第14話 波乱あり?生徒会選挙の表側(後編)
第14話
「どうして私を選んだのですか。」
そういった時、秋月さんはやや悲しげな顔を浮かべた。だがそれも一瞬の出来事だった。
すぐに秋月さんはいつもの笑顔に戻り、こう答えた。
「うーん。理由があるというわけではないな。ただ君が私の推薦人に向いていると思ったからさ。」
「直感っていうことですか。」
「直感…違う違う。君と過ごしてて、一番ふさわしいと思ったからさ。」
目の前の彼女はそう言っているが、私には彼女がそのように言う本心が分からなかった。事実、秋月さんとかかわった時間は確かにかなり多い方だった。誰とでも気さくにコミュニケーションをとる彼女は私にとっても接しやすい人物である。ただしかしそれでも私以外に適任者がたくさんいるように思われたからである。特に先ほどあったハルという名の同級生など。
そんなことを考えていると、秋月さんはこちらの様子をすぐに理解したようで、私にこう言った。
「あなたは覚えていないだろうけど、高1の入学式の時、君が話しかけてくれたことを覚えているかい。」
「それは覚えています…。それがどうかしましたか。」
そう答えると、秋月さんはにこりと微笑みながら私の手をとって話を続ける。
「少し、この町を歩こうか。なぁに、時間はそんなにとらせないさ。あんまり遅いと家の人も心配するだろうからね。」
この町を5分ほど歩く。
「あの、秋月さん。どこに向かっているんですか。」
「まぁまぁ、ついてきなって。それよりもさっきの話の続きをしてもいいかい。」
「えぇ、どうぞ。」
行き先も分からないまま、歩くことに対して少し怖さを感じつつ、とりあえず本来の目的を進めることにする。
「実はね、私、ずっと一人暮らしをしているんだ。中学生のころからちょっと事情があってね。そういう事情があってか、ってわけでもないかもしれないんだけども人間不信なところがあってさ。中学校ではあまり友達もできないままって感じだったんだ。」
彼女の口から語られる過去は、今の彼女の姿とはまるで正反対の姿だった。性格は暗く、人見知り。消極的で、クラスではいつも端っこにいて…。
作り話なのかなと思った。けど、その話を語る彼女の顔を見る限り、その話がウソのようには思えなかった。
「そんな自分を変えるように言ってくれたのは、ハルだったのさ。あぁ、ハルって男はいつも世話焼き屋でね。私のことに関してはなんでも手伝ってくれる幼馴染さ。でもそんな彼でも私の学校でのスタイルを変えることはできなかった。だってそれは私の問題なんだから。私はこういう暗い自分を変えたかった。
そこでこの高校に受験し合格して、新しいスタートを切ることにした。」
そこまで言うと、秋月さんはこちらへ向き直る。
「着いたよ、ここは私が落ち込んでいるときによく来る場所さ。」
そういわれて前を向くと、この町が一望できる光景が目の前に広がっていた。
「君はね、意識をしていないかもしれないが、この私を変えるスタートを切らせたのさ。キミが話しかけてくれたこと、ささいなことだったけれども、私にとっては大きなことだったのさ。君が話しかけてくれたから、私も周りの人に話しかける勇気をもらえた。本当に小さなことだろう。」
入学式の日、私が彼女になんて話しかけたのなんか覚えていない。それほどどうでもいいことだったのだろう。けれどそんな些細なことが、他人にとって大きな意味をもたらしたようだ。そう思うと、自分でもなぜだかわからないが、なんだか笑ってしまいたい気分になってきた。
なんでもない、ありふれた、至って普通な、どこにでもあるような。そんな一言が彼女を生むなんて。とってもばかばかしいし出来過ぎた話だ。そんなことがあるものか。けどなぜだかその話は、私の心に何かしらの変化を与えた。
「信じるかどうかなんていうのは君の勝手さ。だけど、もし信じてくれるのならさ、」
「いやわかったよ、理香。私にできるかどうかはわからないけど、皆に言葉をぶつけてみるよ。」
そういうと、一瞬理香は驚いた顔を浮かべたが、すぐにいつもの笑顔に戻り、
「そう言ってくれて、私は嬉しいよ。心、よろしくね。」
「ここから私たちの会長選は始まったのさ。」
話し終わった時沢先輩の顔には優しい微笑みが浮かんでいた。
「あの失礼ですけど、美化はしてないですよね。」
「あはは、してないしてない。本当のことさ。」
物語のように整った話だったが、そういうのなら本当のことなのだろう。だが……。
「どうかしたかい、雪月くん。」
顔を上げると、目の前に時沢先輩の顔があった。
「うわぁぁ、近いです、近いです先輩。」
「悩んでいる後輩は見捨てられない主義だからね。何でも言いなよ。」
しばらくその話を聞き、考えていた。時沢先輩とハル先輩、そして秋月会長との出会い。秋月会長の言葉の影響力はその時からカリスマ性を既に持っていて、それが時沢先輩を動かしたんじゃないかと思うと趣深い。
「今の話の中で、ハル先輩が推薦人になれない理由がよくわかんないですね。そこを聞きたいです。」
窓際に座る時沢先輩に話しかけるが、中々返事は返ってこない。様子を見てみると信じられないことにこの一瞬で時沢先輩は眠りに落ちていた。日ごろの疲れも含め今日はすっかり楽しんだのだろう。あの会長の補佐をしていることだから。
「詳しい話は後日聞こうかな。ふわぁ、僕も眠くなってきちゃったしもう寝よう。」
時沢先輩が風邪をひかないよう軽く布団をかけてあげた後、電灯を消し自分の布団にもぐりこむ。明日も朝早いし、寝坊は気をつけなければと目覚まし時計を準備し雪月は眠り込んだ。
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「話は終わったのかな、電気が消えたよ、ハル。」
「理香は、時沢さんはどこまで話したと思うかい。」
向かいではそんなような会話がされていた。
「ある程度は話してくれたんじゃないかな。まぁ、明日は私が話すのか~。」
「そうだね、とりあえず早く自分の部屋で寝なさい。あっちも寝たんだから、こっちも寝なきゃ。朝早いんだし。」
「いやいやいやハルさん?旅行ですよ?ここは遊ぼうよ。そのかばんの中トランプとかウノとか入ってるの知ってるんだよ。」
「全く、理香はなんでもお見通しだな。」
一日目は無事に終わり、二日目に進む旅行。
こんな日々がずっと続けばいいのに、と呟くハルの言葉は力なく夜の暗闇に消えていった。




