【序章】
悪いことをしたら、法律で裁かれる――は、間違いではない。
が、正解ではない。悪いことをしても、バレなければ捕まることはないのだ。そんな訳で俺は世間でいうところの半グレとして、悪行に手を染めて生きていた。
オレオレ詐欺やロマンス詐欺で、馬鹿なやつらを騙して大金を稼いできた。別に、心は痛まない。金の前では、全てが偽善だ。悪いことをしてでも、金を稼げなければこの世は地獄だからな。
貧乏を美徳だと言うやつほど、愚かな奴はいない。
生きている限りは、どんなことにも金がいるのだから当たり前だろうが。騙される奴が悪い。
――この世は、弱肉強食。食うか、食われるかだ。ならば俺は、食う方を選ぶ。ただ、それだけだった。
なのに俺は、部下たちに嵌められた。
日本でオレオレ詐欺をしてた時に足がつきそうになったので、俺はフィリピンに飛んだ。そこでも適当なゴロツキを集めて、オレオレ詐欺のグループを作っていた。
日本人だけでなく、現地の人間や多国籍の奴らも引き入れた。暴力と金で、グループを纏めてきた。それなりに上手くやれていたはずだった。
十年が経ち、50歳の手前で裏切りにあった。
部下たち5人に囲まれていた。ヘラヘラと笑う痩せこけた外国人が、癪に障った。腹が立ったので、殴った。それが、引き金だった。銃こそ持っていなかったが、向こうはナイフを持っている。そんなことは、別に関係ない。ガキの頃から、修羅場は何度も経験していた。今回も、大したことはない――そう、高を括っていたのだが、老いには勝てなかった。
自分が思っていた以上に、衰えていたのだ。三人を沈めた時には身体が悲鳴を上げていた。思うように、身体が動かなかった。気付いたころには相手の数は増えていて、俺は抑えつけられていたんだ。
俺は老いを呪った。
もう少し若ければ、こんな奴らに負けていなかった。本気で、そう思った。縛り付けられて、ガムテープを口に巻かれた。今まで俺が多くの者にしてきた事を、やられる側に回っただけのことだ。いずれは誰かに殺される――その覚悟は出来ていた。
殴られ、刺され、嬲られながら、じっくりゆっくり殺されていった。一度もたりとも、悲鳴は上げなかった。しょうもないプライドが、有ったんだと思う。
視界が真っ黒になって意識が遠のいた時に、異様な熱を感じた。周囲を焼く、炎の熱だ。それを感じながら俺という存在が消えた。
――そして、目覚めた時。ボロ小屋に居たんだ。それも、子供の姿でだ。意味が解らなかった。何が起きたのかが、理解の外に有った。
これが噂に聞く、生まれ変わりってやつか。それにしては、前世の記憶がしっかりと残っている。どうやら夢でもなさそうだ。解っているのは、今の俺が4、5歳ぐらいのガキだってことだ。
まぁ、何だっていい。人生をやり直せるんなら、楽しませてもらうさ。今度は失敗しないように、上手く立ち回ってやるだけだ。




