工藤潤!UFO内から宮城県の実家に電話する
私はそして、座り心地の良いソファーに寝そべって、目を瞑ってみた。微かに波の音と、潮の香がした。
確かに、ここは日本の真裏のどこかの海の上なのだろう。
UFO自体は何の音も発しては無く、ホント海の上に建っている超高層マンションのペントハウスにいる気分だった。
失業者の自分が海外旅行をして、超高級マンションかホテルの一室での、超高級ソファーに座って寝そべっている。
白いローテーブルの上には飲みかけのジャスミンティーのペットボトルがあるだけ。
「工藤さん、眠いですか?それでしたら奥の部屋に布団が用意していますが」
と、忌々(いまいま)しいその声、オーランド系が御丁寧にも私を気遣ってか、声を掛けて来た。
私は一瞬、強く目を瞑ってから、恐る恐る両目を開けてみた。
私の希望や願いは、いつもと同じ、自分の家で、いつもと同じ、だらしのなくアダルトDVDと、エロ雑誌とジャージとか水道料金の請求書とか、電話代の請求書とか、地方税の督促状とか、無造作に散乱している自分の部屋だ。
そんな本来なら希望に満ちていない世界を、今ほど渇望せずにはいられない気持ちで一杯だった。
そして、まず見えたのが、端正な顔立ちのイケメン俳優型宇宙人なのか異星人なのか、分からないがオーランド系が目に写り、ゆっくりと周りをパーンしてみると、それはまるで徹子の部屋であった。
夢は続いている。私は力なくそう言ったのは言うまでもない。
そうだ、さっきまで私は埼玉県の自宅にいて、パソコンの前に座って、職務経歴書をロクに見もしない応募先の総務人事担当者に、それでも淡い期待を胸に、せっせと製作していたのだ。
それが1時間前、それが今では日本の裏側に何の因果か逃げて来て、なんかもう今までの様な、一般小市民には戻れないほど、すんごく遠い所に来たもんだ!と、一瞬、グリーンの「遥」を歌いたくなってきた。
「とりあえず、日本全国のニュースを全部見せて!」
私はなんだか分からないけど、何かが吹っ切れてしまい、結構命令口調で、誰に言うでもなく、そう言った。
モニターは即座に私の命令通り、今現在、日本全国で流れているニュースをいくつもあるモニターに映し出してきた。
そして、私はいきなり仰け反ってしまった。
それは、私が一番危惧していた、自宅内の家宅捜査風景だった。
「こんなこと、いいのかよ!これ、プライバシーの侵害じゃないの!」
そうなのだ、なんとどこの局なのか分からないが、私の自宅に入って、映している映像が流れていたり、近所のオジサン、オバサンがインタビューされ、色々と工藤潤とは、どのような人物だったのでしょうか?
とか、若手の女性キャスターなどが、ここぞとばかりに借りだされて、夜遅いだろうに、私の住む埼玉県付近を徘徊していた。そして、また、とてつもない映像が流れて来た。
私の実家だ。
「宮城県まで来るなよな~」
仙台放送等が取材している風景がモニターに写り、妹の沙耶が取材に出ていた。
「これも、ほんといいのかよ~」
今、ライブ中継だったので、またUFO型マンションなのか分からないが固定電話の処に行こうとすると、
「妹さんに電話ですか?」
と今まで黙っていたキャメロン系が私に話した。
「ああ、そうだけど、何か問題でもある?」
私は慎重に、ゆっくりとキャメロン系を見て話した。
正直、私は冷たい氷の戦慄を背中に感じるほど、驚いていた。
か、彼らは、人の心が手に取る様に分かるのだ。
テ、テレパシーも簡単に出来るのだ。
あ、そう言えば、前に夢の中にも表れて、コミュニケーションしてくるとか言ってたな。
「そんなに、驚かないでください。いつもいつも、工藤さんの頭の中を見ている訳ではありませんから」
キャメロン系は、そう言って完璧な笑顔を私に見せてくれた。
美人が笑うだけでも卑怯なのに、あの太陽の様な笑顔と形容されるキャメロンそっくりの、キャメロン系が最終兵器を出したんだから、私の氷の戦慄は瞬く間に溶け出して、沸騰して、乾き切ってしまった。
「工藤さん、子機がありますので、これをお使いください」
キャメロン系はそう言って、いつの間にか、彼女の手に握られている電話の子機を私に渡して、電話を掛けるようにと、手で電話を掛ける仕草までしてみせた。
どこまで人間的な学習をしているんだ、キャメロン系は、しかも、凄く自然だ。
私は、言われた通り、子機を左手に満ち、妹の名前「沙耶」と呼んだ。
もしかしたら、この電話は私の意思だけで、通じるのかもしれないと、一瞬、思っている自分がいた。
モニターの前では、実家の前で困惑しながら質問に答えている、妹の沙耶が喋っている所だった。
そこへ、沙耶が右手に握っているデコメ型スマホが着信され、しかし、気付かないのか、出てくれない。仕方ないから、実家に今度は電話した。
何回かコール音が聞こえ、出たのは親父だった。
「あ、お、おれだけど、工藤、ジュンだけど」
私はなぜかテンパってしまい、実の親父に名字から名乗ってしまった。
「ああ、そっちは元気?」
と、考えたら親父の方もトンチンカンな受け答えをした。元気って、まあ、いっか?
