アイルの忠告
『君はいったい何者だい?』
そんなことを聞かれたがなぜ俺がそんなことを答えなければいけないのだろうか。
確かに今の話の流れ的に俺の正体が気になるのもわかる。
人間には使えないはずの”神の権能”を持つ正体不明の人間が現れたんだ、それも当然といえる。
まあ正体と言ってもただの(?)転生者なんだが。
だがな? 今さっき会ったばかりの名前も知らない男に俺のことを話せと?
自慢じゃないが俺はこの世界の常識なんてものは一切わからない。
この世界にどんなルールや法律があるのかわからない。
この世界で何が珍しくて何がすごいのかもわからない。
この世界……いや全世界に共通する認識として一つだけ自信を持ってあげられるものがある。
それは、”未知ほど怖いものはない”だ。
今まで例に挙げたものだけではない。
この世界で何が嫌われ何が疎まれ何が憎まれているのか何が差別の対象なのか、それすらもわからないんだ。
そんな状況で俺のことを話せと?
もしも転生者が差別の対象だったらどうする。
神が憎む対象だったら?
アリスが宗教的に敵対している神だったら?
《創造主》なんていう”権能”を持っているということで徹底的に管理されたら?
そんな上げていったらキリがない不安が脳裏をよぎる。
今の俺にはどこまでを答えていいのか、その判断ができない……。
だがここであまり弱気になり過ぎるもの良くない。
俺がこの世界について無知だということが悟られれば、いいように言いくるめられるだけだ。
それだけは何としても避けたい。
だから俺はあえて強気な態度をとった。
「なあアンタ、いきなり現れて名乗りもせずに一方的に質問攻めっていうのはどうなんだ?」
「えっ……ああそうだね。自己紹介がまだだったね。私はユリウス・シュトレムだ。一応此処のギルドマスターをやっている。よろしくね」
「……ああよろしく」
こいつギルドマスターだったのか。まあどうでもいいけどね。
俺とメイとアイルはそれぞれ自己紹介をして改めて向き直った。
「それでさ、話は戻るんだけど。君の正体、教えてほしいな」
何とも言えない圧があるな。
なんかこう「絶対に聞き出してやる!」みたいなオーラが出てる。
めんどくさいな。俺こういうノリが一番嫌いなんだよな。
ああ、めんどくさい。
やっぱりあそこで問題を起こすべきじゃなかったな。
テンション上げてる場合じゃなかったわ。
あれ? というか今思ったんだけどさ、わざわざ律義に教えてやる必要はないんじゃないか?
そもそもそんな義理はないだろう。
というわけで善は急げ、教えない方向で行こうと思う。異論は認めない。
「話すつもりはないな」
「ということは少なくともただの人間ではない、ということを認めるのかな?」
「《創造主》なんていうものを持ってる時点でそんなことは明白だろ」
「それもそうだね。でも話してくれないとなるとギルド的には君を最重要の監視対象に設定する必要があるんだけど、いいのかな?」
「そ、そんなことって……っ」
メイが小さな叫びをあげる。
俺のことを心配してくれるのはありがたいができればこれ以上は巻き込みたくない。
だからできる限り俺のほうで処理する。
「俺を脅しているのか?」
「まさか。僕はあくまで情報が欲しいだけだよ。君が信用できるか否か、その判断材料が欲しいだけ」
「判断材料、ね……」
一方的に情報を握られるっていうのはよろしくないな。
ただ監視対象となるとさらに面倒だ。
俺も目標は充実した異世界ライフを送ること。
その妨げになるようなことはできるだけ排除しておきたい。
「気はかわったかな」
ユリウスは再びそう聞いてきた。
だが俺の意思は揺るがない。
妨げになるなら排除する。
そうただそれだけだ。
「断る」
「決まりだね。それじゃあ――」
「扇様、私からも少しよろしいでしょうか」
ユリウスの言葉をさえぎってアイルが話す許可を求めてきた。
ユリウスと話したいってことなのか? 相変わらず無表情で感情が読みずらい。
いったい何をするつもりなんだろうか。少し嫌な予感がする。
「さて、ユリウスさん。あなたに一つだけ忠告をしておきます」
「忠告?」
「はい」
忠告? いったい何を忠告するんだ?
「これは私の使命に関係のない、本心からの忠告です。もしも、あなたがたギルドが扇様を不快な気持ちにさせるというのなら私は私の持てるすべてを費やしてでもあなたがたを排除します。ですから言動、態度には十分お気を付けください。以上です」
アイルさんが怒ってらっしゃる。
無表情だが言葉に込められた思い? みたいなのが伝わってきた。
あれはガチなやつだな。
マジで排除するつもりだ。
でも同時に俺のために行ってくれたっていうのもわかるから何も言わない。
言えるわけがない。
せっかくアイルが俺のために行動してくれたんだ、その行動を無為にするようなことはできない。
だがユリウスがこの程度で引くとは思えないな。どうやって切り抜けようか。
「わかった、監視対象にするのは止めよう」
は? 聞き間違いか? 今やめるって聞こえた気がしたんだか。
「聞き間違いじゃないよ。この話題からも手を引こう」
「いいのか? そんなにあっさりと」
「仕方がないよ。僕もまだまだ命が惜しいからね。やりたいことがたくさんあるんだ」
「どういうことだ?」
「自分は話さないのに僕にだけ話させるのかい? それはちょっと――――なんでもない、ちゃんと話すよ。だから殺気を飛ばさないでくれアイル君」
ユリウスは薄っすらと冷や汗をかいていた。
本当にどういうことだ? アイルからの忠告があったとはいえ自分から仕掛けておいてこんなにもあっさりと引くなんて。
まあどうやら説明してくれるらしいし、考える必要はないか。
「僕の”能力”でね【危機察知】って言う能力なんだけどね。さっきから危険を示すサイレンみたいな音が止まらないんだよ。それもこれまでに聞いたことのないような爆音が鳴り響いてるんだ」
「つまり?」
「つまり、アイル君は僕が少しでもオーギ君に失礼を働いたら即刻殺す気なんだろうね。そうでもないとサイレンがこんな音量で鳴り響くなんてありえないよ。いやぁまさか目の前の女の子に殺される未来しか見えないなんてギルドマスターとして情けないよ。ははは……」
ユリウスはそう言って自嘲気味に笑った。
アイルがそこまで怖いのだろうか?
俺にはとてもそうは見えないが、まぁ天使だしな。
その気になればギルドの壊滅くらいやすやすとやってのけるだろう。
正直俺もアイルに勝てる気はしないな。
で、結局俺たちってもう出てっていいの?
なんか最後だけあっさりしすぎて逆に出ずらいんだけど。
でもまあこれから観光に行く予定だし。
できるだけ早く魔石を売ってここを出るとしよう。
「てことで俺たち帰るけど、いいんだよな?」
「ああ、気にしなくていいよ。もう君にはできる限り干渉しないから」
「ああそう。でさ、魔石を売りたいんだけど。どうしたらいい?」
「それなら受付嬢に頼んだらすぐに現金化してくれるよ」
「そうか、ありがとう。じゃあな」
俺たちは部屋を出て、すぐに魔石を換金するために受付に向かった。
なんだかんだあったがようやく当初の目的を果たすことができるらしい。
魔石を売りに来ただけなのにものすごく疲れたんだが?
まあいいや。
過ぎたことは仕方がない。
ここでロスした分まで観光を楽しもう。
それに個人的にはアイルの新たな一面みたいなのが見れてよかったよ。
俺はそう思いながら魔石を換金した。




