Episode 37. それぞれの反省
「そこまで!!両者、相討ち!!」
マスターの声がギルドの訓練場に響いた。
「おお~~~~~~~~~~~~!!!」
会場が大歓声に包まれる。
「あいつ!ミランダと引き分けたぞ!!」
「すごい!!すごいわ!!あたし、鳥肌立っちゃった!!」
「これは他のみんなにも話さなきゃ!!歴史に残る試合だよ!!」
あちこちから興奮した声が聞こえる。
「・・・」
呆然と立ち尽くすミランダ。
その前でローズが崩れ落ちた。
<ドサッ!!>
「あなた...」
ミランダはそれで我に返ったのか、しばらくローズを見つめていたが、
「マスター!休憩室はどこだったかしら?」
そう言うと、ローズを休憩室まで運び、ベッドに寝かせてあげるのだった。
☆彡彡彡
「どうしちゃったのさ!ミランダ!!らしくない!!」
ギルドに戻ってきたミランダにキャサリンが声をかける。
「え、ええ...まさかあの短時間であそこまで『柔の剣』をマスターするとは思わなくて...」
ミランダは自分の剣を『柔の剣』と言った。
おそらく、力でねじ伏せる剣を『剛の剣』、相手の力を利用した剣を『柔の剣』と呼んでいるのだろう。
「まっ、さすがのミランダも油断したのかな?あの子、最後、フラフラだったもんね!」
ネルソンが慰めるが、
「確かに最後のはまぐれだと思うわ!!だけど...」
「なにさ?」
ミランダの言葉に意味深なものを感じて、キャサリンが問う。
「それまでの打ち合いで、あの子は確かに『柔の剣』をある程度使えていた...」
「ある程度でしょ?」
ミランダの説明ではキャサリンにはピンと来なかったようだ。再び問い返す。
「私があの子が使えたレベルに達するのにどれだけかかったと思う?」
「・・・」
ミランダの問いにキャサリンは口を閉ざす。ようやくその意味が分かったようだった。
「3か月よ!!それをあの子はものの数分でものにした...これが意味するのは...」
ミランダの声が大きくなる。興奮してしまっているようだ。
「お、おい!!落ち着けよ!!そうなると決まったわけじゃない!!それに俺たちはもっと強くなる!!そうだろ?ローズが追い付く前にもっと強くなればいいだけだ!!」
ダイアンがミランダの両肩を掴み、目を見て諭すように言う。
「そ、そうね...ちょっと神経質になっていたわ!ごめんなさい...」
ミランダが目を伏せ、謝る。
「まあ、格下に引き分けとなれば誰でも落ち込むものさ!!そういう時は、うまいものでも食べて忘れるに限るよ!!どうせ依頼はないんでしょ?シェナリー名物の美味しい牛肉でも食べに行こうよ!!」
ネルソンがそんなミランダに笑いかけた。
「あっ!!牛肉!!ボクも食べたいと思ってたんだ!!行こうよ!!」
キャサリンもそれに乗っかる。
「そうね!じゃあ、行きましょうか!...マスター!この街で一番のお店知ってる?」
こうして、ミランダたちのパーティはギルドを後にしていった。
☆彡彡彡
「・・・」
ギルドの休憩室で音もなくローズが目を覚ます。
(あれ?あたし、どうしたんだっけ?...確かミランダさんと試合をしていて...)
疲れた体で記憶を思い返していると、
『そこまで!!両者、相討ち!!』
気を失う前に聞こえた言葉が思い出された。
(あたし、引き分け?!ミランダさんと?!)
それはローズにとって驚きの結末だった。
(確か、疲れてボロボロになって最後に...咄嗟に反応した...あの時のあたしは...)
最後の攻防の流れがスローモーションのように思い出される。
(力が抜けて、何も考えず、相手の呼吸にただ自分を合わせた...)
ローズはその時の手の動きを何度も再現しようとしてみる。
(ダメね!!そう簡単には出来ないわ!!何度も何度も繰り返し、鍛練しないと!...最後に出来たのはただの偶然...あたしは...完全に負けていた...)