「親父、なんかゴメンね!大袈裟なことになっちゃって、今のところ、オレは元気だし、大丈夫だから」
「そ、そうか、なんか凄いことになっているから、親戚からどうなってんの~って電話が矢継ぎ早にきてるからさ」
そう、親父は困惑したような感じで話した。
「それで、悪いんだけど、今、自宅の前で沙耶がインタビューでテレビに出ているよね、ちょっとこの電話を沙耶に持って言ってくれない?」
わたしの無茶振りに、親父は特に嫌そうな素振りも見せずに、玄関を開けて外に出て言った。
親父が使っていたのも子機だったのが幸いだ。
モニターには画面の後ろから玄関を開けて、ゆっくりと沙耶とインタビュアーに近付く親父の人影が映って来て、テレビクルーたちも一瞬、ざわめき出した。
そして、左耳に受話器を当てたままの親父が沙耶の横に来て、私には沙耶ちゃんに変わるから、と言い、沙耶には「おにいちゃんから」と、さも当然に、ほんと日常的な感じで子機を妹に手渡すと、親父は、また今来たペースで自宅の玄関へと歩き出していた。
モニターの中ではインタビュアーの若い男性が、あ、あの、おにいさんって、さっきの方、お父様?が言いましたけど、と戸惑っている画面に、妹は律儀にも「はい、兄からだと思います」と言って、カメラに一回頭を下げてから電話に出た。
「おに~ちゃん、どうしたの、大丈夫、今どこにいるの?」
そう沙耶がちょっと戸惑った感じで、話し始め、私が話そうとすると、一瞬テレビクルーの男性がしゃがみながら表れ、妹の胸に小型マイクを取り付け始めた。
そして、素早くOKマークを指で作って、カメラマンに合図した。
「聞こえる、そっちは大丈夫なの?」
と、沙耶が右側の耳を指で塞ぎながら応答し始めた。
その状況がテレビモニターに映し出されると、他の局で埼玉県の私の家周辺の番組とかが、ホント一斉に切り替えて、ましてやバラエティー番組や映画、ドラマを放送している番組までも、番組の画面を小さくして、テロップが流れるワイプって言うのか、そんな画面作りで対応するキー局まで表れ出した。これもそれも、この日本の裏側にあるマンション型UFOのテクノロジーのお陰だ。
「ゴメンね、心配掛けて、テレビで放送されてるけど、大袈裟になったね」
私は極力、平静を装った感じで妹に話した。
「うん、こっちは大丈夫だけど、おにいちゃんは大丈夫なの?今どこなの?テレビでも見たけど、UFOごと一瞬で消えちゃったけど、今、どこにいるの?」
妹の沙耶の声が、テレビモニターからも同時に聞こえてきて、ちょっとしたテレビ電話の感覚を味わっていた。
「ああ、大丈夫だよ、今は日本からだいぶ離れたところだけど、問題は無い状態だよ、って、こんなに大袈裟なことになったのだから、問題無くは無いか」
「おにいちゃん、あの人たちと一緒なの、それで、まだUFOの中なの、あと、どうやってここに電話出来たの、今、逃げているところなの?」
沙耶は、段々、平静を取り戻したのか、矢継ぎ早に質問攻めをした。
「まだ、UFOの中だよ」
私はそう言って、UFOの中、と言ってもただのマンションの部屋の様な風景を見渡してみた。
ホント、映画に出て来るような、良く分からないが、何か一つ大事な役割がありそうな、無数に光る計器類やボタン類があれば、それはそれで説得力があり、私は今、遥か宇宙の彼方から、やってきた、地球のテクノロジーなど、原始人の 石斧感覚であるほどの、超テクノロジーを持って、我々人類に友好的に接触してきた、宇宙のイケメン、なになに星人の○○さんと同じく宇宙の美女、○○さんと本当になんの問題もなく、友好を深めています。
ってな感じのリポートなどをするはずなのだが、どう考えても、マンションの一室であり、でもいつの間にか徹子の部屋みたいなスタジオに早変わりし、その状況に応じて、瞬時に変化する室内が、テクノロジーという言葉が意味を持たないほどの、正に魔法の世界に紛れ込んだ、言ってしまえばそんな感想だ。
「大丈夫なの、何かされた?生体実験とか?」
妹は、UFOに乗っているオーランド系とキャメロン系が、良くテレビで特番として表れる銀色の身体で、目が異常にでかい、通称グレーって言うのかな?みたいな宇宙人といま一緒か、UFO内の無機質なコンテナー格納庫の檻みたいなところから、連絡してきているのだろうと思っているのだろう。
他の番組では情報を把握できていない所もあり、未だに信じられない事態がここ、日本で起きています。
