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Episode 36. ローズの試合

「ローズちゃんたら!!私より剣が大事なんだから!!」

ギルドから出てきたマリーがそう言いながら、市場方面に足を向ける。

頬を膨らませているが、それも可愛らしい。ローズもこの顔を見たかっただろう。

「...でも、そんなの分かってたことだよね...今まで私を優先してくれたことなんてない...」

そう寂しげに呟く。

「で、でもいずれ女の子の良さを分かってもらえば!...ローズちゃんだって...きっと...」

マリーはほんのり頬を染めた。

「その為にはローズちゃんの事をもっと知らなきゃ!!」

そして、そう決意すると、通りすがりの人に目的地を聞くのだった。

「あの...すいません。道をお尋ねしたいのですが...」


☆彡彡彡


場面は変わって、ギルドの裏にある訓練場。

なかなかの広さで20m四方くらいはある。

中央にはローズとミランダ。

それを壁際でギャラリーが取り囲んでいた。


「あの子、いつまで持つかなぁ?3合、斬り合えばなかなかのものだよね!!」

キャサリンが仲間のパーティに向かって話す。

「でも綺麗な子じゃないか!!僕はあの子に頑張って欲しいね!!」

すると、細身の魔法使いが言った。

「相変わらず、ネルソンは若い子が好きだねぇ...ダイアンはどう思う?」

キャサリンは呆れた声でそう言うと、今度はごついタンク役に向かって話しかけた。

「ふむ...あの娘、なかなかやるとは思うが...ミランダにはいい餌食だな!」

ダイアンは顎に手を当てるとそう答えた。

「そうなんだよねぇ...ミランダは相手が強ければ強いほど、真価を発揮するからねぇ...あの子も可哀想に...まあ、ミランダなら怪我はさせないだろう...」

ネルソンは残念そうにそう言った。

「なんだ!ネルソンもミランダが勝つと思ってるんじゃないか!!まあ、ミランダは10年近く、あの技を磨いてきたからね!若い小娘が簡単に勝てる相手じゃないよ!」

キャサリンの言葉に、

「おや?若い子に嫉妬かい??年がバレるよ?」

「うるさい!!」

軽口をたたいたネルソンがキャサリンに怒られていた。


「それじゃ、始めましょうか!...いつでもかかってきていいわよ!!」

ミランダがローズに声をかける。

「分かりました!お願いします...では...」

その瞬間、ローズの姿が消えた。

「おおっ!!」

会場がざわめく。

<カン!>

金属と金属がぶつかる軽い音がする。その直後、

(えっ?!なんで??)

ローズの剣は空を斬っていた。

(あたしは真上からミランダさんに斬りつけた。受けるか避けるかしなければ凌げないはず!!でも...)

そう、確かにミランダの剣はローズの剣に軽く触れた。

しかし、それだけでローズの剣はその軌道を大きくずらしていたのだ。

「スピードとパワーは言うだけのことはあるわね!でもそれでは私には勝てないわ!!」

ミランダの声が聞こえた。

その瞬間、ローズの胸元目がけてミランダの剣が迫る。

「くっ!!」

その剣を受けようとしたローズ。しかし、

「!!」

嫌な気配を感じたローズはバックステップで後ろに飛び退いた。

ミランダから距離を取る。

「あら。いい勘してるじゃない!受けてたら勝負は決まってたわよ!」

ミランダが感心したように言う。


「へぇ~~」

「なかなか」

キャサリンとネルソンが今の攻防を見て声を漏らす。

「ふむ。さすがはジーク殿のお気に入りという訳か...あの若さで...」

ダイアンも感心したように呟いていた。


(今の何??あの単純な突きを受けれる気がしなかった...一体何が...)

ローズはミランダを睨みながら考える。

(考えてても仕方ないわね!!カラクリを暴くわよ!!)

もう一度、ミランダの懐に飛び込んだローズは剣を横薙ぎに振る。

しかし、今度は先程までの剣の鋭さはない。むしろ手を抜いている感じだった。

(相手の剣をよく見て!!)

ローズはミランダの剣に神経を集中する。

ミランダの剣がローズの剣に迫る。

そして、触れた瞬間、

(ん?)

ミランダが剣の角度を僅かに変えた。

ローズの剣がミランダの剣の上を滑る。

そして、そのままミランダが剣を密着させながら、角度を少しづつ変えると、ローズの剣は弧を描くように上へと逸れていった。

そして、無防備になった胸元に剣を突き出す。

(よっと!)

