純情キャラ
27日目 攻略10日目
「よし、行くぞラプラス」
深夜、いつもと同じように起き上がった俺はラプラスにそう言った。
《……いくの? ほんとうに? あぶなくない?》
「まあ、絶対に大丈夫だって断言はできないけどな。それにしても警戒しすぎじゃないか?」
《……んー、しんぱい》
「なんだ、もしかして俺のこと心配してくれてるのか?」
《……ほかにだれがいるの?》
「そっか。悪い悪い。ありがとな心配してくれて」
《……いいよー、とうぜんのことだからねー。でも……いくの?》
ラプラスが首を傾げながら聞いてくる。
多分……いや、間違いなくユリスを警戒してるんだろうな。
その気持ちは分かる。俺だって完全に信用したわけじゃないからな。
昨日会ったばかりの謎の少女を無条件で信用できる程、俺は人間ができてないからな。
「それでも、『また明日』って約束したからな。行かなきゃユリスに悪いだろ?」
《……そうだけどー》
俺は納得がいかないという表情をしたラプラスの頭をそっと撫でる。
「大丈夫だって。何かあれば全力で逃げるから」
《……ほんとうに?》
「本当にだ」
《……ん~、やくそく》
「ああ、約束だ」
《……ん》
俺だって何かあれば逃げるさ。それこそ全力でな。
でも、あいつはそんなに悪い奴には見えなかったんだよな。
まあ俺の人を見る目がとりわけ良いという事もないから断言はできないけどさ。なんとなくそんな気がするんだよ。
もしもユリスが悪い奴だった時は、まあその時はその時だな。
俺はそんなことを思いつつ、転移ポータルを使いダンジョンの10階層へと向かった。
◆◆◆
10階層へと入ると、そこには転移ポータルの端に腰掛けたユリスの姿があった。
ユリスは俺が来たことに気が付くと、振り向きながら手を上げる。
「おお、ホント―に来たんだな。しょーじき来ねーかと思ってたぜ」
「なんだ? 来ない方が良かったのか?」
「そんな訳ねーよ。これでも楽しみにしてたんだからな」
「楽しみに、ね~。アレのどこが楽しいんだか」
「別にいーだろ? あたしが楽しいって言ってんだからよー」
「まあ、それもそうだな。それじゃあそろそろ始めるか」
「おう!」
元気良く返事をするユリス。
さて、行くか!と思ったところで、俺はあることを思い出した。
「ああ、その前に一ついいか?」
「おう? どーしたよ?」
俺は首を傾げるユリスに聞いた。
「お前、20階層には来られるか?」
「20? まー、行けっけど……それがどーかしたのか?」
「まあな。俺たちパーティーな、昨日で20階層までの攻略が終わったんだよ。だから近いうちに実験場所を20階層に変えようと思ってさ。この辺りで出てくる魔物にもそろそろ飽きたからな」
「つまりアレか。次からは20階層に来いってことか」
「ああそうなる」
「ったくよー、こんな幼気な少女にそんな危険な場所に来させるのか?」
「幼気な少女はこんな深夜に10階層に来たりしねーよ。それに、」
「それに?」
「お前って強いんだろ?」
俺はニヤリと笑いながらそう言った。
その言葉を受けたユリスも同じようにニヤリと笑う。
「まーな。あたしに掛かれば20階層ぐらいわけねーよ」
「そう言うと思ってたよ。それじゃあ明日からよろしく」
「おっけー。……あー、あたしも一つ聞いていー?」
「なんだ?」
「自分で言うのもなんだが、あたしってめちゃ怪しいじゃんか」
「へ~、自分で気付いてたのか」
「そりゃーな、自分でもわかってんよ。でもよー? そー言うってことはオーギも怪しーて思ってるっつーことだろ? だってのにどうしてあたしに構うんだ? 警戒すんのがフツーだろ?」
《……たしかにー》
一緒に聞いてくるラプラスのことはとりあえず無視しよう。
まあ、そりゃあそうだよな。そこに疑問をもつのは当然だ。
俺だって逆の立場なら同じことを聞いただろう。
しかしな、俺はそいつのことを何も知らないのに自分勝手に評価する、って言うのは間違ってると思うんだ。
確かに第一印象は大事だ。だが所詮は第一でしかない。
これから先第二第三と会っていくとしたら当然印象は変わってくるだろう。