とか、メキシコ上空なら、分かるのですが?とか、メキシコならUFOが出現して、目の前で人がUFOに攫われて良いにかよ?とか突っ込んでもみた。
「大丈夫、人体実験も、何もされていないし、はっきり言って自由で快適だよ、このまま、埼玉の家に帰って明日のことや日常的なことに戻りたいけど、こんなに大袈裟になるなんて、マスコミも悪いよね」
私は、勝手に自分の部屋や実家、家族の所まで押し寄せるマスコミ批判を堪らなくなって、思わず言ってしまった。
実家の玄関前では、報道関係者や、警察の姿も多くなって来て、俄かに辺りが騒がしくなって行くのが、モニター上でも窺われた。
私はなんだか、他に話すことも見付からなくなり、切ろうとすと、妹がカメラマン横のクルーを見ながら、まだ、電話切らないで!と言った。
明らかに誰かの指示で発した言葉の様だ。
「沙耶、どうしたの、後ろのテレビ関係者から何か指示でもされた?」
私の指摘に沙耶もだが、モニター内もガヤガヤし出した。
「おにいちゃん、今、どこかでこのテレビを見ているの?」
「ああ、さっき見ているって言ったじゃない」
「それは、今リアルタイムで見てるとかじゃなく、どこかで、見ていた、そんな感じかと思って」
沙耶も驚きを隠せないでいたが、それよりも、テレビモニター内が益々騒がしくなり、サイレンの音が遠くの方から近付いてきたり、ヘリの音も近付いてきた。
「工藤さん、日本政府はアメリカからの要請により動き出しました」
私は子機を左耳に当てながら、熱心に沙耶の出ているモニターを見ていると、キャメロン系が私の横から淡々と話した。
「え、アメリカからの要請?日本政府?」
「正確に言えばペンタゴン内日本対策本部から内閣官房内閣情報調査室「CIRO」へ連絡、そして防衛庁長官から宮城県近隣の県の陸上自衛隊へと出動命令が下されました。日本政府は、いやアメリカは工藤さんの確保を決定したのです」
「確保?待ってよ、確保って、で、なんで?彼らは私の実家、宮城県に集結するの?」
「それは、まず工藤さんが実家の近くか、宮城県から近い近県に潜伏しているものと推測しているからです。次に今現在の地球上のテクノロジーでは1時間か90分での移動は、常識的に考え、300キロから500キロメートル移動が常識の範囲内と算出、よって工藤さんの実家に自衛隊、警察が集結しているのです」
今度はオーランド系が実に滑らかな口調で的確な説明を私にしてくれたが、その説明が本当であればある程、信じられない、と言う気持ちと、どうすれば良いのか?と言う気持ちが頭の中をぐるぐると回り出し、脳がショート寸前になっていた。
「また、悪いことに、内閣官房内閣情報調査室、長いのでこれからはCIROと今後言いますが、CIRO内危機管理センターから、実家の妹さん、お父さんの確保要請、及び人質として確保との要請も出ております」
「は?なにそれ?おいおいおい、ハリウッド映画じゃないんだから?じゃあ、どうすればいいのよ」
私はオーランド系の報告を聞けば聞くほど、絵空事の様に感じ、現実逃避しようとする自分と、この危機とやらを何とか脱しなければならないと言う、自分でも分からない闘争本能が湧いてきた。
「どうしましょうか?」
そんな私の頭が大混乱の状態に、止めを指すがごとく、オーランド系が私に指示を仰いだのだから、本末転倒である。
「まあ、長い間では無いが、まあ、短くともあなた達と一緒に行動していて、分かってきたような、つ、つまり、あなた達は自分の星では無い人々や物を勝手に干渉することは出来ないと、だから自分の星の人が自分で考え、自分で行動を取れと、そういうことですよね」
私は、この異常な状態で、変に居直っている自分が表れ始め、ウンザリするような感じで二人に向かって話した。
「素晴らしい、その通りです工藤さん、わたし達の考えが分かって頂けましたか?素晴らしい、やっぱり我々の目に狂いは無かったです」
と、二人はそんなことを私に話し、キャメロン系など軽く拍手をしてくれた。
私は心の中で、あんたらに十分以上に干渉されましたよ!と、メイ一杯毒づいたが、それは事態を終息してからと考えを切れ変え、この際、今までの全てを日本へ、そして全世界に教えてやろうと考えた。
「その通りです、工藤さん、最初っからそうしていれば話が早かったのです」
キャメロン系が私が口に出す前に、そう言って私を見て言ったので、なんだ、やっぱり私の頭や心の中は全部お見通しなんじゃない、と、半分諦めながらも、私は行動に転じて行った。




