星野梨乃亜 VS 八重樫扇
「相手を降参もしくは戦闘続行不可能にした方の勝ちだ。制限時間は10分。その間に勝負が決まらなかった場合、引き分けとする」
最後の確認として勝敗のルールを説明する。
「それでは両者、準備はいいな? では――――始めっ!」
先生の合図とともに戦闘が始まる――と思いきや、星野さんは意外にも俺に話しかけてきた。
「あんたさ、ひょっとしてあたしのことなめてる?」
星野さんは俺の姿を下から上へと眺めながら露骨に嫌そうな溜息を吐き、そう聞いた。
彼女が言っているのは俺の外装のことだろう。
この授業では武器の使用が許可されている。
その際、ほとんどの生徒は自分の武器を持参する、というのが一般的らしい。
自分の武器を持っていない生徒も教師に一言いえば貸し出してもらえる。
現に星野さんも黒の前開きパーカーをファスナーを全開にした状態で着込んでいる。
それは武器なのか? と言いたくなるがとりあえず抑える。
それなのに俺は試合が始まったにもかかわらず武器を所持していなかった。
恐らくはそのことを言っているのだろう。
だが”能力”などで武器を創り出せる人も稀にいると以前アイルが言っていた。
俺がそのタイプだとは思わなかったのだろうか。
「俺があんたをなめているように見えるのか?」
「見えるよ。素手でやるつもり?」
「すぐに創るよ」
「そう。じゃあ――――行くから」
そう言うと星野さんはパーカーの内側に手を入れてナイフを取り出した。
そして両手で計6本のナイフを後方へと振りかぶり、瞬時に振り切り投擲する。
早い、が対応できないほどじゃない。
俺は必要最低限の動きでナイフをよけ、最後の二本だけすれ違いざまにタイミングを合わせて掴む。
そして同じように俺も投擲する。ただ俺の場合は投げナイフの技術なんて持っていないので、異常なまでの筋力値と【剛撃】を利用した、力任せな投擲だ。
ヒュンッっという音を立てながら異常な速度で宙をかけるナイフ。
だが星野さんは表情一つ変えずにいつの間にやら取り出したナイフを構え迎撃姿勢をとる。
避けないのは俺が投擲されたナイフをキャッチした挙句、利用したせいだろう。
少なくとも避けれない、なんてことはないはずだ。が、この場では悪手だったな。
「【サイズ】」
俺はモノの大きさを変える”能力”、【サイズ】を発動した。
【サイズ】の発動条件は直接手で触れることだ。
ここで肝心なのは”手で触れた状態”で発動ではなく、”一度でも手で触れる”ことさえできればいつでも発動が可能、というところだ。
つまり、あのナイフはすでに【サイズ】の発動条件を満たしている、ということになる。
俺は投擲したナイフを裁縫針ほどの大きさまで縮小する。
ここで初めて星野さんが驚きの顔を浮かべる。
恐らく消えたと錯覚しているはずだ。
というか超高速で飛来する裁縫針ほどの大きさのものを見切れという方が不可能だ。
ましてやあれは途中まで通常サイズのナイフだったのだから、大きさの変化で見失うのは当然といえる。
だがあのサイズのナイフが刺さったところで、相当当たり所が悪かったりしない限りはチクリッとするだけだろう。
なのでもう一度【サイズ】を発動する。
今度は思いっきり拡大する。大きさとしてはトラックと同じくらいだろうか。
「!?…………ッ」
眼前でいきなり現れて巨大化したナイフを見た星野さんは声にならない悲鳴を上げる。
だが、あきらめてはいないらしい。
ギリギリのところで身を捻り巨大化した二本のナイフの間に滑り込むようにして避け、その際、手持ちのナイフで巨大ナイフの軌道を若干ずらしていた。
息切れして多少傷ついているものの、ほとんど無傷だ。あの一瞬で実行したにしては十分すぎる出来である。
ドゴォオオンッッ!!
