視線が痛い
どうやら闘技場に更衣室が付いているらしい。
ここからそう遠くない位置にあるらしいのでみんなゆっくりとしている。
というかアイルを囲んでいる。
高城先生が教室から出ていったのと同時になだれ込むように集まっていた。
積極的に話しかける男子、それを抑制(物理)する女子。
ごちゃごちゃしていて何を話しているのかまではわからなかったが大変そうだった。
いや~美少女って大変だね!
えっ俺? 一人だよ? だってせっかく美少女が編入してきたのにわざわざ男の方に来るもの好きはいないって。
べっ別にハブられてるとかそんなんじゃないからな? 全く身に覚えがないし。
というか編入初日にハブられるわけがない。多分。
これは単純にアイルが美少女だからだ。かわいいからだ。かわいいは正義、それでいいじゃないか。
余計な詮索は自分自身を傷つけるだけだよ。
え~と確か一限目は闘技場で実技だったよな。早くいかないと遅れるんじゃないか?(現実逃避)
と言っても俺は道がわからないのでみんなが出ていくのを待って、それについて行くしかない。
はぁ……、先が思いやられるな。一応俺も編入生なんだけどな……
俺がそんなことを考えながら皆が行くのを待っていると、ここに来て初めて声がかかった。
俺は喜々として声のした方へと顔を向ける。が、
「……なんだ、アイルか」
そこに立っていたのは銀髪ロング無表情の美少女、さっきまでみんなに囲まれていたはずのアイルだった。
「扇様、闘技場までご案内いたします」
「……道わかるのか? というかこっち来てもよかったのか? なんだか周りの視線が物理攻撃として突き刺さってくるんだが」
周りの視線がいたい。
男女問わす突き刺してくるし、少しざわざわしてきた。
注目されるのはいいけどさ、こんな注目は望んでないよ。
「潰しましょうか?」
「何を!?」
「眼球ですが?」
「いや、マジでやめとけよ!? 編入初日に傷害事件とか洒落にならないからな?」
「かしこまりました」
無表情でとんでもないことを言ってくるな。
ほんとにやりかねないところが怖い。
「というか戻らなくてもいいのか?」
「扇様……私にだって目障りなものの一つや二つあるのですよ? あの中に戻れとは一体どのような拷問でしょうか?」
アイルは俺にしか聞こえないように小声でつぶやいた。
まあ確かにあの中に戻るのはきついかな。
俺も絶対戻りたくないわ。めんどくさい。
「ご命令ならば戻りますが?」
そう言いながら俺の目を見つめるアイル。
「いや、命令はしない。アイルの好きにしていいよ」
「……ではご案内いたします」
アイルはそう言って案内し始めた。
周りのざわざわがさらに大きくなる。
「誰あいつ。あんな奴クラスにいたっけ?」「あいつアイル様に様付けで呼ばれてたぞ! どういう関係だ!」「羨ましい!」「けっ! イチャついてんじゃねぇよ!」「男子諸君、あの男の編入生にはお仕置きが必要だとは思わないかね?」「「「「「異議なし!!」」」」」
これって絶対聞こえるように言ってるよね?
アイルにはなぜか聞こえてないみたいだけど、聞こえてたら死んでたよな、クラスの奴らが。
そして悲しい事実、だれも俺の名前を憶えていない件について。
俺はクラス中の視線を集めながら教室を後にした。
◆◆◆
更衣室で着替えた後、闘技場の中へと入る。そこでアイルを待つ。
なぜかって? それは、アイルに待っててくれと頼まれたのと、ぼっちは嫌だからだ。
男友達はいない。
更衣室では視線がいたかったとだけ言っておこう。
恫喝されなかっただけマシだ、と思いたい。
と言ってもまだ初日、時間はたくさんある。
気長に行くとしよう。
「お待たせいたしました、扇様」
そんなことを考えているとすぐにアイルがやってきた。
女子にしては早い気がする。アイルが一番乗りだ。
「別に待ってな――ってその格好は何?」
俺はアイルの格好をみて思わず聞いてしまった。
男子用の体操着は日本にいた時と変わらない半袖短パン。対して女子の体操着は――
「地球でいうところの『ブルマ』というものではないかと」
そう、女子の体操着は所謂『ブルマ』と呼ばれるものだった。
この世界ではこれが普通なのか?
