第2話・美味しいご飯を皆でいっぱい食べたい
三歳児というのは、周りが思っているよりできるものである。
メルリアは自分で歩き屋敷内を捜索する。
「やっぱり空き部屋ばかりね」
屋敷に残っているのは価値のない使用人用の調度品ばかり。
安い木枠のベッドや使用人用の薄いカーテン。生地が日焼けしていないだけマシかもしれない。
簡素なテーブルにサイドキャビネット。
クローゼットは必要最低限の機能しかない。
キッチンの横に設けられた使用人用の食堂には大きなテーブルがあり、平民が使うようなカップ、平皿、スプーンやフォークなどは残っていた。
つまり最低限の生活ならできるということだ。
ただし、問題がある。
水と食べ物問題。
「水を探すのは大変だけれど、食べ物なら考えがあるわ」
廊下を歩き、中庭に出る扉を両手で力いっぱい押す。
ギギギッ──。
錆止めもされていない屋敷には、お似合いの音だった。
「うわ、眩しい⋯⋯」
屋敷の扉を開けると、光が差し込んでくる。
まるで光に溶かされてしまう魔獣のように大きく仰け反るメルリア。
蝉の声が聞こえてきそうな夏のような青空に、周りには緑の生命力溢れる雑草で溢れていた。
雑草はメルリアの腰より高い。
背伸びしてなんとか遠くまで見渡すと、木が生えているので森があるのかもしれない。
「「「お嬢様〜」」」
「メル〜」
慌てて追いかけてきた乳母のシエルとシエルに抱かれた彼女の息子のカイル、料理人のグルドフ、家の家財を直したり大工が得意なニックがメルリアを呼ぶ。
(しまった、前世で野草を食べる趣味を持っておくべきだったわ!)
なんとか食べれそうな形の葉を選ぶ。
「これにしよう」
メルリアは目の前の葉を引き抜くと皆に見せる。その葉を戦利品のように皆に見せ、期待の目を向けた。
「この葉っぱ、食べれる?」
「お嬢様これはちょっと⋯⋯」
(さすがに雑草か)
鼻を鳴らしてメルリアが何かないか探し始めると、シエルがメルリアの肩を優しく抱きしめた。彼女は諭すような声を出す。
「お嬢様、シエルのところで一緒に住みますか?」
メルリアはシエルの優しさに胸が痛くなった。見た目は幼女でも中身は大人なメルリア。
(シエル、私の聖母。でもここにずっといてくれるのは、わたしへの同情だけじゃないはずだわ。じゃなかったらとっくに実家に帰っているものね。だから皆は帰る家がないはず!)
本を正せば、両親が間違いを起こしたのだ。それの皺寄せをシエルや使用人たちが被るのは違う気がする。
シエルたちだって被害者のはずだ。
それなら──。
メルリアは両手を広げて皆の顔を一人ずつ見る。
「メルはここで皆と住む!」
父がいなくなったこの敷地は王族の管轄、もしくは誰かが買えば新しい持ち主がやってくる。
その新しく来た人たちと鉢合わせれば、メルリアたちは没落貴族に捨てられた可哀想な人たちだと同情を買えるはず。
名づけて、“同情を買って、待遇改善計画!”。
同情するならなんとやらよ!
捨てられたのはもちろん事実だが、シエルたちが不要に苦労することはないのだ。
「お嬢様、ここにはもう何もありません」
「そうですよ。こんな外見だけの屋敷、何も残っていない」
「平民でももう少し良い暮らしをしているはずですよ」
そんなもので屈するメルリアではない。
「ここに皆と住む。メルは皆と暮らしたい」
「僕もメルとここに住む」
真っ先に味方になってくれたのはカイル。
(歳はほとんど変わらないのに、よくやったぞ、お兄ちゃん!)
これを繰り返すこと五回。
一番先に折れたニックがメルリアの味方についた。
「よく考えりゃあ、俺たちだって生活が苦しい。せめて追い出されるまでここに住むか? グルドフ、食糧は何もないのか?」
「そりゃあ、あと一ヶ月は保つと思うが」
「お嬢様、一ヶ月だけここに住みますか?」
シエルの腕に引っ付くメルリアに顔を近づけて優しく聞くシエル。
「シエルとカイルとグルドフとニックと一緒!」
メルリアは一ヶ月とは思っていなかった。誰かが来るまで、ずっとここで暮らしたい。そう固く決意していたのだ。
「そうと決まれば、屋敷や敷地中を探すか」
ニックの提案に皆は頷いた。
* * *
皆で屋敷中を散策している。
メルリアは皆が入らなかった部屋の中を探す。
誰かがいた。
全身から光を放っている。
メルリアは理由は分からないが、親しみを感じていた。だが、その人物に誰なのか問いかける気にはなれなかった。
その人物は非常に均整の取れた顔で彼なのか彼女なのか分からない。
その人物はメルリアにそっと近づいて来た。
『メルリア、ここでの人生は大変でしたね。代わりに一つ何でも願い事を叶えてあげます。好きな身分でもお姫様にもなれます。目の前に金塊も用意できます。なんならあなた自身を人間では無いものに変えてあげましょう』
その声は頭に直接入ってくるようだった。
前世では、程々に働けば、快適な部屋で毎日美味しいご飯を食べられた。
でもそれを美味しいねと言い合える、気心のしれた人は何人いただろうか。
あの頃に戻りたいかと聞かれれば、戻りたいと即答はできない。
今の人生を変えられるなら──。
雨風はなんとかしのげる。
贅沢を言わなければ、木のベッドに布団もある。
それなら──。
「美味しいご飯を皆でいっぱい食べたいです」
目の前の人物は少し意外そうに目を大きく開けてメルリアを見ていた。
メルリアは皆と居られることが楽しかった。この何もない屋敷をいつも探し歩いて、冗談を言い合ったり、ほとんど何もない屋敷で少しでも快適に過ごせる方法を捻り出していた。
ここに足りないもの──それは食べ物だと思った。
それ以外はなくてもいい。
皆でいられれば、それで十分だった。
『なるほど、よく分かりました。それならこれをどうぞ』
麻袋を手渡された。
メルリアがお礼をいう頃には目の前の人物の姿はなくなっていた。
「あれ、私は何をしていたんだっけ?」
両手に抱えた麻袋を見て、メルリアは首を傾げた。
次回の二角的イチオシシーンは
メルリアは野草を食べる作戦をまだ諦めていなかった。
今のところ、二戦二敗──。
次こそ、食べれる草を探すぞ!
⋯⋯駄目だった。
二角はなぜか野草押しです(笑)




