第七話 最悪なスタート
ごきげんよう。私はご機嫌よろしくないが。
先日行われた魔力検査と家柄によりめでたくAクラス入りを果たした私は、やはりというか、早速クラスで孤立した。
私が入室してから、教室の雰囲気は一変した。楽しそうな喋り声は絶え、どの生徒も私から離れ、極力目を合わせないように徹している。偶にそうでは無い生徒もいるが、好意的な視線でないことは明白だ。
私は心底うんざりしたが、気にしていては身が持たない。幸い私の席は後ろの隅なので、授業が始まるまで持参した星図集を眺めて無視をするつもりだった。
そんなクラスに空気を読まない男が一人参上する。先日の入学式にて学院中の注目をその身一点に集め、将来の王座を約束された男。あの忌々しきオーリオン・ピヴワヌ・トルネソルだ。
奴はヘラヘラと笑みを浮かべながら教室の端から順番に挨拶と自己紹介をしてまわり、遂に私の元へ辿り着いた。私は努めて無視をし、話しかけて欲しくないことを態度で示すが、しかしこの男には通じなかったようだ。
「やあ!君は随分と努力家みたいだね。尊敬するよ!僕はあまり努力が得意じゃなくてね。努力家の友達が居ればきっと僕にも努力が身につくと思ってた所なんだ!僕の名前はオーリオン・ピヴワヌ・トルネソル。君に会えた幸運を太陽に感謝するよ。僕のことは気軽にオーリオンと呼んでくれ!」
馴れ馴れしく私の机に腰掛けてくる。その礼儀を弁えぬ品位の欠片もない行動に腸が煮えくり返る思いだったが、なんとか堪えて無視を続ける。
「ねぇ、そんなに頑張って捕まえなくても本は逃げたりしないよ。たまには肩の力を抜いて、友達とゆっくり話し込むのも大切だよ?ああ、きっと君と僕は良い友人になれるね!お互い足りない所を補い合えるよ!さぁ、君の名前を教えてくれよ」
「…………」
「おっと、これは失礼。勿論君の名前も知っているさ。メアリー。メアリー・ヴィオラクィラだろう?クレイモン宰相の娘の。君のお父様は優秀だっていつもお父様が言っているよ。『クレイモンは我が国の宝だ!奴の言う通りにしておけば万事何とかなるのだからな!』なんて!面白いだろう?我が父ながら情けないとは思うが、でもそんなふうに言える臣下を持てるのも素晴らしい事だよね!出来れば僕もそんな臣下が欲しいんだ。ねぇ、僕達が一緒に頑張ればこの国を世界一の国に出来るんじゃないかな!ほら、炎の天才と闇の天才、それに努力家の君と才能溢れる僕!ほら、いい案だろう?」
しつこく身振りをつけながら語ってくるオーリオン。私はいないものとして無視を続けていたのだが、奴はあろう事かその汚らわしい指で私の本を触ってきた。一瞬で怒りが頂点に達し、私はその指をひねりあげた。
「ッ痛だだだだだだ!」
ハッと我に返りその指を解放する。奴はフーフー息を吹きかけながら指を確認している。
私は自分のしでかした事に冷や汗を流しながらも、しかし怒りは収まらず王子を睨みつけた。
「どうしてこんな事するんだよォ……!僕はクラス全員と仲良くしたいだけなのに……!」
一部始終を見ていた周りがガヤガヤと騒ぎ始める。流石にこのままでは不味いと、私は怒りを抑えて謝ることにした。
「……大変申し訳ありませんでした。オーリオン殿下。本に読みふけっている所で急に本を掴まれたものですから、つい頭に血が登って確認する間もなく暴力に訴えてしまいました。しかし殿下、何故そこまで私に構うのですか?ご覧の通り私は黒髪。私自身のあまり良くない噂を聞く事も少なくないです。そんな私に構っていると風聞も悪くなりましょう。大切な将来を守るためにも、私は居ないものとして扱って下さいませ」
そうら、どっかへ行ってしまえ。
私は一応の作法としてのお辞儀をし、再度本に向かう。私の態度に周りが気色ばむのが感じ取れたが、私は私の心の平穏の為にもこいつとは距離を置きたい。
しかし、奴はまだ離れずに私の周りをチョロついてくる。
