第8.5話 迎えた週末の出来事
今回は前回のクラス制作を終えた雪月少年の週末を描きます。
次章へのつながりもありますが、軽い気持ちで読んでいただけると幸いです。
第8.5話 迎える週末の出来事
~雪月の視点~
クラス制作の一件が終わったその週末。
「起きてよ、おにいちゃん、今日はどこか行こうよ。」
雪乃のその声で目が覚める。
「そうだな、少し近所でも散歩しようか。」
朝食を食べ、外に出る服に着替える。
「雪月、ちゃんと雪乃を連れていってね。目を離すと危なっかしいんだから。」
「わかってるよ、母さん。」
前を見ると準備万端の格好をした雪乃が待っている。
「早く行こうよ、お兄ちゃん。」
4月末、あっという間に過ぎた1カ月だった。入学の時は満開だった桜も、もうすでに散ってしまい葉が出てきている。隣の家にいる柴犬は今日のちょうどいい春の暖かさからか、見るからに心地よさげな顔で眠っている。
「本当に忙しかったな。今月は本一冊も読めなかったしな…。」
クラス制作の後、新入生への部活動オリエンテーションが行われ、隼人はサッカー部へと入った。隼人からは
「本当に広報部でいいのか。いまなら変えることもできるんだぜ。」
と言われたが、別に不満もなかったので、大丈夫だよと答えた。
「それならよかったよ。もしあんな張り紙を出されたせいで引くに引けなくなってしまっていたら嫌だしな。」
と隼人は安心した雰囲気で答えた。きっと隼人はクラス制作の件をめぐって、忙しそうに動いていた僕の身を案じていてくれていたのだろう。友達想いで本当に感謝している。
クラス制作と言えば、その後僕の書いた記事は少し校内で反響を生んだ。
正しさは一体どこにあるのか。生徒会長にとってこれは難しい問題だろう。全ての生徒にとって納得のいく答えを見出す、そこに生徒会長の仕事の本質がある。
そんなことを考えながら、紹介などの記事を書いた。
「おにいちゃん、ソフトクリームが食べたいよ。」
目の前を見るとカフェにソフトクリームの看板が出ていた。
「じゃあ300円渡すから買ってきていいよ。」
お金を手渡すと雪乃は受付の前まで走っていく。
いつの間にか結構歩いていたようだ。足が少し疲れていたのでカフェのそばにあるベンチに腰を下ろす。
「こんにちは、雪月くん。」
突然声をかけられたので、少し驚いたが、振り返るとそこにいたのはハル先輩だった。
「ハル先輩、こんにちは。家はこのあたりなんですか。」
「この辺りってわけでもないけど、少し図書館に本を返す用があってね。」
橋を渡った向こう側にはこの町の総合図書館があった。
「この人だあれ。」
ソフトクリームを買い終わったようだ。雪乃はお気に入りのミルクソフトクリームを手にもって立っている。
「こちらは同じ部活のハル先輩だよ。雪乃挨拶して。」
「はじめまして。ハルお兄さん……。」
雪乃は兄と同様人見知りなのでそういうと後ろに隠れてしまった。
「かわいい妹さんだね。」
「いえいえ、挨拶もろくにできなくて申し訳ないです。」
「クラス制作の終わった後あまり話すことはできなかったけれど、お疲れ様、雪月くん。」
「ありがとうございます。」
「とりあえずの予定話してもいいかい。もし今時間があるなら。」
「……予定ですか。時間は全然あるので大丈夫ですが。」
予定とは広報部のことだろうか。
「ゴールデンウィークに親睦も兼ねてどこかへ行こうと思っているんだ。君は来れるかい。」
いやいつも思うけどこの先輩話が急すぎやしないか。
「まぁ、今返事してほしいわけではないからさ。少し覚えておいて。」
「わかりました。ちなみにどこへ行くんですか。」
そう聞くとハル先輩はふふっと笑った後、
「秘密だよ。」
と言って、自転車に乗って図書館の方へ行ってしまった。
今後の予定を話すから時間あるかってきいたのに、もう帰ってしまうのか。
「変わった先輩だな。」
思わず独り言が漏れてしまったが、隣の雪乃はアイスクリームに夢中だった。
(続く)