粧をしなくなった母に、女性らしく化粧してほしいとこの会社を立ち上げたんだよ』
社長の母親はもう高齢だが、朝マックを持って社長宅に突撃する時はいつも美味しい珈琲を淹れてくれる。
そして皺々になっても、フローラの化粧品で毎日欠かさずメイクをして女性らしさを忘れていなかった。
社長は世の中の女性の事よりも、母の為に信念を持って仕事をしている。
だから親を思う明の言葉を、笑わず聞いてくれたのだろう。
なら白田はどう思ったのか・・・・明は目の前に居る男がどういう反応をするか、ジョッキに入ったビールをごくごくと飲みながら視線を向けた。
「鍋の時から思ってたけど・・・明って、お父さん思いだよね」
ニッコリと笑いながら白田は言葉を続ける。
「太郎さんが遠慮して野菜しか食べてなかった時、殻から取り出した蟹身を太郎さんの器に入れたり。後片付けの時も、太郎さんに何もさせなかっただろ?。それに・・・洗面所で見つけたんだ。前に明が言ってた百舌鳥さんがデザインした男性化粧品。あれも明が定期的に購入してるんじゃないのかなっ。太郎さん肌ツヤは凄く良かったから、続けて手入れしてるんだと解ったよ」
あの時は、会話が無かった2人。
それなのに白田が見ていてくれた事が嬉しくて・・・・そして恥ずかしい。
太郎と外出する時は、明の口の悪さから周りの人間は勘違いする事が多い。
白田が見ていた時も、明は一言二言暴言に近い言葉を発しているはずだ。
それでも男は、言葉の裏の意図を汲み取ってくれていた。
「太郎さんが、ちょっと羨ましいなって思ったな」
「親父が!?何で」
「明に大切に思われて。なんてね」
白田の言葉にかーと顔が熱くなるのを感じ、誤魔化すようにジョッキのビールを一気に飲み干す。
そして近くにいた店員に、「ジョッキ3つお代わりと、赤ワイン一本」と注文。
「え・・・明、一気に頼み過ぎじゃない?」
「全部飲めるから大丈夫」
「お酒強いのは知ってるけど・・・・・」
本当は白田が思うほど、お酒に強くない。
いつも外では気合で酔を抑えている。
どんなに飲んでも顔色もそのまま、足取りも普通。
少しだけ気持ちが楽しくなるぐらいで、人に迷惑を掛けたことはない。
ただ家に帰り、玄関に入ったと同時に一気に酔いが回る。
部屋までたどり着ければ、まだいい方。
玄関で事が切れていると、太郎では明を持ち上げることが出来ず、布団を掛けられた状態で玄関で朝を迎える。
そんな明を知らない人間は、酒豪と勘違いしてもおかしくない。
白田の言葉の一つ一つや、笑いかける表情や仕草にドギマギしている明は、お酒の力でこの場を乗り切ろうと頼んだお酒を水の様に飲んでいく。
「そうだ。今週の日曜日、応援に来てくれるんだってね」
「?」
「あれ・・・もしかして、桜庭さんから聞いてない?」
「由美?」
明は、そう言えばスマホの通知音が鳴っていた事を思いだした。
後で確認しようと忘れてたのだ。
鞄からスマホを取り出し、画面を確認すれば【よしよし】からLINEのメッセージが入っていた。
「あぁ、何かきてた」
「今週の日曜に社会人サッカーの試合があって、桜庭さんが明と応援に行っていいか訊かれたんだ」
「試合出てるのか?」
「うん、出てるよ。明、来てくれる?」
「・・・・別に、何の予定も無かった」
ハッキリと行くと言えばいいのだが、歯切れ悪く返す明。
それでも男には「行くよ」と伝わったのか嬉しそうに顔が綻び。
「今回はかなりの手強い対戦相手だから、正直勝てる自信が無かったけど。明が応援してくれるなら、負ける気がしないよ」
トクンと明の胸が高鳴り、そして甘い疼きすら感じる。
何でこの男は、こんな顔でこんな事を言うのか。
やっぱり自分に恋心を寄せているのだろうか・・・・
そうだったとしても、以前同様に何故自分にと疑問が先に立つ。
そして自分もまた、男に恋心を抱いている・・・・・コントロール不可能な感情に支配されている事を思えば、そうなのかもしれない。
だがここでも、この男の何処に惹かれたのだろうか・・・・と疑問を持つ。
普通はここまで気がつけば、両思いだ!なら気持ちを伝えよう!となるだろう。
しかし明はそうは思えず、そもそも「恋」って何だ?と根本的な事に疑問を持ちはじめた。
いくら白田が気を持たせるような態度をとっても、相手が明では「恋人」までの道のりはまだまだ遠いかもしれない。
42へ続く
27歳にして「恋」ってなんだって考える男・・・どうなんだろう




