昆虫型の魔物は勘弁してほしい
《扇、あの女には気を付けたほうが良いよ》
いつも通りダンジョンに潜っていると珍しく《超高度AI》モードのラプラスがそんなことを言ってきた。
「あの女って、もしかしてユリスの事か?」
《そう》
やけに真剣な顔だな。珍しい。
「どうしてそう思う?」
《あの女、物凄く強いよ。それこそ扇以上に》
「へ~」
確かに強いのは分かってた。
10階層にいたという事はボスを倒したという事だ。
それなりに強いだろうとは思っていたが、俺以上か。
にわかには信じられないが、ラプラスが言うんなら間違いないんだろうな。
「それで、どのくらいだったんだ? したんだろ? 《鑑定》」
《うん。結果は[測定不能]だったよ》
それを聞いて思わず立ち止まりそうになる。
俺は《超高度AI》の《鑑定》で[測定不能]と表示される者をたった一人しか知らない。
そう、俺の知る限り[測定不能]と表示されたのはたった一人――――――アイルΔだけだった。
「ユリスがアイルと同じ[測定不能]? 何かの間違いじゃないのか?」
そんな簡単に信じられるわけがない。
アイルはただの天使ではない。最高位天使だ。
ラプラスに聞いた話だと最高位天使とは、最も位の高い天使だそうだ。
天使の位はその実力に比例する。
下位天使から始まり、中位天使、上位天使、高位天使、そして――最高位天使。
最高位天使レベルの実力ともなれば、神々にすら匹敵すると言われている。
そしてラプラス曰く、高位天使までは《鑑定》できるらしい。
なんだかんだ言って《超高度AI》も準とは付くが”神の権能”なのだ。
そんなラプラスが[測定不能]という事はそれこそ神か、アイルと同じ最高位天使という事になる。
はっきり言って、そんなレベルの連中がそこら辺にいるとは思えない。というか思いたくない。
《ん、見間違いじゃない。確かに[測定不能]だった。私の記憶能力は完璧》
「だよな……」
そんなことは俺が一番わかっている。
他でもない俺の”権能”だからな。
「わるい。ラプラスの力を疑ってるわけじゃないんだ」
《ん、わかってる。問題ないよ。ただ、一応気を付けてね》
「ああ、わかった」
そんな会話をしつつ歩みを続ける。
今いるのは18階層だ。
出てくる魔物は主に昆虫型。カマキリやカブトムシ、蠅や蜂、蛾なんかが大量に出てくる。
さすがに台所にいる黒光りするアレが出てきた時は本当に精神的に死ぬかと思ったよ。
だってあいつら魔物になって巨大化してんだよ! 1メートルくらいだった! それが30匹ぐらいの集団でカサカサと襲い掛かってくるんだからもう……ね。
正直に言って、この世界に来て初めて転生したことを後悔したよ。
こんな階層はさっさと脱出しなければならない。じゃないと精神的に死ぬ。本当に死ぬ。
そんな事を切に願っていると、ついに19階層へと続く階段を発見した。
ようやくこの地獄の階層から解放される! 俺は嬉しくなり少し早歩きになりつつ階段を下りた。
…………。
…………………………。
……いや、なんとなくね、そんなオチかな~って思ってはいたんだよ。
でもね、現実にオチなんていらないと思うんだよ。
もう勘弁してほしい。誰だよ? ダンジョンにこんな悪魔の階層を作った奴は?……ってアリスか。ごめんアリス。今回だけは文句を言わせてもらいたい。
ホント勘弁してくれ。
俺は目の前に現れた魔物を見て心底そう思った。
「「「キギャ――――――ッ!!!」」」
目の前に現れたのは巨大なムカデのような魔物だった。体長約7.5メートル、数3匹。どう見ても昆虫型。どう見ても虫。しかも結構グロいやつ。
「はぁ」
思わずため息をつく。
この階層も昆虫型の魔物なのか。
はぁ、いやだいやだ。気持ち悪い。
Gじゃなけりゃあいいってもんじゃないんだよ。虫は等しく嫌いなんだよ。しかも次は俺の番だし。
もうそろそろ順番決めて倒すのやめない? 魔物もそれなりに強くなってきたしさ。
19階層の初め。攻略スタイルを変えるとしたらちょうどいいタイミングだと思うんだよ。
「と言う訳でどうだろうか?」
「ダメに決まってるでしょ? 変えるとしても21階層からよ」
「ですよね~」
それじゃあ遅いんだけどな~。
まあ、仕方ないか。諦めよう。
今考えるべきなのは如何にして瞬殺するかだ。
それもただ瞬殺すればいいというものではない。あいつらの血、と言うか体液は出させちゃダメだ。だって気持ち悪いから。あと声もダメ。虫の断末魔なんで聞きたくない。気分が悪くなる。
そうなると手段は限られてくる。
だが、大丈夫だ。俺に掛かれば何も問題はない。なぜなら俺はすでに昆虫型の魔物の対処法を確立しているからだ。
「【睡眠弾】」
そう言うと、周囲に三つの水色の玉が浮かぶ。
俺はそれを勢いよく撃ち出し三匹の巨大ムカデに命中させた。。
すると巨大ムカデはゆっくりと地に伏した。
別に殺したわけではない。ただ少し眠ってもらっただけだ。
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【睡眠弾】:圧縮した睡眠効果のある毒の弾を造り出す能力。触れた対象を眠らせることができる。圧縮すればするほど即効性が増す。圧縮できる睡眠毒の量は込めた魔力量に依存する。非致死性。
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つまり強力な睡眠薬だ。それも遠距離から弾丸として飛ばすことができる。
即効性は見ての通り。7メートル越えの魔物が一瞬で眠るレベル。
さて、わざわざ眠らせてどうするのかって? それはな、こうするんだよ。
俺は《創造主》で手袋を創造し、それを着けた状態で巨大ムカデに触れて”能力”を発動させる。
「【石化】」
そう呟くと同時に巨大ムカデの身体が触れていた場所から順に石へと変化していく。
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【石化】:触れた対象を石へと変化させる能力。
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この”能力”の弱点は触れなければならないこと。だが、そこは我慢だ。
わざわざ眠らせたのだ。あとはその一点を我慢するだけですべてが終わる。
体液も見なくていいし、断末魔も聞かなくていい。しかも死体の処理が楽ときた。
俺は大を得るために小を切り捨てる。
と言っても直接触れているのはほんの一瞬だ。
何故なら触れた場所から石化していくからな。
ただ、どちらにせよ触れることに変わりはないので嫌なのだ。
そんなこんなで一匹目の石化が終了する。大体かかった時間は5秒だ。速いようで遅い微妙な数字だな。
俺はちゃっちゃと残りの二匹も同じように石化させる。
そして《創造主》を発動させ特大のハンマーを創造し、巨大ムカデへと振り下ろす。
それを粉々になるまで続けたら討伐完了だ。
ふぅ、良い汗かいたぜ!
後ろでアイル以外の3人が微妙な顔をしているが知ったことではない。
これが安定しているのだから仕方がないのだ。
そんなことを思いつつ攻略を再開する。
結果として今日はボス部屋の攻略までを終わらせることができた。
と言うか俺がさっさと終わらせたのだ。一刻も早くこんな地獄の階層から出たかったからな。
ボス部屋はモノのついでだ。その方がきりが良いし転移ポータルを使った方が早く帰れるからな。それに元来た道を帰るのも嫌だし。
そう言うわけで、俺たちは20階層までの攻略を終え、町へと転移した。




