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Galaxy Trail  作者: 紀之
人類側の反撃

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第三十二話 オーシャの企み




ここで少し時間が巻き戻る。


光の河近傍(きんぼう)・カルブンクルス格納庫


出撃したカデシュがサンバルテルミⅢAタイプに苦しめられている最中、急造兵器カーカスは出撃準備に手間取っていた。


「どうしてウンともスンと言わないのよ!?配線はきちんとしてるはずでしょう!?」


カーカスのメインパイロットに抜擢されたラナは前方に座る2人の同僚と共にコクピットのコンソール下の配線を弄っていた。


Drファゼル以外の敵側である、ヘーレムですら理解出来ていない兵器を文字通り暗中模索で人間同盟の部品を組み込んだところで機動すらできないのは自明の理なのだが。


それでもこうした物を使わざるを得ないのがカルブンクルスの現状なのである。


(今もレンが戦っているというのに・・・!)


焦りで彼女の手から配線が滑り落ちる。それが更に彼女のイライラを加速させる


外では整備士長のハリオ自らカーカスの装甲版を外して配線の不具合を調べていたが。こちらも首を捻るばかりで進展はなかった。


『敵FOから砲撃!各員衝撃に備え!!』


格納庫のスピーカーからの怒声の直後、艦内が小さく揺れ、出撃ハッチ部分がドロドロに融解していく。


「うおっ!ありゃあサンバルテルミの特殊溶解液か!?連中め、カルブンクルスにも効くようにしやがったのか!!」


空気漏れの突風が格納庫内に吹き荒れる。カルブンクルスの特殊溶解液内のコンピューターウイルスによってグラビティ・リフターによるバリアーが消滅したのだ。


身を伏せてカーカスの装甲を掴んで踏ん張るハリオは振動の中匍匐前進で壁の通信機に向かいながら手近にいた整備員にブリッジに行くように指示を出す。


「ですが・・・」


「あの溶解液にはコンピューターウイルス内蔵の曲者だ。自爆だのカデシュを攻撃しだす様にプログラムされていたら大惨事だ・・・それを調べて行ってくれや」


「は・・はい!?」


事の重大さを理解した整備員は警報鳴り響く格納庫の床を四つん這いで駆けブリッジへの通路に躍り込んだ。


彼がブリッジにたどり着く間、カルブンクルスは展開していたフォトン砲が消失し、カデシュを置いて光の河をどんどん遠ざかっていった。


「どこへ向かっている!?各部のチェックと進路変更を急げ!」


カルブンクルス艦長ルツは艦長席から艦内各所へと通達する。だが結果は芳しいものではなかった。


「本艦は惑星コルンへ接近中!?操舵受け付けず!?進路変更できません!!」


「原因は?」


「あのFOの攻撃を受けてからです!?」


操舵士やオペレーターの悲鳴にルツは手許のコンソールを弄るが全く反応が無い。その他のブロックからの応答はない。


(やられた!コンピューターウイルスを仕掛けられたか・・!しかし惑星コルンか・・・)


この星は複数の浮島漂うリゾート地として有名だった。


だがヘーレムの光の河での採掘で太陽光を反射する特殊鉱石の急激な減少で日の光が届かなくなり、極めて短期間でリゾート地どころか生物の一切住めない廃星の憂き目を見た。


そこまで考えていた所に格納庫から整備員が駆け込んで来た。


「どうした?ハリオ爺さんから伝言か?」


「実は・・・」


ハリオの推論と格納庫の惨状を聴いたルツは整備員を労いつつ、彼にカーカスの発進を急がせるように指示を出すとオペレーターに向き直ると


「索敵班にコルン方面の監視を密にするように言ってきてくれ。それと光通信でカデシュにコルン方面に敵艦隊がいるって伝えるようにもな」


「は、はい」


オペレーターが耐圧服を着込んでブリッジを出て行った。


(追撃がない・・・?サンバルテルミ共はカデシュに標的を替えたか?なら・・コルン方面は確か・・・)


この数か月穴が開くほど見てきたシュトロン星系の星図とカルブンクルスとガランの航路をルツは頭の中に思い浮かべる。


敵に星系丸ごと観察できる偵察艦がある以上、こちらの動きは筒抜けと言っていい。


それに加えて超長射程の高出力砲がある以上、考えられる事は1つだ。


(今ガランはコルンの直線状の位置にいるのか!?)


敵はあのFOの砲撃の一射でこちらの艦船2隻を一気に消滅させる気なのだ。


だから艦同士での通信を遮断するためにサンバルテルミの改良型をぶつけてきたのだ。


下手をすれば向こうにも同じ部隊を送り込んでいる可能性もある。


(カーカスを何としても動かす以外にないか)


ルツは耐圧服を着ると格納庫に行くと言ってブリッジを出る。


「コルンの方角に光が見えたら知らせてくれ。今ここでこうしてもタダのお荷物だからね」


「お気をつけて」



同時刻・惑星コルン近海


カルブンクルスから見て惑星コルンの反対側に巨大なマンジケルト・ダンの飛行形態に似た兵器が停泊していた。


マンジケルトシリーズと違うのは足が2本でなく1本でそれは機体の中央下部から伸びている事だ。


エスノセントロン級強襲揚陸艦


ヘーレムが新開発した新型戦闘艦である。


その3番艦と新型FO・ヘイスティングス5機がオーシャ率いるヘーレム軍第三艦隊に配備され、これらの最終テストとしてヘーレムにとっての仇敵となったカデシュとカルブンクルス破壊任務に充てられたのだった。