それが良い方向か悪い方向かはわからないが、第一印象だけで決めつけるよりははるかにマシだと思う。
それに、はっきり言って良いも悪いもどっちでもいいんだよ。
「まあ、怪しかろうが何だろうが、ユリスであることに変わりはないしな。俺自身も問題ないって思ってることだし。それに、ユリスと一緒なのも楽しいからな」
「んん~? それってつまり楽しーからってこと? まだ会って二日目なのに?」
「ま~、そうなるかな」
「ふ~ん、そっかそっか。あたしといると楽しーか。なるほどな~」
「どうしたんだよ?」
「べつに~? なんでもねーよ?」
「はぁ……」
どうして急に上機嫌になったのかはわからないが、まあいいや。
「というか、お前こそいいのか? 俺もかなり怪しいだろ? その辺女の子としてどうなんだ?」
「あたしがオーギに襲われるっつーことか?」
「いや、まあ襲いはしないけどな。例えばの話だよ」
「う~ん、そーだなー」
手を顎に当てながら考えているユリス。
これは例えばの話だが、あったかもしれないことだ。
もしもユリスとあったのが俺じゃなかったら十分にあり得るだろう。ダンジョンに潜るロリコンがいないとも限らないからな。
ユリスも女の子なんだし、その辺どう考えてるんだろうな。
「まー、襲いたいなら襲えばいーんじゃねーか? ばっちし返り討ちにしてやっけどな」
ユリスはそう言いながらにこやかに肩をまわした。
「おお、それは怖いな。気を付けるとするよ」
「ま、どーしてもって言うんならたまにだったら相手してやってもいーけどな」
「え?」
《……え?》
ユリスの一言を聞いて俺とラプラスは愕然とする。
そして聞き返す。
「えっ、いいの?」
「いいぜ。でも事前に言ってくれよな。しょーめんから受け止めてーから」
「お、おう」
こいつ正面派だったのか。これはいいことを聞いたな。今後の参考にするとしよう。
って、そうじゃないな。
「嬉しいけど、もっと身体は大事にしないとダメだぞ?」
「うん? あたしの心配してんだったらそれは不要だぜ? すぐに回復すっから」
「すぐに回復するのか」
「ああ、連戦もいけるぜ」
「おお凄いな」
「だろ? 日頃から鍛えてっからな」
見た目普通の……いや、服以外は普通の少女なのに旺盛なのか。日頃から鍛えてるのか。
うむ、悪くないな。これがギャップ萌えってやつか。
…………でもなんだろう。何か違和感があるな。これってもしかして、まさかとは思うが勘違いしてるとかじゃないよな? まさか、まさかな。そんなことあるはずが――――――念のため聞いておくか。
「なあ、変なこと聞くけど、何をするんだ?」
「えっ? 決闘だろ?」
……まあ、そんなとこだと思ってたけどね。うん。思っていましたとも。別にがっかり何てしてないよ? 当然だろ?
さて、どうするかな。訂正しておくか、それともそのままにしておくか。
いや、ここは訂正しておこう。もしもわからずに事件にでも巻き込まれたら申し訳ないからな。
「あ~、そのな? ユリス、ちょっと耳を借りていいか?」
「別にいーけどよ、どーしたってんだ?」
「いいからいいから」
俺はチョイチョイと手招きをしてユリスにごにょごにょと耳打ちする。
するとユリスの顔はみるみる赤くなっていった。
「な、な、な……っ!」
「あー、何というか、その……大丈夫か?」
「ばっ、ばっかお前! そんなのあ、あったりまえだろ!? 当然知ってたぜ!? 知ってたんだからな!?」
「はいはい、わかってるって」
赤くなっちゃってまぁ。
ユリスって純情キャラだったんだな。
《………………おーぎ? だめだよ?》
「わ、わかってるって」
《……ほんとう? うそじゃない?》
「嘘じゃない嘘じゃない」
《……ん、しんじる。それと、したいならわたしがしてあげるよ?》
「いや、ダメだろ」
《……ぶー》
俺がそう言うと頬を膨らませて拗ねてしまった。
そんな姿も大変可愛いのだが、それを言うとさらに拗ねてしまいそうだから言わない。
「まあ、とりあえず今日の分の実験を始めようか」
俺は未だに顔を真っ赤にしてあうあうと言っているユリスに声をかける。
「そ、そーだな。うん。始めっか」
「おう」
そう言いながら、俺とユリスはボス部屋へと向かった。




