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第百十七話


 捕手が次のサインを出す。

 戸枝が頷き、セットポジションで投球モーションに入る。

 紫崎がじっと観察する。

 アンダースローでの指先からボールが離れる。

 紫崎がわざとバットをピクリと動かす。

 内角高めにボールが飛ぶ。

 打者手前で左に曲がりながら落ちていく。

 シンカーだった。


「―――ストライク!」


 球審が宣言する。

 スコアボードに107キロの球速が表示される。

 ツーアウトになる。

 戸枝がニヤリとする。


(紫崎の奴、ボールが見えてねーみたいだな。バットを少し動かしたのが良い例だ)


 戸枝が捕手から返球をキャッチする。


(なるほど、中野監督はここまで読んでいたのか。三球目は監督の指示していたお望みのコースに来るな)


 捕手もバットを観察していたのでサインを出す。


(よし、戸枝。相手の二番はまだ目が慣れてない。このコースで投げるぞ)


 戸枝が頷く。


(先輩もその気か―――紫崎を警戒してたが、この回は安心できるな)


 セットポジションで投球モーションに入る。

 紫崎がさりげなくバットを肩に当てる。 

 指先からボールが離れる。

 内角高めでのやや真ん中にボールが飛ぶ。

 

(―――やはりストレートが飛んできたか)


 紫崎がタイミングを合わせて、バットを振る。


「何っ!」


 驚く戸枝の耳にもカキンと言う金属音が鳴る。

 バットの軸にボールが当たる。

 そのまま引っ張りボールを飛ばす。

 それを合図にハインが三塁に向かって走り出す。

 ボールの軌道は左中間を抜ける。  

 紫崎が既にバットを捨てて、一塁に走る。


「レフトとセンター取りに行け! ひとつじゃない! みっつだ!」


 捕手が捕球したら、三塁に投げるように指示する。

 レフトとセンターの間にボールが飛び、スタンドの壁にボールがぶつかる。

 跳ね返ったボールを捕りに行ったレフトとセンターがお見合いする。


「何やってる! どっちでも良いから早く投げろ!」


 捕手が怒鳴る。


「ドーゾ。ナゲテクダサーイ」


 センターのジェイクがレフトに告げる。

 返事をせずに慌てたレフトがボールをサードに投げる。

 届くころにはハインが三塁を踏んでいた。


「―――セーフ!」


 塁審が宣言する。

 紫崎も一塁を通過した。

 戸枝が舌打ちする。


「二年センターが一年レフトに悠長にボール譲ってる場合かよ。くそっ! やっぱ知っている奴が相手だと、打たれるか」


 中野監督がニヤリとする。

 古川がスコアブックを書きながら、話す。


「一球目を振らせたのはこのことを想定してですか?」


 中野監督がワンサイドショートボブの髪をふわりと触って、答える。


「あの捕手はボールに目が慣れてない打者には次のコースからストライクコースを入れる確率が高かった。データからもそれは解っていた。ツーストライクになれば次はセオリーなら誘い球だと思うがだろう」


 書き終わった古川がいつもの無愛想そうな中野監督を見る。


「監督は紫崎君にバットを僅かに動かすことで、三球目に内角を投げることも計算していたんですか?」


「ああ、古川の想像通りだ。相手のキャッチャー心理も利用した。二塁ランナー有りでノーアウト状況だ。ボールの見えてない打者にはまだ観察の予知があると思って振らないだろうと捕手に思わせた」


「なるほど。ですが、何故内角の高めに投げると思ったのですか?」


 古川が興味ありげに問う。


「一球目は外角低め。二球目は内角高めのシンカー。三球目は外角を意識させて、内角のシンカーを警戒させた引っ掛けのストレート―――初歩的だが、実践では効果的な配球論だったからな。あらかじめ紫崎に内角だけ絞るように意識させた」


 目付きの悪い中野監督からニヤリと笑みがこぼれる。


「こういう展開になると投手には一時的に余裕がなくなるもんだ。九衞の打席はある程度楽になる―――」


 予想どうりに事が運んだことでの笑みだろう。


「―――見事な采配ですね。関心しました」


 古川も表情には出さないが、声が嬉しそうだった。

 メンバーは応援に集中していて、聞いていない。

 錦がネクストバッターサークルに移動する。

 九衞がバットを肩に当てて、打席に移動する。



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