巨大ナイフが闘技場の壁に着弾し、轟音を鳴り響かせた。
ナイフの着弾した壁は瓦礫のように崩れ去り、その部分だけクレーターのようになっている。
それを見た星野さんは絶句する。もしもあれが自分に当たっていたら、と考えてしまったのだろう。
しかし、戦闘中によそ見は厳禁だと思う。
俺は【縮地】を発動し一瞬で星野さんの元まで移動する。
「しまッ――」
星野さんから焦り声が漏れる。
今の超高速で飛来する巨大ナイフを避けた星野さんならば、俺が【縮地】を使ったところで十分に対応できただろう。
が、いかんせん反応するのが遅すぎた。
俺はそのまま左手で星野さんの右腕をつかみ強引に引き寄せ、体勢を崩して無防備となった腹部に右の掌を押し当てた。そして、
「【雷纏】」
刹那、俺の身体から青緑色のスパークが広がり、同時に接触している星野さんもスパークに呑まれた。
死ぬような出力ではないが、スタンガンの少し上ぐらいの威力はある。人間の意識を刈り取るには十分な威力だ。
「ぁう…………」
星野さんは苦悶の声を漏らしながら気を失った。
そのままもたれるように倒れ込んだ星野さんを受け止め、床に寝かせる。
それを見て少しやり過ぎたかなぁと思わなくもないが、これは試合だったのだ。
先生曰くこの闘技場には相当なご都合主義の結界が張られているらしいので問題はないだろう。
何はともあれ、この勝負は俺の勝ちだ。
「そこまでッ! 勝者――八重樫扇ッ!」
高城先生が俺の勝ちを宣言する。
それと同時にクラスの連中が少しどよめいたが知ったことではない。
勝った方が正義、いい言葉だと思う。ただ少しだけ気がかりなのは、星野さんに肉薄したときの俺の動きがあまりにもスムーズ過ぎたことだ。
俺は武術どころか運動すら碌にしていない。
にもかかわらずあの動きは多少なり訓練を受けたものの動きだった。
緑狼戦の時から思ってはいたが特に考えはしなかった。
だが今回の試合でようやくわかった。
俺は多分、メイの護衛の人を《死霊吸収》で吸収している。
あれから一度もステータスをじっくりと見ていないので詳しいことはわからないが、おそらく間違いない。
メイの護衛はあの場で二人死んでいた。
その場に居合わせた俺がその魂を吸収していてもおかしくはない話だ。
そして《死霊吸収》はその技術まで吸収することができる。
俺の動きがスムーズだったのはそのおかげだろう。
ただ、そうだとするとメイには少し申し訳ないことをしたかもしれない。
たとえ埋葬したとしても…………いや、考えるのは止めよう。
たとえ考えたとしても何も変わらない。
ならば時間の無駄だ。
俺は頭を横に振り、考えるのをやめる。
すると、【結界】が解除されたのがなんとなくわかった。
すぐに張り直されたが、一度【結界】を解除したことにより”でた”という判定になるらしい。
今まで気を失っていた星野さんはムクリと起き上がり、辺りを見渡している。そして立っている俺を見つけ自分が敗北したことを理解したらしい。
立ち上がり俺の元まで歩いてくる。そして俺の近くまで来ると、口を開いた。
「あんた強いね。まさかこうもあっさりと瞬殺されるとは思いもしなかった。あと、さっきはごめん。なめてたのは完全にあたしの方だった」
「お、おう……」
急に謝罪されて思わず動揺してしまった。まさか起き上がってすぐに謝罪するとは。こいつもしかしていい奴なのでは?
「お前って結構良い奴だな。試合前も俺を気遣ってくれてたのか?」
「ッ、そんなんじゃないし」
俺がからかうように言うと、星野さんは顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。
そしてそのまま闘技場の出口へと歩き出した。
俺はそのしぐさを見てかわいいなぁと思ってしまった。
照れて顔を真っ赤にした女の子。悪くないな。
むしろポイント高い。
かなり可愛いかった。
思わずドキッとしてしまうくらいに。
「ねぇ」
急にかけられた声にビクッと少し飛び上がりながら反応する。
見ると出口へと歩いて行ったはずの星野さんが途中で立ち止まり、振り返っていた。
「ど、どうした?」
「名前」
「は?」
「だから名前、なに?」
どうやら名前を聞いていたらしい。というか俺が自己紹介してまだ一時間もたってないんだが。もう忘れたのか。
「……自己紹介で聞いてなかったのか?」
「あんたの連れが目立ちすぎて覚えてなかったのよ」
「あ~そっか。じゃあ仕方ないな。それじゃあ改めて自己紹介だ。俺の名前は八重樫扇だ」
「八重樫、ね。私は星野梨乃亜」
ご丁寧に自己紹介を返してくれた。なんだ、やっぱりいい奴じゃん。さすがにいきなり名前呼びは駄目だと思うので名字の方にしておく。
「星野さん、ね。これからよろしく」
「さん付けしなくていいよ。こちらこそよろしく、八重樫」
そう言うと星野は再び歩き出し今度こそ出口から出ていった。そして俺も反対側から出ていく。
いいなこの感じ。何気ないやり取りだが、なんか青春してるって気がする。このために異世界の学校に来たようなもんだからな。これからが楽しみだ。
ブックマークありがとうございます!
補足です。
【剛撃】は自分の魔力を使用し一撃の威力を爆発的に高める、というものです。使用する魔力量を増やせば増やすほど威力は上がります。また、武器を所持していた場合、その武器にも【剛撃】が反映されます。
以上です。
これからも頑張りますのでよろしくお願いいたします!




