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明が双葉広告代理店に来社する予定の日。
ランチを楽しみにしていた白田は・・・・ガックリと肩を落とした
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双葉広告代理店
本日は什器デザインの、二回目校正の進捗確認の日。
予定では、明が双葉へ来社する。
が、現れたのは申し訳無さそうな表情の由美。
営業部で大きめのクレームが入り、明にヘルプ要請がきてしまい彼は今日一日営業部に貸し出す事になった。
今頃は名古屋行きの新幹線に乗っている筈だ。
なので由美も、スーツではなく私服での来社である。
辛うじてロッカーにジャケットを置いていたので、来社しても失礼なラフ過ぎる格好ではない。
「え・・・愛野さん急用で来れないんですか・・・」
「そうなんです。本当に申し訳御座いません」
「まぁ二回目の校正の確認ですし、愛野さんが来られなくても大丈夫でしょう。ね?白田君」
代理で来た由美に、問題ないですとニコニコ顔の雀野。
だが白田はそう思ってないのだろう、由美の目から見ても落ち込んでいるのは一目瞭然。
いやいや・・・そんなあからさまにガッカリされると傷つきますよ。ダビデ様
由美はそんな男に、苦笑するしかない。
草井が非常識な態度をとっても、社会人として臨機応変な対応をしていた白田。
だが明が来なかっただけで大人の余裕はどこへ・・・・全身から残念オーラが溢れ出ている。
ミントが香る笑顔を封印してしまった白田をおいて、由美は現在まで仕上がっているデザインの確認を行った。
時間にして30分程で、変更点やこれからの確認事項等の打ち合わせも終了。
雀野と別れ、見送りのために白田は由美と共にエレベーターに乗った。
「本当にごめんね。愛野君来れなくて」
「いいえ、桜庭さんでも問題なく進行できるので大丈夫ですよ」
「なら・・・何であんなに残念オーラ全開だったの?」
「え・・・そんなに、出てました?」
「出てたわよ〜〜」
「すみません・・・彼とランチの約束をしてたので・・・」
ランチデートが出来なかったから、あんなに落ち込んでいたのか・・・さては、昨日からワクワクドキドキしていたな。
由美は緩みそうになる口元に、きゅっと力を入れる。
「そう言えば、今週の日曜日。社会人サッカーの試合があるって雛山君から聞きましたよ〜。相手は、大手文房具メーカーと対戦するって」
「あぁ、そうなんです。今回はかなりの強敵になりそうで、皆も気合が入ってますよ」
「応援に行ってもいいですか?」
「え・・・・」
「部外者でも観戦出来るって聞いたので、愛野君と私の友人も一緒に応援に行こうかなって。白田さんがOKな・・」
「是非!是非きてくだい!!」
由美が言い終える前に、ずいっと一歩乗り出し食い気味に誘いを掛ける白田。
先ほどまで忘れていた笑顔を思いだしたかの様に、男の表情はこれ以上ないほどに嬉しそうだ。
甘いチョコを散りばめたミント香る白田の笑顔に、由美はくすくすと笑いを漏らした。
******
その日の夕方
「あのですね、本当に予定がありまして」
「これっこれっ、この前付けてくれたミニサイズが出たのよ〜」
双葉広告代理店の近くに店舗を構える、化粧品雑貨店。
働く女性が多いこのビジネス街では、かなり役立っているお店。
女性が必要な物を所狭しと置いてあり、買い物の時間がない女性や、急遽出張等の女性にも喜ばれる品揃えだ。
元々フローラの高級化粧品はこの店には合わない商品だったが、営業部の頃に明が飛び込みで契約を掴んだ取引先だ。
新商品のサンセールも、発売と同時に専用のコーナーも設置する契約を取り次いでいる。
それに既に予約も開始され、雛山が考えたデザインのポスターが店内に貼られていた。
そして明は丁度この店の前を通ったところを、担当のミシェルさんに見つかり引きずりこまれたというわけで・・・
営業マンにまで商品をお勧めする、販売の鏡のようなミシェルに苦笑しか出ない。
ミシェルがオススメしているのは、以前明の首元に吹きかけた香水。
雛山が気づき、明に似合う香りだと言っていたものだ。
男女兼用の、甘すぎずさっぱりし過ぎないユニセックスな香り。
以前も勧められたが普段は香水など付けない明は どうせ埃を被るからと断った。
だが100ml容器オンリーで売りに出さていた香水は、30mlも販売開始をしたそうで・・・ミシェルはそれを明にどうしても売りつけたい様子。
