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ガルバが来てから、5日目。


朝。


リリアンは自然と目を覚ました。


薄く差し込む朝日。


静かな部屋。


以前のように、いつまでも布団に沈んでいることはない。


むしろ最近は、ガルバが来る前に起きるようになっていた。


――でないと。


(あの人、すぐ運ぶんだもの……)


思い出して、じわりと頬が引きつる。


貴族の令嬢が廊下を抱えられて移動するなど、本来あってはならない。


なのにガルバは真顔でやる。


本当に恐ろしい。


そんなことを考えていると。


――コンコン。


「お嬢様、失礼いたします」


「起きてるわよ」


リリアンはすぐに返事をした。


「さて、行きましょう」


扉が開く。


「お嬢様、おはようございます」


ガルバが柔らかく目を細めた。


「さすがでございます」


「毎朝運ばれそうになる恐怖があるもの」


「ふふ」


ガルバは楽しそうに笑うだけだった。



「吸って――」


「吐いて――」


朝のバルコニー。


いつものようにストレッチをしながら、リリアンはふと思う。


「……ねえ、ガルバ」


「はい」


「あなたって、もっと厳格な人かと思っていたわ」


「レオンハルト様と一緒にいる時は、もっと怖かったもの」


ガルバは少し考えるように目を伏せた。


「そう見えておりましたか」


「ええ」


「まあ、外では立場というものがございますので」


「そのように振る舞っていたのも事実でございます」


「それはそうよね」


アルヴェイン家は軍事を司る名家。


その執事ともなれば、自然と周囲へ威圧感を与える必要もあるのだろう。


だが今のガルバは、思っていたよりずっと穏やかだった。


するとガルバが、ふとこちらを見る。


「ですが」


「お嬢様も、この5日間で随分変わられました」


「……何が?」


「感情が豊かになられた」


「よく怒っていらっしゃる」


「それはあなたのせいでしょ!?」


リリアンが即座に言い返す。


ガルバは声を上げて笑った。


「失礼いたしました」


「ですが」


その声が、少しだけ優しくなる。


「あの事件の前は、お嬢様はもっと笑っておられました」


「……」


「その笑顔を」


「レオンハルト様も、私も、また見たいのでございます」


リリアンは動きを止めた。


風が金色の髪を揺らす。


「……ガルバ」


胸の奥が少し熱くなる。


自分が思っていたより。


ずっと多くの人が、自分を気にかけてくれていた。


そう気づかされる言葉だった。


ガルバは微笑む。


「ですが」


「1番お嬢様を想っているのは、やはりエヴァン様でしょうが」


「……わかってるわ、そんなこと」


少しだけ視線を逸らす。


「あと2日でございますね」


ガルバが空を見上げる。


「もう少しの辛抱です」


リリアンは少し黙った後。


ぽつりと呟いた。


「……そんなに悪くないわ」


「え?」


「あなたとの生活も」


ガルバが目を見開く。


「……っ」


珍しく言葉に詰まっていた。


「お嬢様……」


「もったいないお言葉でございます」


「大袈裟ね」


そう言いながらも、リリアンは少し笑っていた。



午後。


執務を終えた後の鍛錬。


「はっ……!」


木剣を振る。


以前より身体が軽い。


動きも随分良くなっていた。


「お嬢様、素晴らしい動きです」


ガルバが感心したように頷く。


「体幹も安定してきました」


「はあっ……はっ……」


リリアンは肩で息をしながら睨む。


「あなた、全然疲れてないじゃない!」


「私ばっかり疲れてるわ!」


ガルバは平然としていた。


「私は普段から戦っておりますので」


「わかってるわよ!」


悔しそうに髪を払う。


「……もう少しだけやるわ」


ガルバの目が柔らかく細められた。


「はい、お嬢様」



そうして。


ガルバとの時間は、驚くほどあっという間に過ぎていった。


そして。


夜会前日。


「お嬢様、少々よろしいでしょうか」


「何かしら」


ガルバが少しだけ真面目な顔をする。


「明日の夜会ですが」


「私と、一曲踊っていただけますか?」


「……え?」


リリアンが瞬きをする。


「あなた、踊れるの?」


「もちろんでございます」


ガルバは当然のように答えた。


「これでも名家の執事ですので」


「……そう」


リリアンは少し考える。


「でも、夜会ではもう元の主人のところへ戻るのでしょう?」


「はい」


ガルバは静かに頷いた。


「ですが正直なところ」


「この一週間、大変楽しい時間を過ごさせていただきました」


「その最後の思い出として」


「夜会では、お嬢様をエスコートさせていただきたいのです」


リリアンは少し目を丸くする。


そして小さく息を吐いた。


「……そういうことなら」


「でも」


ぴしりと指を向ける。


「夜会までの時間、ちゃんと稽古つけてよね」


ガルバが吹き出した。


「ははははっ」


「お嬢様らしいですね」


「素晴らしい向上心です」


「当然よ」


リリアンもつられて笑う。


夜会の日まで稽古をしたい。


そんなふうに思っている自分が、少しおかしかった。


けれど。


悪くない。


本当に――悪くない一週間だった。

ここまで読んでくださり誠にありがとうございます!

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