お泊り会 前編
「ここが八重樫の部屋? ふ~ん、意外と片付いてるね。もっと散らかってると思った」
「おお! ここが扇君の部屋なんだね! なんだか楽しい!」
失礼なことを言う星野に変なことを言う藤原。
これはあれだ、友達の家に初めて遊びに行った時の感覚だ。
いつもより余計にテンション上がるやつ。多分それ。
「扇様、お茶は私がご用意いたします」
俺の部屋なのに働こうとするアイル。
アイルだけは来慣れていることあって落ちついている。と言うか慣れ過ぎている。
ずっと俺の部屋にいるからたぶんどこに何が片付いてるのかも把握してるよ?
もしかしたら俺よりも俺の部屋のことに詳しいかも知れない。
あれ、俺ってアイルに頼り過ぎてるのか? いや間違いなく頼り過ぎてるな。
だがまあそれはまた今度改めよう。
今の問題はどうしてこいつらが俺の部屋に来たのか、だ。
こいつらが俺の部屋に着た経緯はと言うと――
ガチムチ大男との序列戦が終わりアイルたちと合流した後、俺は3人を連れて俺の部屋へと戻ってきた。
連れてきたと言っても俺が言ったわけではない。合流した直後、
「八重樫、これからアンタの部屋に行ってもいい?」
「…………一人でか?」
「? アイルと藤原も一緒だけど」
「ですよね~」
と言うやり取りがあったのだ。
女の子が一人で部屋を訪ねてくるというシチュエーションを想像してしまった俺をだれが攻められようか。
ふつうちょっとは期待するだろ? そういうもんなんだよ男って生き物は。
まあ、毎日の様にアイルが訪ねてくるがそれはノーカンで。
それで? こいつらは一体何のために俺の部屋に集まったんだ?
なんか普通に駄弁ってるだけに見えるんだが。
それにそろそろお腹がすいたんだが。
「なあそろそろどうして俺の部屋に来たのか教えてくれないか? まさかおしゃべりのためじゃないよな?」
俺がそう聞くと、星野と藤原は顔を見合わせた。そして、
「「普通に暇だったから来ただけだけど?」」
「……そっか」
ほんとに何しに来てんだよこいつら。
あと、こいつら実は仲がいいよな。
声を合わせて一言一句同じことを言えるくらいには仲がいいよな。
「八重樫、私お腹すいた」
「あ、僕も!」
「自分の部屋に戻って食べろよ。こっちだって二人分しか用意できてないんだから」
「いいじゃん。せっかく来たんだからご飯までごちそうになっても。それに食材は今から買い出しに行けばいいだけでしょ?」
「今から行くのか……」
マジでか。今から行くとなると食べ始めるの何時になるんだよ。
こっちは試合直後でお腹がすいてるってのに。
それに、そもそもの問題として俺はこの世界の食材がわからない。
俺の部屋にあるのはすべて《創造主》で創り出した日本の食材だから使えないし、どうしようか。
「いいでしょ? と言うよりどうして二人分あるのよ?」
「ん? そりゃあ俺とアイルの分に決まってるだろ?」
「……へんたい」
「なんで!?」
なぜ俺が変態になる!? 俺の部屋にアイルの分の食材があるだけだろ!
それのどこが――――もしかしてそれが変態なのか?
いや、考えてはダメだ。考えたら何か取り返しのつかない事態になる気がする。
ここはとりあえず、承諾しておこう。
「わかった、買い出しに行こう。ただし行く人数は2人、くじ引きで決める。金は藤原持ちってことで問題はないな?」
「問題はありません」
「異議なーし」
「えっ!? なんで僕!?」
藤原以外は全員賛成。
そして藤原も賛成せざるを得なくなるぞ。さあ、やっておしまい星野さん!
「だってアンタ、昨日屋上で一ヶ月間三人にご飯を奢るって約束したじゃない」
「あれって本気だったの!?」
「当然でしょ。えっ、まさかとは思うけどウソでした、なんて言はないわよね?」
「は、はいっ! 奢らせていただきますっ!」
「これで決まり」
星野の有無を言わせぬ物言いに藤原はあっさりと承諾してしまった。
こいつやっぱ鬼だな。あと、藤原が弱すぎる。もっと頑張れよ男子。このままじゃ外見だけじゃなく中身まで女になるぞ。
まあ、それは置いといて、俺は陰で細い木の棒4本と、それを入れる中身の見えない筒状の箱を創造した。
そして創造した棒2本の先に目印をつける。続けて筒状の箱に入れてガラガラと振る。
これで完成だ。
俺は出来上がったくじ引きを3人の前に置いた。
「さあ運命のくじ引きタイムといこうか?」
「アンタいつの間に用意したのよ」
「ひみつだ」
「そ、でもいつかは教えなさいよ?」
「わかった。いつかな」
「僕にも教えてね!」
「はいはい。それじゃあ引こうか」
「僕の扱いだけ雑!?」
「「何を今更」」
ああ、楽しい。星野の気持ちがやっと少しだけわかったよ。
藤原いじるの楽しい。って、これじゃあヤバい奴じゃん。
今はくじ引きに集中しよう。
俺たちはそれぞれ木の棒を一本ずつ握り、準備を整えた。
「じゃあ、せーので引くぞ? せーのっ!」
俺は木の棒を引き抜き、マークを確認する。
そこには赤いマークがついていた。
つまり、俺は買い出し組と言うことだ。無念。
で? 運命のもう一人は誰だ?
「あたしじゃないよ」
「私も違います」
「えっ、てことは……」
俺はチラッと藤原を見る。ま、まさか金を払わされた挙句に買い出しまで行かせられるのだろうか?
こいつはもう不幸とかそういう星の下に生まれてきたのではなかろうか。頑張って生きろよ。
「あ、僕だ! 一緒に買い出しに行こうね、扇君!」
「あ……うん。よろしくな」
「よろしく!」
ほんっとにこいつ元気だな。
もっと落ち込むとかさ、他にすることないのか? ポジティブすぎる。
それが藤原の美点でもあるが、さすがにこの反応はどうなのだろうか?
俺の心配を返せよ。
「扇様、私が代わりましょうか?」
「いや、いいよ。くじで決めたんだし俺が行かないとな」
「かしこまりました」
「行ってらっしゃい。帰ってくるまでここでゴロゴロしてるから、早く帰ってきてね」
「人の部屋でよくそこまでくつろげるな」
さて、行くか。
「じゃあ、行ってくるねアイルさん! 星野さん!」
「さっさと行きなさいよ」
「行ってらっしゃいませ、扇様」
「おう、じゃあ行ってくる」
そうして、俺と藤原は一緒に買い出しに出かけた。




