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重厚な扉が開く。


その瞬間、会場にいた貴族たちは一斉に姿勢を正した。


「国王陛下のおなりです」


深く響く声。


豪奢なシャンデリアの光の中、国王がゆっくりと姿を現す。


その後ろには近衛騎士たち。


場の空気が張り詰めた。


リリアンも静かにスカートを摘み、頭を下げる。


「楽にせよ」


低く、威厳のある声が響く。


貴族たちが顔を上げる。


国王は会場を見渡し、小さく息を吐いた。


「近頃、国民の間に不安が広がっていることは余も理解しておる」


あの学園で起きた事件。


子どもたちの死。


黒魔術。


すべてが国中を震わせた。


「だが――」


王は静かに続ける。


「だからこそ、今宵は大いに楽しむがよい」


一瞬の沈黙のあと、


「陛下万歳!」


「ありがたきお言葉!」


貴族たちの声が広がった。


楽団が演奏を始める。


優雅な旋律が夜会場を包み込み、次々と男女がフロアへ向かっていく。


その様子を見ながら、レオンハルトが肩をすくめた。


「まあ、積もる話もあるけど……とりあえず執事たちは元の主人のところに戻るってことでいいのかな?」


「そうでしょうね」


エリックが淡々と答える。

すると。


「坊ちゃん」


ガルバが静かに声をかけた。


レオンハルトはにやりと笑う。


「ああ、いいよガルバ。僕は可愛い女の子でも探しに行ってくるからさ」


ひらひらと手を振る。


「リリアンちゃん、ガルバをお願いね」


ぱちり、とウインク。


そのまま軽い足取りで人混みの中へ消えていった。


「おいおい、どういうことだ?」


ディオンが眉をひそめる。


すると次の瞬間。

ガルバがリリアンの前に跪いた。


「リリアンお嬢様」


大きな手を胸元へ添える。


「私と、この夜会のファーストダンスを踊っていただけますか?」


周囲がざわついた。


「まあ……」


「素敵……」


リリアンは一瞬目を丸くしたあと、小さく笑う。


「ええ。行くわよ」


その手を取る。


ガルバは優しくリリアンをエスコートし、二人はフロアへ向かった。


その背中を見送りながら、アシュレイが柔らかく笑う。


「随分と仲を深めたようですね」


「……そうですね」


エリックが眼鏡を押し上げた。


「いいのですか、エヴァン」

静かな問い。


エヴァンは無表情のままフロアを見つめていた。


「……お嬢様の望みであれば」


短い返答。


だが、その水色の瞳はほんのわずかに揺れていた。


エリックはふっと口元を緩める。


「全く。あなたも強情ですね」


「……」


「そういえば、先日の依頼ですが」


その言葉にエヴァンが視線を向ける。


「この一週間のあなたの働きぶりに免じて、赦すことにします」


「……っ」


エヴァンの目が見開かれた。


「エリック様……ありがとうございます」


深く頭を下げる。


ディオンがその様子を見ながらニヤリと笑った。


「ふーん。なんか企んでんなぁ」


ぼそりと小声で呟く。


その頃――。フロア中央。


ガルバとリリアンが音楽に合わせて舞っていた。


大柄なガルバに軽々と導かれながら、リリアンは優雅にターンを決める。


「リリアン様、流石の身のこなしでございます」


「武術みたいに言わないでちょうだい」


「これは失礼いたしました」


くすり、とガルバが笑う。


十二歳の少女。

そして大柄な護衛のような執事。


だが、その姿は驚くほど美しく調和していた。


「綺麗……」


「まるで絵画みたい……」


周囲の貴族たちも思わず見惚れている。


やがて曲が終わる。


ガルバが静かに頭を下げた。


「そろそろ休憩なさいますか?」


「ええ、そうね」


「何かお飲み物をお持ちします」


「ありがとう」


ガルバが離れた瞬間だった。


「ガルバ様!」


「先ほどのダンス、とても素敵でしたわ!」


「よろしければ私とも――」


貴族令嬢たちが一斉に集まる。


「え、あ、いや……」


珍しく戸惑うガルバ。


その様子を離れた場所から眺めながら、リリアンは紅茶を口にした。


(流石に執事といっても、それなりの家柄だものね)


背も高い。


体格もいい。


しかも頼れる。


(狙う女性が多いのも当然か)


そんなことを考えていると、


「あら?」


リリアンが周囲を見回す。


「ディオン様がいないわね……」


ついさっきまでいたはずなのに。


(彼も女性に囲まれてるのかしら)


会場は変わらず賑わっていた。


だがその裏で――。



王宮の一室。


「ディオン」


「はっ」


ディオンが片膝をつく。


フロアを早々に後にした国王とディオンの姿があった


国王は窓際に立ったまま、静かに口を開いた。


「エルシオン家の執事、ユリウスはどうであった」


ディオンは表情を消す。


「……恐ろしいほど何も出てきませんでした」


「ほう」


「完璧な執事です」


国王は目を細めた。


「やはり先の学園事件は、カイル・エルシオンの独断によるものだったのでは?」


「……そうか」


王は低く呟く。


「また何かあれば報告するように」


「御意」


ディオンは頭を下げた。


国王は小さく息を吐く。


「嫌な仕事を頼んで悪かったの」


「いえ」


ディオンは静かに答える。


「五大名家の内部調査は先代より与えられた使命ですので」


王は振り返る。


「……とはいえ、現当主たちは今回の執事交換でより信頼関係を築いたようだ」


窓の外では夜会の灯りが揺れている。


「ここから先はさらにやりにくくなるぞ」


その言葉に、ディオンの表情がわずかに引き締まった。


「覚悟しておきなさい」


「……御意」

ここまで読んでくださり誠にありがとうございます!

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