第四十五話 アーヴィダル要塞攻略戦(上)
惑星ザルツからアーヴィダル要塞までは通常航行で2日、スペースジャンプで半日の距離である。
当然敵要塞内の守備範囲内での不意打ちを警戒し、人類連盟艦隊のヴォロダ司令は前者を選んだ。この事を織り込み済みでザルツでは休息を取らなかったのだ。
そもそもザルツではろくな物資はないので兵士らにまともな休養を取らせる事はできなかったのだが。
航行中もコルトレイクを1G以上の環境で飛行させる飛行ユニット接続作業は続いていた。
『敵は要塞内を1G以上にすることくらいはやってくる!死にたくなければやれ!!』
この『明察』に整備士は納得したし、兵士達は実際に死にかけた事で従うより他なかった。
その中で意気軒高なのはレンの友人のラナくらいのものだった。やっと私もまともに戦える、と。
彼女のコルトレイクはフォトンバズーカに今まで搭乗していた機動兵器カーカスのフォトンランチャーの1つを接続した『フォトンメガバズーカ』とスラスターを下半身に移植したカスタムモデルへと改造中だった。
「後ろからの砲撃支援じゃ今までと変わらねえじゃねえか」
口の悪い兵士達や同じ改造を乗機に施されている同僚らに普段の彼女ならば殴り掛かる事態でもこの時ばかりは聞き流していた。
自分も同僚も生きて帰れる保証は全くないからである。誰かが死んだときそいつの人となりが判る思い出を1つでも話せるようにしておきたいからである。
それだけ人類連盟全軍は件の要塞に対して異常なまでの恐怖心を持っているのである。
その事を新参者の地球人たちは彼等の言動の端々から感じていた。
「あれが・・・アーヴィダル要塞か!?」
北条翔にとってカルブンクルスの望遠レンズから見たアーヴィダル要塞は少し拍子抜けする形状だった。
その辺の河原から取って来たと思しき大きな石といってもいい、やや扁平な球形。それに中心と左右対角に白いユリの花のような何かが付いていた。
「あの白い物は何です?」
『分からない。カケル、アーヴィダル要塞に行って戻って来た人間は今まで1人もいないんだ。だからどんな武器や配備状況がどうかなんて誰も知らないんだよ』
カルブンクルス艦長ルツの言葉にこの艦隊が1度たりとも要塞への偵察を行わなかったのに納得してしまった。
「そんな物に突撃しようっての!?」
『そうだよ。その勇気を君達地球人とカデシュがくれたんだ。だからこの戦いは人類側のヘーレムアレルギーを完全に払拭できる最初で最後の機会なのさ』
艦長のお気楽な返答に相羽優歌は監視塔から危うく転落しそうになった。
『それより敵の配置はどう?そこから見える?こっちは砂粒みたいな光しか見えなくてね』
『その白いのを避けるみたいに敵が配置されているね。3隻のストラデゴスが要塞の左右と下に配置されている。その周囲に艦船が取り巻いていて多分、要塞に張り付いている小さな光はFOだろうね。数は・・・・伝えた方が良いかい?』
通信機を相羽優歌から奪い取ったレンが外の様子を見ながらブリッジに伝える。
『いやいい。その感じで大体把握できるから。2時間後に作戦開始だ』
「了解」
同時刻・アーヴィダル要塞
「要塞正面より敵性反応あり。艦艇およそ30隻です」
「来たか!ダークゲートは!?」
「反応ありません」
「すぐに反応は出る!!反物質砲発射準備開始!可能な限りダークゲート内の敵を引き付けて撃て!周りの味方機は巻き込まれるなよ」
オペレーターと全軍にこの簡単な指示を出すと第1格納庫に行くためにナールライトは副官のアームレイに指揮を任せると同時に何かを小声で耳打ちする。その答えは「全て準備完了」だった。
満足した彼は金属の鎧を脱ぎ捨てると要塞中央下部の格納庫に鎮座するFOカルバラーへ搭乗した。
「待たせた」
「まだ連中は動いてはいないようだ」
カルバラーの右側にいるFOカンナエからサークレイスの声がした。
「なぜ、連中の動きに合わせる必要がある?先手必勝ではないのか?」
左のテルモピュライからはオーシャのじりじりした不満がスピーカー越しに伝わってくる。
「正面の味方は我々3機のみだ。こちらから売って出れば確実にカデシュのみが出てきて終わりだ。こちらの機動力ではカデシュに抑えられて他の敵の相手は出来ないだろう。今回の我々の役割は正面の有機人間共全てを相手することだ。だから連中が兵を出してくるのを待たねばならん」
「なるほど。偵察さえ出せない程ビビってるなら私達を絶対に避けるのは道理か」
「そう言う事だ。連中の方もこちらに乾坤一擲の攻撃を与える為に時間を図っていると考えていい。だからもう少し時間があるはずだ」
「時間だ・・・・」
人類連盟艦隊総司令ヴォロダは全軍に出撃命令を出す。
