第4話・トマトと胡瓜ができた!
朝起きると顔を拭いて身支度を整え、食堂に行く。
メルリアが食堂に顔を出すと、皆が笑顔で迎えてくれた。
焼きたての小麦の匂い。
(この焼きたてのパンの匂いが好きなのよね〜。パンに顔を埋めたいくらい!)
グルドフがメルリアにパンを持ってきてくれた。
「お嬢様、おはようございます。パンしかありませんが」
「十分よ。私、グルドフの作ってくれるパン大好きなの」
「お嬢様⋯⋯!」
横に座ったカイルが慌てて会話に参加する。
「僕もグルドフのパン好き。メルの好きなもの、全部大好き」
メルリアはグルドフのパンに顔を埋めた。
(んもぉ〜この天使〜。癒される!)
メルリアはちらりとシエルを盗み見ると、胸が一杯のようで、苦しそうに胸を押さえていた。
この時間が大好きなのだ。
(でももっとすごい作戦始めちゃうからね)
名づけて、“サンドイッチ作戦”。
内容はシンプル。
名前通りサンドイッチを食べれることを目指す作戦なのだ。
サンドイッチには胡瓜やトマト、卵、それにハムが必要だ。
目先の目標は野菜!
麻袋に入っていた種の形からニックは『おそらく、胡瓜、トマト、人参、じゃがいも、小麦が出来ますね』と言っていた。
それが本当なら、食のレベルが段違いに上がる。
効果音がついているなら、てれれれてっれー、てれれれてっれー♪ ⋯⋯つまり効果音が鳴り止まないはず。
そのために必要なものがあった。
ある日、メルリアはキッチン裏のゴミ捨て場へと向かった。
メルリアの目論見通りのゴミがあった。
シエルは食べ物の腐った臭いに口を布で覆い、メルリアをそれらから遠ざけようとする。
「お嬢様、ここは臭いがすごいですから、別の場所へと行きましょう」
メルリアの前世では、家が牧畜だったからこういう臭いには慣れている。
「堆肥、種が育つ」
シエルはメルリアを抱きかかえるとニックの元へと向かった。
「ニック、お嬢様が生ゴミがたいひになると仰っているの」
「堆肥! 確かに家畜の糞も堆肥にするが、野菜くずなんかも堆肥にできますね。お嬢様は素晴らしい発想をお持ちだな」
(へへっ、私すごーい。なんて、前世の二十九年間の記憶があるだけなんだけどね)
「たいひ?」
シエルは眉を顰めてニックを見た。
ニックから堆肥の説明を受ける。
メルリアの理解だと、土に混ぜて微生物が生ごみを分解すると植物の栄養源になる。
ニックは大きなスコップを持ってくると、生ごみと土を混ぜ始めた。
だが、芽はすでに出ていた。
メルリアの腰ほどには成長している。
(あれ、成長早いな。堆肥は間に合うかな?)
二週間もすると、なんと野菜が収穫された。
堆肥を混ぜてから三日後のことである。
その頃には、トマト、胡瓜、人参、じゃがいも、小麦が植えられていた。
二週間かけて屋敷の庭の雑草を抜き整備が終わったところだった。
昨日、最後に出来た場所へ小麦を植えたところだった。
トマトと胡瓜が実っている。
ここには前世の常識は通用しないようだ。
メルリアは口元に手を当てて考える。
野菜が育つのがとても速いのか⋯⋯。
「信じられないわ。もうトマトと胡瓜が実っているわ」
シエルの驚きに満ちた声。
(この世界の常識でもありえない速さなのね)
すると土か種か、はたまた魔法⋯⋯?
(あっもしかして私は聖女?)
メルリアは出たばかりの双葉の前で、手を合わせた。
そして土の中の芽を表現すると勢いよく空へと伸ばす!
⋯⋯⋯⋯気のせいだった。
頬を紅潮させたメルリアは咳払いをすると土と種の可能性に絞る。
その隣でカイルもメルリアの真似をしてくれた。
(か、可愛すぎる)
メルリアはやった甲斐はあったと自分を褒めた。
ちなみにシエルを盗み見ると、やっぱり胸が一杯なようで、胸を押さえている。
「グルドフ、食べたら種また植える」
トマトをつんつんと指で触りながらグルドフに伝える。
「食べたら種だけ取っておいて、また植えるというのですか?」
皆はメルリアの翻訳にも慣れてきたようだ。メルリアは得意げな顔で頷く。
グルドフは籠を持ってきた。
はさみでトマトと胡瓜が収穫された。
待ちきれないメルリアはそのままグルドフについていく。
「メル、お手伝いする」
「まぁ、お嬢様、直々に手伝ってくれるんですか、感激ですね」
「僕も手伝う!」
メルリアはカイルと仲良くトマトを洗った。
その時はついに来た。
食堂で皆揃ってテーブルを囲む。
お昼には、ついにパンの隣に野菜が加わった。
これはれっきとしたサラダだ!
メルリアは早速フォークでトマトを食べる。
ぷちっといい音がして中から新鮮なトマトの甘みが口の中に広がる。
「これよ、これこれ〜!」
嬉しすぎると人間、語彙がなくなるようだ。
次に胡瓜をフォークで刺す。
パキッといい音がした。
メルリアは口元に運ぶと予想外のツンとした酸っぱい匂いを感じた。
そのまま胡瓜を口に入れると胡瓜の瑞々しさにさっぱりするビネガーの味。
「これ、ピクルスになってる!」とメルリア。
「グルドフ、すご〜い!」とカイル。
「浅漬けですが、ささっと作ってみました」
褒められなれていないのか、しきりに頭を触るグルドフ。
「グルドフ、凄いわぁ」とシエル。
「さすがグルドフだな。俺も負けてはいられないぞ」とニックが謎に意気込んだ。
次回の二角的イチオシシーンは
「まぁ、確かに旅人も今は使われていない物置とかあると有難いですからね」
一体何の話ですかね?