「いや、こちらこそ勝手に読書を妨害してしまう形になってしまって、配慮が足らなかったと反省してる。ごめん!でも、どうしても僕は君と友達になりたい。黒髪なんて気にしないよ。僕は君を見た瞬間感じたんだ。君こそが僕にとって最も重要な臣下になるって。ねぇ、君は僕と友達になるメリットを感じられないかもしれないけど、こう見えて僕は王子だから!きっと君の役に立つよ!だから友達になろう?」
「そうだ!今度勉強会でもしない?クラスで人を集めてさ!三人集まれば文殊の知恵、クラス全員ならもっとすごいよ!王宮に大きな空き部屋があるんだ!そこを勉強室に改装してもらえばきっと捗るよ!」
やかましく騒ぎ立てる王子に、再度イライラが募っていく。ゲームではこいつに恋をしていたらしいが、そんな事絶対起こりえないし、認めたくもない。浮気男なだけでなく喧しくてKYなんて、絶対に有り得ない。
やはり無視を続ける私に構わず王子が勝手に予定を立て始めた辺りで、勢いよく教室の扉が開いた。
「喧しい!授業前には私語を慎み、自分の席で待機していなさい!」
声の主は、ピシッと切りそろえたショートヘアを風になびかせながら教卓に立った。
席を立って私達を取り囲み観察していた生徒は皆急いで席に戻り、いつまで経っても喧しかった王子も今度は静かに離れていった。
「全く……A組としての自覚が足りていませんね。指導が必要です。私は貴方達の担任になったマリアベル・クラインです。クライン先生と呼びなさい。小等部を卒業するまでの三年間、しっかりと貴族として自覚のある行動を身につけてもらいます」
クライン先生はそう言って教室を睨め回した。
一部の男子は彼女に心を奪われてしまったようで、頬を上気させ、ぽーっと見惚れる程魅入っているのが何人かいる。先生はそれ程に若くスタイリッシュで美しい人だった。
「私は国語、算術、歴史、作法を受け持ちます。魔術はサフィルアベイユ教諭、生物はペルラセンテ教諭、武術はジエーゴ教諭、美術はファルラーヴ教諭、音楽はペティシエ教諭が担当する。ジエーゴ教諭はB組、ペティシエ教諭はC組、ペルラセンテ教諭はD組に居ます。サフィルアベイユ教諭は魔術研究室、ペルラセンテ教諭は実験室に行けば大体会えましょう」
担任が国算史を担当するのが決まっている。なのでクライン先生の専門は作法なのだろう。
作法。その科目には嫌な予感しかしない。何故ならこの国の作法は宗教の影響を強く受けていて、つまり大陽教に造詣が深い人間が教師を務める事が多いのだ。
そういえばさっきからちょくちょく先生と目が合うが、もしかしなくても目を付けられているのかも知れない。教室に入った時に騒ぎの中心にいたからだと願いたいが、まあ十中八九髪の事でだろう。
「時間割は扉にあるので各自確認しておくように。先程も言いましたが、私の生徒としてこれから学んでいく以上、貴族として恥ずかしくない程度の品位を身につけてもらいます。先程のように騒ぐなんて言語道断。そしてメアリー・ヴィオラクィラ。先程のように騒ぎを起こす様なら下のクラスに落ちてもらいます。良いですね」
「はい、申し訳ありません」
「ふん、口だけでない事を願っていますよ。では、只今から国語の授業を開始します。配布された聖ソレイユ語辞典を開きなさい。皆さん既にソル文字は書けますね?はい、なら良いです。まず……」
入学早々最悪なスタートだ。クラスで嫌われ、王子に付きまとわれ、先生に目を付けられる。
これからの学院生活、将来に不安しかないが、今は大人しくするしかないのだろう。私は心に渦巻く様々な感情を諦めて、小さくため息をついたのだった。
投稿一日空いてしまって申し訳ないです。
私事で申し訳ないのですが、これから忙しくなるので更新安定しないと思います。
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