間を空けず艦艇から戦闘機フレシェットが、次にFOコルトレイク・フライヤーが続々と飛び立ち、密集隊形を組んで要塞へと向かっていく。フライヤーへの改装が間に合わなかったコルトレイクは砲先仕様に改造され艦隊前面か艦上に配置された。その内の1機はラナのコルトレイクである。
「敵が迎撃に出て来ないな・・・」
『俺達を恐れているのさ!ザルツでさんざやられたからな!!』
長距離スコープの最終調整を兼ねて前方の戦場を見渡していたラナに同様の改装を施されたコルトレイクパイロットが軽口を叩く。
「いや・・・来た!?速いぞ!!それにコイツは・・・コイツ等は!?」
スコープに映った機影はたった2機。だがこの場合『たった』という表現はおかしい
何故ならその機体群は銀河に5機しか存在していないからだ。
「カルブンクルス!!早くカデシュを!!カルバラーとテルモピュライが来た!!コルトレイクじゃ歯が立たない!?」
艦隊とコルトレイクからの砲撃を避けるためカルバラーはテルモピュライの背中から飛び降りるとコルトレイク隊の密集隊形に躍り込む。突き出されたプラズマパイクとプラズマトライデントが正面からぶつかり、トライデントはパイク破砕しながらコルトレイクの右腕を刺し貫くと後方へ振り回す。カルバラーの後ろには3機のコルトレイクがフォトンバズーカを撃つ瞬間だった。捕えられたコルトレイクはカルバラーの盾となってフォトンの直撃を受けて爆散。その間にカルバラーは左腕の伸縮する腕のクローで別の1機を、頭部の内蔵式フォトンライフルでさらに1機のコクピットを貫いて沈黙させた。
一方テルモピュライもフォトンバルカンでフレシェットを撃ち落としつつカルバラーとは別のコルトレイクの隊列の上方に急降下し両脚のクローで2機の胴体を鷲掴むと急上昇、同時に両腕のインパクトキャノンを前方に背中のフォトンランチャーを後ろに発射し4機のコルトレイクを吹き飛ばす。
飛翔したテルモピュライは掴んだ2機を艦隊後方の補給艦のブリッジに叩きつけると両脚のインパクトキャノンを撃ち込むとトンボ帰りでカルバラーの援護へ向かう。
「これが5柱・・・それが2機も・・・・」
ヴォロダはその数の少なさに気付き全身が総毛立つ。
「もう1機いるぞ!?カンナエを探せ!」
敵の布陣が判って来た。要塞中心をがら空きにするように3隻のストラデゴスを要塞左右と下方に配置されている。それは今以上にこちらの隊列が広がればこの内の1方か、最悪3方からの主砲の餌食になる事を意味しているのだった。
(その上ストラデゴスの主砲と同等の威力を持つカンナエが後方に控えているというのか!?さらに新型砲もあるのだ・・)
「司令!!カデシュが発進を求めています!」
呆然としたヴォロダの脳を揺さぶる金切り声が彼を戦場へ呼び戻した。
「・・・出せ!2柱の動きを抑えさせろ!レーダー班は絶対にカンナエの位置を割り出せ!4方を塞がれる訳にはいかん!!」
「艦隊下方に熱源多数!?」
「何!?」
気づかなかったのか!?と怒声が喉から飛び出す前に左を航行する10を超える補給艦と1隻のラッダイト級が爆散していく。カルバラーとテルモピュライの攻撃を目くらましにして回り込んだカンナエのホーミングレーザーナパームが直撃したのだ。
一瞬遅れてカデシュType・Gがそこへ向かっていくと間髪入れず両腕のフォトンライフルを連射する。
ヴォロダ艦隊の過半を一瞬で葬り去ったカンナエは両肩のプラズマチャクラムを盾前方に回してライフルを防ぎつつ後退すると盾を左右に開くと同時に胸のフォトンバルカンを連射、回避したカデシュへツインフォトンライフルを撃つ。
「こんな物・・・ウっ!?」
下に避けようとしたレンはコクピットがガキン、という振動音で体をシートに押し付けられる。
「ちょっ!?捕えられた・・・ッ?」
優歌の足元のモニター一杯にカルバラーのクローが映る。
間髪入れずにカデシュの右腕が消し飛びリジェネレイトシステムで新たな腕が再生される。
『死ぬ前に良い物を見せてやる。見ろ!!』
若い男の声がコクピットを圧する。
「あ・・・」
4つの白いユリ状の砲口に銀色の光が集まる。
要塞左右と後方のダークゲートから出現した人類連盟艦隊は銀色の光を受けるとパッと消えてしまった。
そして砲口も最初から何も無かったように消え去った。
まるで手品を見ているようなあっけなさだった。
「何だよあれ・・」
翔の体を悪寒が駆け巡る。正面のあれはこちらの艦隊を狙っている。それが直撃したら・・・
だが驚愕はヘーレム側から起こった。
正面のユリ状砲は大爆発を起こし要塞に大穴を開けて消滅していった。
この崩壊に巻き込まれ要塞内部に布陣していた親衛隊の3分の1が失われたのだった。
アーヴィダル要塞攻略戦序盤は人類連盟艦隊は3分の2が、ヘーレムはアーヴィダル要塞に大きなダメージ受けたのだった。
5柱を除いて陣容の把握と立て直しに双方の攻撃が止まったのだった。