しかし、ローズは予想していたようだ。

余裕を持って後ろへとバックする。

その際、ミランダの剣に上へと持ち上がった剣を叩き下ろしてみる。

<キン!!>

また、軽い金属音。

その後、ローズはミランダを剣の軌跡を観察する。

すると、叩き下ろされたミランダの剣が円を描くように一回転すると元の位置に戻っていた。


「そういうことね...」

再び、距離を取ったローズが呟く。

(相手の力に対抗するのではなく、その力を利用して、相手の剣の軌跡を変えたり、自らの剣を理想の位置に動かす!!まさに『融通無碍』!!)

ミランダを睨みつけるローズ。するとミランダは、

「あら?もう分かったのかしら...でも分かったところでどうしようもない。それはあなたが一番分かってるんじゃない?」

そう言うと、今度は自ら飛び込んでくる。

ミランダの剣がまっすぐ胸に突きつけられた。

「くっ!!」

思わず、ローズは苦悶の声を漏らす。

これが普通の剣士なら叩き落とすなり、受けることは容易だ。

しかし、ミランダにはそれが通用しない。

ローズがどのように剣を動かそうとも、その剣はいつの間にか元の軌道に戻っているだろう。

ローズは避けるしかない。

しかし、天才ローズはそれだけでは収まらなかった。

(これでどう?)

ローズは避けながらミランダの剣に自らの剣をぶつける。

今度は角度と力の入れ具合に細心の注意を払う。

<カン!>

当たった瞬間、ミランダの剣の軌跡がずれた。

(よし!!)

ローズは心の中でガッツポーズをしたが、それがすぐに落胆へと変わる。

(あれ?!)

ミランダの剣は避けた自分の方へと向きを変えていたのだ。

(まさか、今のあたしの剣の力を利用して??)

ローズは必死で体を後ろに反らせる。

紙一重で剣を避けることに成功したローズは、そのままバク転でミランダと距離を取った。

「ふふふ。そんな付け焼き刃が通用すると思って?」

ミランダが軽く笑う。

「くっ!!」

ローズは顔を顰めるのだった。


「これで3合だね!」

二人の攻防を見ていたネルソンが言う。

「ふむ。あの娘、信じられない俊敏性を持っているな!それに初見でミランダの剣を真似しようとするとは...」

ダイアンもローズの天才ぶりに舌を巻いていた。

「ふん。若いくせになかなかやるじゃないか!!でも時間の問題だね!!ミランダに剣は当たらない!負けは確実だよ!」

キャサリンが少し悔しそうにコメントした。




それから、二人は何十回となく打ち合った。

ローズの剣はどう頑張ってもミランダに届かなかった。

しかし、ミランダの剣もローズの人間離れした俊敏性で避けられ続けていた。

だが、それだけ激しく動き続ければいかにスタミナがあるといっても限界がくる。


「あの子もなかなか頑張ったけど...」

ネルソンの言葉に、

「もう限界だね。足がフラフラしてる。あれじゃ次は避けられないよ!!」

キャサリンが補足した。

「しかし、俺はあの娘を見直したぞ!!ミランダと3分以上打ち合ったのはあれが初めてだ!!『ローズ』か!覚えておこう!!」

ダイアンが尊敬の目でローズを見つめる。

「そうだね!それは認めるよ!!...あっ!動いた!!」

キャサリンの言葉に皆が最後の攻防に注目する。


ローズが限界とみたミランダが一気に駆け寄り、ローズにまっすぐな突きを繰り出す。

(あたし...負けるの...)

その瞬間、ローズの体から力が抜けた。

無意識にミランダの突きに対して剣を合わせに行く。

「無駄よ!!」

ミランダは言うが、その言葉は剣が当たった瞬間、驚きに変わる。

「えっ!!」

ローズの剣がミランダの剣の軌跡を右に変えようとする。

ミランダは右に曲がった軌道を修正しようとしたのだが...今度は左に流された。

「くっ!!」

ミランダは再び、軌道を修正する。しかし、また、右へと躱される。

(まさか、この私が剣の柔らかさで負けるっていうの?!)

それはミランダにとって、我慢のできないことだった。

自分は10年かけて、この技を磨いてきた。それをたった十分程度、戦った相手に真似されるなどプライドが許さなかったのだ。

「はぁぁ!!」

ミランダが最後の胆力を使い、剣を元に戻す。

そしてその剣はローズの胸の前で寸止めされた。

「やった!!...えっ!!」

ミランダの喜びが驚愕へと変わる。

なぜなら...ローズの剣も自分の胸の前で寸止めされていたからだった...


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