VS ガチムチ
序列戦を申しまれた時から2時間が経過し、俺は第1闘技場でガチムチ大男と向かい合っていた。
これが美少女ならまだ救いはある。が、ガチムチ大男とか誰得だよ。
せめて藤原みたいな可愛い系かもっと美形にしろよな、まったく。
そしてなぜか観客席に人が多かった。
序列戦って観戦できるのか。知らなかった。
「それでは間もなく開始します、両者準備はできていますか?」
審判の教師から間もなく試合が始まることが告げられる。
「問題ない」
「俺も問題ないよ」
「わかりました。……それでは、序列戦――――――――始めッ!!」
こうして、俺の人生初となる序列戦が幕を開けた。
「【武装】ッ!」
先に仕掛けたのはガチムチ大男だった。
ガチムチが”能力”名を叫ぶと同時に、その身体を光の粒が包み込んだ。
そして数瞬の後、急に光が霧散したかと思えば、そこには銀色に輝く鎧を身にまとったガチムチ(?)が立っていた。
鎧は所謂フルプレートアーマーと呼ばれるもので、全身を覆っていた。
一体どこから出したんだよあんな鎧。
俺初めてフルプレートアーマーなんて見たぞ。
ちょっとカッコいいな。つけたいとは思わないけど。
でも、【武装】ってことはさ、名前からしてあるよね――――それに付属する武器が。
そう思った矢先、ガチムチ鎧の手に光の粒が再び現れまとわりついた。
そして先程と同じように数瞬で霧散するとそこには、持ち手の先に細長い円錐状のモノが付いている武器、ランスが握られていた。
「どうして攻めてこない?」
その様子をずっと見ていた俺にガチムチ鎧がそんなことを聞いてきた。フッ、愚問だな。
「完全に準備が終わるまで待たないと最大限楽しめないだろ。ただでさえそんな鎧で動きを制限されてるってのに」
「……そうか、気遣い痛み入る。だがな、俺の動きが制限されているというのは――」
そこまで言うと、いきなり目の前にいたガチムチ鎧が視界から消えた。そして、再び声がする。
「――君の勘違いだ。早めに考えを改めることをお勧めする」
「なんッ!?」
いきなり背後から響いた声に俺は思はずその場から飛び退く。
次の瞬間、大きな音とともに今まで俺の立っていた場所がガチムチ鎧の持つランスで粉々に粉砕されていた。
それを見て俺は絶句する。
「マジかよ……」
「よく避けたな」
「避けねぇと死ぬだろ、普通に」
「ごもっともだ」
「マジで殺す気だったのかよ」
何だ? いったい何の”能力”だ?
あんな鎧を身にまとって動いていい速度じゃないぞ!
いや、もしかしたら転移系の”能力”か?
もしくは透明化の”能力”か、幻術の類か、本当に只速いだけか……。ダメだなどれも確信がない。
ただ一つだけ確かなことは、あいつは一瞬で俺の背後に回り込めるだけの力を持っている、ってことだ。
俺は思わず口角が上がるのを感じた。
これは予想以上に楽しめそうだ。
俺も応戦するように”能力”を発動する。
「【雷撃】」
そう呟くと同時に、俺の掌から青緑色のスパークがバチバチバチッ! という音を立てながら溢れ出し、刹那、すべてを蹂躙する雷が一直線にガチムチ鎧へと飛来した。
威力は雷竜の半分ほどまで抑えてある。
それでも十分に相手を殺す気で撃った攻撃だ。
鎧をまとってるから大丈夫だとは思が、死んだらごめんな。
だが、それは杞憂だったようだ。
【雷撃】は鎧に触れた瞬間に霧散してしまった。
「無駄だ。お前が雷を扱うという情報はすでに得ていた。飛ばせるというのは予想外だったが、雷を扱うという情報があれば対策を鎧に組み込むことはたやすい」
「……説明どうも」
めんどくさいな。【雷撃】が使えないということは【雷纏】と【雷操作】も意味がないだろう。
つまり合技の――雷剣――も使えないということだ。
本当にめんどくさい。
俺のお気に入りが封じられた。
あぁ《創造主》がつかいたいなぁ。
でもそれだとすぐ終わってしまうし、何より動かなくていいのであまり楽しくない。