何というか……エロいな、うん。
アイルのきれいな脚がさらけ出されていて目のやり場に困る。
ミニスカとはまた別の背徳的なエロさがあるな。
「どうでしょうか。似合いますか?」
「とてもいいと思います」
「ありがとうございます」
そうとても良い。良いんだが、俺は独占欲が強いんだろうか?
アイルのこの姿を他の誰にも見せたくないと思っている俺がいる。
そんなやり取りをしていると、だんだんと他のクラスメイトが集まってきた。
そこで高城先生から集合の合図がかかる。
「この時間はさっきも言った通り、対人戦の授業をする。対戦相手は男女合同のくじ引きで決定する。全員いつ当たってもいいよう準備をしておけ。ルールは特にない、何でもありだ。あと、今回の戦闘では初めての生徒がいるので序列に影響でない。安心するといい」
高城先生の最後の一言で全員から安堵の声が漏れる。
序列が変わる条件は大きく分けて二つ。
一つ目は今回のような授業、もしくは学校側の用意した戦闘系のイベントでの戦績。
二つ目は休み時間や放課後、休日を利用した他生徒との戦闘行為(先生の了承を得て監督してもらった状態でのみ有効。私闘は原則として禁止)だ。
極論で言えば、序列が上の生徒と戦って勝てば順位が上がる。
序列32位に勝てば32位に、序列1位に勝てば1位になる。
負けた場合もまた然り。
また、序列が上の生徒がそのまま勝てば序列の変動はなし。
単純で分かりやすいルールだな。
ちなみにこの二つの条件を合わせた『週に一度、学校側がランダムで決めた相手と戦う必要がある』という決まり事がある。これを破った場合、相当な理由でもなければ罰則が下される。内容は不明。
あと俺とアイルの順位は不明だ。
まだ一度として戦ってないからな。
「それでは早速一試合目を始める」
高城先生はそう言って皆の名前が書かれたボールの入った箱の中に手を入れ、二つのボールを取り出した。
「一試合目は……『星野梨乃亜』、『八重樫扇』、この二人だ」
初戦かよ。できれば二、三試合後にしてほしかった。
しかし決まってしまったものは仕方ない。
俺と星野さん、先生以外の生徒は闘技場の観客席へと上がっていく。
が、アイルだけはこっちに、というか俺のところに来た。
「頑張ってください、応援しております」
「おう、任せろ!」
そう言うとアイルも他の生徒と同様に観客席へと上がていった。
やっぱり誰かに応援されるっていうのは元気が出るな。
やってやる!っていう気持ちになる。嫌いじゃない。
まあアイルの応援と引き換えにクラスメイトの私怨の混じった視線を向けられたが安いものだ。
美少女の応援は何事よりも優先される。
俺がやる気になっていると、高城先生から声をかけられた。
余談ではあるが名前が日本語のように漢字(【言語理解】で変換した場合そう見える)なのは一般市民、英語のようにカタカナなのは貴族だ。
つまり俺と星野さんと高城先生は一般人、メイと昨日のギルマスとアイルは貴族ということになる。
ただ俺とアイルはもとからこの名前なのでどういう扱いになるのかよくわからない。特にアイル。
「八重樫。一つ言い忘れていたが、この闘技場にはどんなに傷つきたとえ死んだとしてもこの闘技場から出れば一瞬で回復するという【結界】が張ってある。さっきも言ったが思う存分やっていい」
「はぁ、なるほど」
随分とご都合主義な結界が張ってあるんだな。
だが少し安心した。さすがに女の子を傷つけるのは気が引けるからな。
そう思いながら俺は対人戦の定位置に立った。そして星野さんと対峙する。
「それでは両者、準備はいいな? では――――始めっ!」
その合図とともに俺の初授業が始まった。




