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灼熱の太陽のしたで、俺は蒸発してしまいそうだった。
熱い。暑いじゃなくて「熱い」。俺のうえでバーベキューをしたら、こんがりと肉が焼けるどころか、たぶん焦げる。
8月、夏真っ盛りの太陽を舐めてはいけない。
今すぐにでもここから逃げ出したいが、あいにく身動きがとれない。俺の両足は地面に固定され、……というか両足がそもそもなく、身体の半分は地面に埋まっている。
さらにいえば両手もない。なんなら顔もない。俺の顔らしき場所には、達筆な文字で「○○家之墓」と彫られていることだろう。
「だろう」としたのは俺が実際に見たわけではないからだ。まわりの状況から察するに、俺はどうやら墓石に転生したらしい。
となりには卒塔婆が、近所の定食屋の補充がきかない割りばしの束のように並んでいる。さらに目の前には灰色の墓石たちが、まるで夏フェスのようにぎゅうぎゅう詰めだ。
こんな大きな霊園は、人生で一度も見たことがなかった。見渡す限り、墓! 墓! 墓! 墓のオンパレード。
自分では分からないが、俺もそんな墓フェスの一部と化しているのだろう。
しかしこんなにも墓が並んでひしめきあっているのに、お参りにくる人間はだれもいない。
お前ら、先祖を敬う気持ちはあるのか。
俺は熱さに耐えながら、そう怒り狂った。誰でもいいから早く水をかけてほしい。他の墓たちに意識があるのかは分からないが、絶対に俺と同じ気持ちのはずだ。
そもそも俺は死んで墓に入ったのではなく、墓石に転生したのだ。御先祖様は地下深くで、さぞ涼しいことだろうな。
暖かいため息をついて、俺はなぜこうなってしまったのか振り返った。
あの夜、俺は仕事を終えると居酒屋で一人酔いつぶれ、そのまま街の小さな空き地で寝てしまった。
残業、パワハラ、なんでもありの真っ黒企業で、彼女もできたことがない。俺の将来は空き地の夜空のように真っ暗だった。
(いっそこのまま死ぬかなぁ。どうせ死ぬなら勇者にでも転生して幼女ハーレムでも作りたいなあ)
そんなことをアルコールに助けられながらぼんやりと考えていると、いきなりまぶたが重くなって眠りについてしまった。
気持ちいいぃ。居酒屋を出たあと、コンビニで買ったストロングゼロが効いてきたな。これはまさに天国へのトリップだ……。なんて思ったが、まさか本当にトリップしてしまうとは。
そんなわけで俺は今、こうして霊園の墓石に転生している。
しかし墓石も墓石で辛い。なんならブラック企業勤めのほうが数倍マシだ。
だって誰にも会えないし、身動きがとれない。それに熱いし。
すると霊園の階段を誰かが登ってくる足音がした。これは小さなサンダルの音だ。しばらく誰も来なかったので耳が良くなったのか、はっきりと分かる。どうやら一人のようだった。
久しぶりの人間だ。でも俺の墓に参りにきたとは限らない。他墓人が水をかけられて涼んでいるのを見るのはさらに辛いことになる。
階段の向こうに目をこらしてみたが、人間の頭は見えない。足音から察するに階段はもう登ったように思うのだが。
よくよく見ると墓石の間から白いワンピースが見えた。続けて黒い綺麗な髪も。登ってきたのは子供、それも少女だ。
こんなコテコテの清楚黒髪白ワンピース麦わら帽子美少女なんて、今どきいないだろとツッコミたくなる感じの女の子だった。少女は俺のいる墓石に囲まれた道をまっすぐ進んでくる。
右手に水桶をもって左手で柄杓をブンブン振り回している。おいおい、君の持っているのはバトンか何かか? そんな雑に扱ってバチはあたらないのか?
俺の心配をよそに、少女は鼻歌を歌いながらスキップで近づいてきた。水桶には満杯の水。今の俺にとっては命の水だ。
少女が目指す墓はどれか? 俺か? 横の墓か? それとも後ろか?
俺は存在しない手を握りしめ、少女の行方を見守った。
しかし少女は俺の前を華麗にスルーしていった。