とりあえず今は我慢だ我慢。
せめて一週間後までは我慢だ。そしたら思う存分使ってやろう。
俺はそう心に決めた。
まあ、やりようはいくらでもあるし、問題ないけどね。
雷が効かないなら直接殴ればいいだけだ。
「だったらッ! 【縮地】ッ! 【超硬化】【剛撃】ッ!」
俺は【縮地】を発動し、一瞬でガチムチ鎧の元へと移動する。
そして合わせて発動した【超硬化】と【剛撃】を利用し、その拳で思いっきり殴りつけた。
「無駄……ガハッ!」
正面から殴りつけられたガチムチ鎧は苦悶の声を上げ、水平にぶっ飛び壁に激突した。
【超硬化】で自分の腕を硬質化させ、【剛撃】で爆発的に強化された一撃でこちらのダメージ気にせずに殴る。完璧だな。
もともと異常な筋力値も相まって、壁に激突したガチムチ鎧の鎧はところどころ砕けボロボロになり、血だらけになっていた。
どう見ても満身創痍だ。もう限界だろう。
そう思ったのだが、ガチムチ鎧は立ち上がった。
「見事だ」
「その傷でまだ動けるのかよ。お前ホントに人間か?」
「……そう言わないでくれ。これでも結構限界、なんだ」
「だったら早く降参してくれないか? 今のお前と戦っても楽しくなさそうだ」
「……悪いがそれは、できない」
「……それは伊藤って奴に命令されているからか?」
「……そう、だ。だから――」
「わかった。お前が降参するまで相手をしてやる」
「恩に着る」
「気にするな」
そう言うと、ガチムチ鎧は再び姿を消した。
またか、いったいどういう”能力”だよ。だがまあ対策はある。
どうせ目で見えないのなら違う方法で見ればいいだけだ。
「【熱源感知】」
俺は目をつぶり”能力”を発動する。
目を瞑っているのにも関わらず辺りがサーモグラフィーのような感じで確認できる。
そして、俺の元に高速で向かってくる赤色に表示された熱源が見えた。
透明化と高速移動か。高速移動は本人が只速いだけかもしれないが、透明化は間違いない。
それにしてもどうやったらその傷で動けるんだろうな。
俺はそんなことを考えながら【超硬化】と【剛撃】を掛け直し、併せて”魔法”を発動する。
「『生活魔法:火』【魔力操作】」
『生活魔法』は誰でも使うことのできる稀な魔法だ。
その名前通り生活に便利という程度のことしかできないが、アイル曰く詠唱が不要な分この世界で最も”神の魔法”に近い”魔法”らしい。
とは言っても、最小限の魔力しか込めることができず、それに比例して最小限の規模しかできないので戦闘で使える”魔法”ではない。
が、俺は違う。
【魔力操作】で無理矢理に魔力を混ぜ込むことができる。
俺の魔力量は筋力以上に異常だ。
すべてを混ぜるわけではないが、それでも相当な威力にはなる。こんな風に。
極小の魔法陣から現れた火の玉に俺が魔力を混ぜた瞬間、親指ほどの大きさだった火が爆発的に膨張し火柱を立てた。
ちなみに自分で発動した魔法で自分を傷つけることはできない。呪いの類は別だが。
だがまあこれで準備は整った。
目を瞑て見ると熱源は急ブレーキをかけて立ち止まっていた。
でもそれは悪手だ。
決めるなら炎が完全に燃え広がる前に決めるべきだった。もう遅いけど。
俺は【縮地】を再び発動し、熱源に肉薄。
そして、はたから見れば何もない空間に炎をまとった拳で殴りつけた。
「吹っ飛べ、そして燃えろ」
熱源が先程と同じようにぶっ飛び壁に激突する。
その衝撃で透明化が解け、炎にまみれたガチムチ鎧が姿を現す。
そして追い打ちをかけるように俺の拳から炎の柱がガチムチ鎧めがけて飛来した。ってやばッ!
俺は慌てて”魔法”を解除する。
するとそこには黒焦げになったガチムチがいた。
どうやら死んではいない様だ。危なかったな。
だが何はともあれ勝負ありだ。
「…………え~と、これは……」
「審判? どう見ても戦闘不能だけど」
「そ、そうですね……。それでは――――勝負あり! 勝者ッ、八重樫扇ッ!」
その掛け声とともに歓声が巻き起こった。