しかし、ローズに悲愴感はなかった。
(でも王国一の高みの頂点が確かに見えた!!これは収穫だわ!!今まであたしは力と技、そして守る心だけを追い求めていた...)
今までの自分を冷静に思い返す。
(もちろん、どれも欠かせない大切なもの!!だけど、それだけじゃなかった!!相手の力を利用するという新しい道がある!!)
それはローズにとって希望だった。
(これはあたしの剣に更なる可能性を与えてくれるわ!!あたし、もっと強くなれる!!...教えてくれたミランダさんに感謝しなきゃ!!)
ローズはそう思うとすぐに、ベッドから立ち上がった。
「早速、訓練よ!!魔物を片っ端から倒して...マリー!!」
マリーを呼んだローズだったが、そこでマリーが一人で出かけていったことを思い出す。
「いけない!!マリーを一人にしちゃった...急いで追いかけないと...」
そう言うと、剣を掴み、休憩室から飛び出した。
「おっ!!ローズ、起きたのか!!...今日の試合は...」
その様子に気づいたマスターが声をかけるが、
「マスター!!今いつごろ?あたし、どれくらい寝てた??」
ローズはそれを遮って時間を聞く。
「あっ...いや...もう昼過ぎだが...」
「そんなに時間が経ってるの??マリーは?って知ってるわけないわよね...どこにいるんだろ...とりあえず家に...」
マスターの言葉を聞くと、大急ぎでギルドを飛び出していった。
「やれやれ。忙しいこった!」
マスターが肩を竦めるが、
「マスターもそれくらい急いで仕事をしてくれると助かるんですけど...」
年配の受付嬢の皮肉が聞こえた。
☆彡彡彡
「マリー!!」
サクラノの家に転移してきたローズがマリーの名を呼ぶ。
「・・・」
しかし返事はない。
家中を捜し回るがどこにもいなかった。
「もう!!何してるのよ!!シェナリーに戻ってとりあえず聞き込みを...」
そう言って玄関の転移石のある場所に飛び込んだ時、
<シュン...>
ちょうどマリーが転移してきた。
「「あっ!!」」
二人の顔が間近に迫る。
唇と唇が触れ合いそうになった時、
「「!!」」
何とか、ローズは足を止めることが出来た。
「ゴ、ゴ、ゴメン!!あたし!マリーがいないから慌てて...」
「・・・」
ローズは謝るがマリーはどこか残念そうな顔をしていた。
(危なかったわ!!他ならぬあたしがマリーの純潔を奪うところだったわ!)
ローズが一人、安心していると、
「あ、あの...ローズちゃん...私を捜してくれてたの?」
そう言って、マリーが頬を染める。
「えっ!あっ!いや...その...マリーはまだ、この街に詳しいわけじゃないから、迷子になってないかなって...べ、別に心配してたわけじゃ...」
決まり悪そうに要領を得ない説明をするローズ。
「うれしいな!ローズちゃんに捜してもらえるなんて...私の事なんてどうでもいいと思ってた...」
しかし、マリーはそう言ってうれしそうに微笑む。
「ま、まあ、マリーがいなくなるといろいろ困るしね!!...それよりどこ行ってたの??随分、遅かったようだけど...」
ローズはその笑顔が眩しくて顔を逸らせてしまうが、とりあえず気になっていたことを聞いた。
「えっと...その...実は孤児院に...」
マリーはそう言って気まずそうな顔をした。
「孤児院って!!まさか!!」
ローズは行って欲しくなかったのか、少し顔を顰めた。
「ゴ、ゴメンね!...でもローズちゃんの育った所を見たくて...」
マリーは申し訳なさそうに言う。
「見ただけ?」
ローズは何か探るような言い方をしたが、マリーの答えはローズが聞きたくないものだった。
「実は院長先生にも会ったんだ!...いろいろ話が聞けて楽しかった!」
「そう...あたしの話を...詳しく聞かせてくれない?...長くなりそうだから座って話しましょ!!お茶いれてくれるかしら?」
「うん...」
そう言ってローズは、食卓へとマリーを誘ったのだった。