「サンバルテルミのコンピューターウイルスは上手く動いているな?」


エスノセントロンの内部ブリッジでオーシャは虹色の長髪を波打たせながらオペレーターに問いかけた。


「はい。もう2時間でコルンへ最接近します」


「惑星内に追い込め。薄いとはいえ大気中でのそして低重力帯でのテストもしておきたいからな」


「ハ。ステルスモードで接近します」


「砲撃手!初の実戦だからと言って気張りすぎて撃墜するなよ!!ヘイスティングスとテルモピュライにも出番が無いと陛下に合わせる顔が無いからな」


「しかし、1発は当てませんと」


砲手の無感情な反応に静かなブリッジに壊れた笛の音のようなオーシャの含み笑いが響く。


「そうだな。それで壊れるならそれまでだな。前言撤回。各砲座カルブンクルスの後ろを取ったら撃ちまくれ!」


その言葉を合図にエスノセントロン級強襲揚陸艦の300mクラスの姿が一瞬で消える。


かつてDrファゼルが生み出したメカニオーム・スマラグティナのステルス能力を艦艇に付与したのである。裏切りは許さないが、その技術に罪は無いというのが彼らの考え方なのだ。


更にメカニオームに使用されていた、反重力機動システムによってスラスターの噴射炎を出すことなく文字通りの隠密移動が可能な見えざる戦艦が惑星の反対側へと移動を開始した。



「あの光、何?」


カデシュ・ダンType・Gのコクピットで相羽優歌は断続的に瞬く光を目ざとく捉えた。


「人類連盟の暗号光通信だ・・・コルン方面に敵艦隊布陣の可能性あり、か」


レンの言葉に北条翔は曖昧過ぎる指示だと感じた。


「どっちの意味だ?例のキャノンFOの部隊の事なのか、それとも新しい部隊がいるのか?」


翔の疑問にレンは答えることなく、更に光の点滅を翻訳する。


「着艦して補給後・・・!?」


カルブンクルスからの光信号が中断する。正確には突如、艦の周辺に火線と爆発の華が咲いたのだ。


「あれ、敵の新型FO!?きゃあ!」


優歌がエスノセントロン級強襲揚陸艦の姿を見て叫んだ時には、カデシュ・ダンは最大速度でカルブンクルスへ向かっていた。


強烈なGの中でも牧野琴音だけは手許のコンソールを打ち込んで敵の新兵器のデータ収集を始めていた。


「FOにしては大きい・・・・もしかしたら新型のメカニオームかも!?」


「ゲダムにいた奴の親類か。確か消える奴がいたね!?」


妙なシルエットに納得したレンはカデシュ・ダンの背部に装備された8連装ホーミングレーザーナパームを発射するが、標的を包み込む様に弧を描いた焼夷弾をエスノセントロンは軽快な機動性で全て回避、カルブンクルスの上を取ると再び砲撃を浴びせる。


「躱された!?」


巨体に似合わぬ素早さに驚くレンの耳に聞き慣れた警報音がコクピットに鳴り響く。


「エネルギー切れ寸前だよ!」


「出来る訳ないだろ!!」


カーカスが出ていない以上、今自分達が艦に戻る事など出来ない。


「じゃあどうすんのよ!?」


「2機の間に割って入って可能な限り攻撃を受ける。それしかない」


「な・・!?」


レンの自暴自棄の提案に優歌の頭に血が上る。彼女の怒声は寸前でカルブンクルスからのノイズ交じりの通信で口から出る事は無かった。


『カデシュ!今からカーカスを出す!!その間に補給しろ!』


嬉しそうなハリオの声がスピーカーから響く。


「動くんですか?」


翔の言葉にハリオは興奮した口調で返す。


『ユーカに聞いた、地球式のやり方をしたら動いたんだ』


「何を教えたんだ?」


「あ~あれね。機械は叩いたら動くようになるって奴」


「昭和かよ・・・」


未知の機械の塊が手刀一発で起動する様を想像して翔は呆れてしまう。


だが事実、カルブンクルスから飛び出した光が8門のフォトン砲を敵へ撃ちまくる光景は今の自分達には文字通りの希望の光なのである。


跳ねるように宇宙空間を滑る動きにレンは操縦しているのが親友のラナの癖を見出し、一瞬顔をほころばせる。


「突っ込むよ!」


コクピットの3人とスピーカーの先にいるであろう整備員全てに向けて大声でレンは叫ぶとカルブンクルスの半分溶けた装甲の隙間にカデシュをねじ込んだ。



「カデシュ敵艦内に入りました」


敵側の変化を淡々と行うエスノセントロンのオペレーター。カーカスの攻撃をそれほど重視していないのがその声音から分かる。


「ヘイスティングスを出せ。それと私のテルモピュライの準備は出来ているな?」


「いつでも」


オーシャは満足気に頷くと自身に貸与されている5柱の1機の許へと降りて行った。

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