始まり
今回、主人公が登場します。
物事の重要さを「運命度」で表示できる「運命測定器」。
舞台はそれが開発されてから80年ほどたった世界。
楽しんでいただければ嬉しいです。
『該当するデータが見つかりません。再度読み込みをお願いします。』
「やっぱりですねぇ。なんでかしら。」
「すみません、もういいです。ありがとうございました...」
栢森柏子は、ぐったりしながら席を立った。
大学の就活センターで、3年生である柏子は診断をしていた。もう10回目になる。
診断といっても当人の意思や志向は関係なく、運命測定器が出したデータを基に、就職する会社を自動決定するものだ。大体の生徒は一回来て、%の高い会社に履歴書を出して合格、というのが普通のコースだ。企業側も運命測定器の値以外はほとんど見ないため、これで十分なのである。
ただ柏子の場合、歴史学を専攻しているにも関わらず、学芸員はどこへ行っても30%を超えればいいところで、ほかに歴史の教員や司書なども40%ほどだった。一般的に採用には70%以上が定例なので、柏子の値は絶望的といえる。
「なんでなんだろ...真面目にやってきたのになあ。」
「みんな望んだとこに就けるわけじゃないんだから、しゃーないでしょ。」
「でも硝子は第一志望にいけたじゃない。」
「まあね♪私は神様に愛されてるし♥」
礎硝子は自信ありげにウインクした。
硝子は柏子の同期で、いわゆるモデル体型の美人。本人は目を強調したメイクを好むが、すっぴんのほうがかわいいと柏子は思う。
実際自分が本当に希望する職種につけるのは2割前後だが、硝子は第一志望のメイク業界の中でも最大手の会社に一発で採用が決まった。大学の成績のさることながら、89%という高い数値が決め手だろう。
「はあ~、やっぱ歴史系は無理かなあ。」
「趣味でやっとけってことじゃないの?仕事は別で。」
「それでも不本意なんだよ。今までずっと好きで頑張ってきたのに、あなたとはかかわり薄いですよ、って言われてるみたいで。」
「そんなものかねえ。」
「もお~、一発で受かった人にはわかんないよ!」
「ごめんごめん、お詫びにここおごるから...ってもう行かなきゃ。私この後同期と顔合わせあるんだよね。」
「あ、そうなんだ...」
「ごめんね!じゃ!」
柏子はため息をつきながらカフェを出た。
歴史が好きだった。図書館にあるような歴史の漫画を泣きべそ書きながら買ってもらったのは、いまだに親戚の間で語られている。学校のテストでも1位以外をとったことはなかった。事実、この大学も歴史学科は相当偏差値は高いのだが、90%という驚異的な数値で合格になった。
好きだった、頑張って勉強してきた歴史を取られるのは嫌だった。自分が自分でなくなってしまうような気がした。
下を向くと泣いてしまいそうなので、上を見上げた。空は薄い雲がかかっていた。
ヴ―ン!ヴ―ン!
ケータイが鳴った。画面には見たことのない電話番号が出ていた。
「はい」
「失礼します。わたくし、アリス社の火灯と申します。栢森柏子さんでよろしいですね?」
「え、そうですが...」
「いまから迎えがそちらに行きます。詳しいことは社のほうでお話ししますので。」
「え、ちょちょっと」
ブツッ
柏子の目の前に、黒塗りのリムジンが止まった。
「柏子様ですね。どうぞこちらへ。」
「へ?え、あ」
リムジンは静かに走り出していった。
評価、感想いただけたら嬉しいです。
よろしくお願いします。