彼女も相手が似合わない、相応しくないものは勧めない。
雛山が感想を述べたように、この香水の香りが明にピッタリだと思って勧めてくれているのだろう。
それでも・・・香水類は付けない派の明は、サイズが小さくなったところで自分には必要ないと感じてしまう。
時間的にもう外に出たい明だが、粘られるより買った方が事が運びやすいと思った。
しかし値段がお安くない。
ミニサイズだからといって、有名な海外ブランドだ。
30mlで8000円。
時計を買うために、要らぬ出費を抑えていた明には厳しいものがある。
買うか・・・買わざるべきか・・・
そう悩んでる時間が惜しい。
「解りました、か「えっあれって・・・・」?」
ミシェルが何かに気付いた様に、店舗の出入り口に視線を向けている。
そして店内に居た他の従業員も、ざわめき出した。
「?」
明は何だろうと、皆が夢中になって見ている入り口に顔を向ける。
両開きのガラス扉になっている、向こう側。
そこに白田が立っていた。
店内に居る明と目が合うと、ニッコリと笑う。
「やだっ。愛野さん知り合いですか!?」
キラキラと輝いている瞳を向けるミシェルに、明はピンと来た。
双葉の会社が道路を挟んだ向こう側にある、きっと外を通り過ぎる白田にこの店の人間は憧れの目で見ていたのだろう。
フローラで彼に代名詞が付いているように、ここでも似たようなイメージの代名詞があるはずだ。
「彼と約束してるので、失礼しますね。また後日、顔を出しますので。では、失礼いたします。」
有無を言わさないように、相手の言葉を遮断する勢いで口にするとクルリと方向転換してさっさと店の外へと出る。
そしてミシェルが追いかけて来るかもと言う恐怖に、白田の腕を掴み駅の方へと結構なスピードで歩き出す。
「え・・・仕事中じゃなかったの?」
「捕まっただけ。逃げるぞ」
「愛野さ〜〜ん、また今度〜〜。今度は絶対買ってくださいねぇ〜〜〜」
案の定、店の外まで追いかけてきたようだ。
背中に聞こえるミシェルの声に、振り向く白田。
「振り返るなっ、目を合わすなっ」
「ぷっ・・・どうして?」
ある程度店から離れると、明は歩く速さを緩めた。
「はぁ・・・営業のオレにまで、色々売ろうとするから」
「販売員の鏡みたいな人だね」
「そう褒めたら、更にしつこく売りつけられるぞ」
「さっきも何か、売りつけられてたの?」
「香水だよ。この前ムリクリ吹きかけられたヤツ」
「あぁ・・・・凄くいい匂いだった。明にとても似合ってたよ」
「っ・・・・・・」
白田の言葉に、ドクンと心臓が脈打つ。
そして気恥ずかしさが込み上げてきて、明は男を見れなくなる。
「急用が出来たって聞いたけど、この近くだったんだ」
「違う・・・」
「ん?」
「さっき東京戻ってきた・・・・・その・・」
ここに来た目的を口にしようと、明は足を止める。
白田も数歩前で足を止め、明を振り返る。
「ランチ・・駄目に・・・・悪いと思って・・・」
「え・・・・」
「夕飯・・・・・・」
少し片言になっている明。
心臓が故障しているかと思うほどに、バクバクと激しく脈打っている。
これが雛山は由美ならば普通に言える事でも、相手が白田だと色んな感情が主張し始める。
日富美が言った「恋」その言葉を意識してからは、特に心臓がおかしくなる。
ただLINEのメッセージを彼に送ろうと、送信ボタンを押すだけで一時間掛かるほどに悩む。
ラジオから流れるラブソングに「恋」の歌詞が入っているだけで、過剰に反応してしまう。
本当はランチが行けなくなっただけでは、ここに来ない。
東京に戻ってきた足で、白田に会いに来たのは・・・・本当にこれが「恋」なのか確かめたかったからだ。
明は黙っている男の顔をチラリと見る。
片言でも言っている内容は解ってくれていると思ったが、男は驚いた顔で固まっている。
あれ・・・伝わってない・・・
「これから飯にでも・・・・・」
今度はちゃんと伝わった筈だと、男の反応を待つ。
だが白田は、動かない。
もしかして、断る理由を考えているのか?
そう思えば、拒否される言葉を聞きたくないと「用事あるならいい、じゃぁな」と歩き出した。
白田の横を通り過ぎる瞬間に、男に腕を掴まれて引き止められる。
「ない!予定ないから!ご飯・・・・行こう」
蕩けるよな笑顔でそう言う男に、明は顔が熱くなるのを感じた。
41へ続く
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