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第一章:イエローアパタイトの暴露 第1部:泥中の原石【1】

意識が、深い泥濘の底からゆっくりと引き上げられていくような感覚があった。

最初に感じたのは、背中に当たる硬いマットとゴワゴワなシーツの感触。次に、鼻腔をくすぐる薬草と、埃の混じった木の匂い。遠くで、誰かの怒鳴り声や喧騒が微かに聞こえる。ここは、あの冷たい雨が降る路地裏ではないらしい。


重い瞼を、力を振り絞って押し上げる。

視界はぼやけていたが、やがてゆっくりと焦点を結んだ。

最初に映ったのは、一人の少女の顔だった。


「……!」


思わず息を呑む。顔を覗き込むようにして、こちらを見つめている。歳の頃は十二、三といったところだろうか。陽の光に透けるようなグレーのストレートの長い髪と、人形のように整った顔立ち。しかし、その金色の大きな瞳には、歳不相応な強い警戒心と、隠しきれない好奇の色が浮かんでいた。


俺が目を覚ましたことに気づくと、少女はびくりと肩を震わせ、慌てて後ろへ飛びのいた。


「……起きた。やっと」


ぶっきらぼうに、それでいてどこか安堵したような声で彼女は呟いた。俺は何かを言おうとしたが、喉が渇ききっていて、ひび割れた唇から漏れたのは掠れた空気の音だけだった。体を起こそうにも、全身の筋肉が鉛のように重く、指一本動かすのがやっとだった。


「動かない方がいい。三日も寝てたんだから。死んだかと思った。ウィルマ!男の人、起きたよ」


少女がそう呼びかけたとき、部屋の扉が軋む音を立てて開いた。


「ありがとう、ラケル。悪いね。看病任せちゃってさ」

「ちょっとジュースを口に含ませてあげただけだから、大したことはしてない」


入ってきたのは、雨の中で俺を見下ろしていた、あの女だった。

少女と会話を交わし、俺のほうを見る。


「気分はどうだい。スラムの路地裏に流れ着くなんて、不幸なやつだね」

「……ここは」


ようやく絞り出した声は、自分のものではないように嗄れていた。


「あたしの家さ。大したところじゃないけど、雨風くらいはしのげる」


ウィルマと呼ばれた女性は、ベッドの脇に置かれた椅子にどかりと腰を下ろした。「物好きなもんでね。上等な死体になりかけてるあんたを見つけちまったんで、つい拾っちまった」


ラケルと呼ばれた少女が、木の椀に入ったスープを無言で差し出してきた。湯気の立つ、具の少ない素朴なスープ。その匂いを嗅いだ瞬間、俺の腹がぐう、と情けない音を立てた。数日間、何も口にしていなかったのだ。当然の反応だった。


しかし、一瞬、手が止まった。


『施しなど受けられるか』


罪人の息子とはいえ、俺はピエトラ家のエリィだ。

こんな、どこの馬の骨とも知れない連中から……。


貴族としてのプライド。

しかし、そんなもの、ちっぽけな矜持は、抗いがたい生命の欲求の前では、あまりにも無力だった。俺は震える手で椀を受け取ると、夢中でその温かい液体を喉に流し込んだ。


塩気の効いた、素朴な野菜の味。

それが体に染み渡った瞬間、俺の目から、堰を切ったように涙が溢れ出した。


美味いとか、まずいとかではない。ただ、温かいものが腹に入るという、その事実が、凍てついていた心を無理やり溶かしていく。父上のこと、母上のこと、失った全てのこと。そして、今こうして生きている自分の情けなさ。様々な感情がごちゃ混ぜになって、嗚咽となって漏れ出た。


ウィルマは優しい声で、こういった。


「相当つらかったようだ。まあ、今はゆっくり休みな」


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