第三十一話 天敵は三度現る
北条翔は光の河のほとりに着陸したヘーレムのタケノコ状の輸送船に何の動きが見えない事を訝しんで光の河の周辺を飛行し、モニターで確認する。
輸送船のハッチは内側からひしゃげて吹き飛んでおり、内部にはもぬけの殻だった。
「どこに行ったんだ?」
太陽光を反射してギラギラ光る特殊鉱物に目を瞬かせながら翔とその背後の3人の少女達もレーダーやモニターを使って索敵するが動く物は何も見えなかった。
「着陸してみる?空からじゃ限界だよ」
「ユーカの言う通りかもね。あの土手に降りよう」
「そうだな。そこなら周りを見渡せるね」
相羽優歌とレンの提案に頷いて翔は光の河を見下ろす土手状に盛り上がった隕石地帯に機体を着陸させた。
「あっ!」
着陸してみて初めて分かった。光の河の一部が不自然に剥がれている部分があり、そこから6つの影がこちらに向かって飛び出して来た。
機体を再度飛び上らせるがカデシュの両の二の腕と翼を巨大なアンカーが拘束される。
「しまった!」
拘束を解こうとするカデシュへ青白い液体がカデシュの胸部にかかった。かかった部分の装甲がドロドロに溶けていく。
「コイツらサンバルテルミだ・・・!!」
四方から右腕と両膝の回転ノコギリの不快な金属音を上げて襲い掛かる妙に着ぶくれした黒いのっぺらぼうの機体。
サンバルテルミⅢ
この機体は2つの装備があり、今カデシュへ襲い掛かる溶解液に濡れた回転ノコギリと左手のクローアンカーを備えたAタイプと特殊溶解液を充填したミサイルと特殊溶液を直接発射するアシッドキャノンを持つSタイプがある。
特殊溶液による装甲溶解とコンピューターウイルスによる再生機能の阻害。それを克服したとしてもさらにノコギリの刃によるギザギザの傷口はやはり、機体の『治り』を遅らせる。
「食らう訳にはいかない!」
拘束されつつも翔はカデシュの前腕装甲をフォトンライフルに変形させ目の前の2機の天敵へ光子を放つ。
回避行動を一切取らないサンバルテルミⅢAタイプは胸部を撃ち抜かれ、その装甲から特殊溶液がカデシュへ向かって噴き出しライフルを溶かす。
サンバルテルミⅢの装甲は一種の炸裂装甲で破損と同時に内部に充填された特殊溶解液が想定された仮想敵を溶かすという算段なのだ。
「く・・・このっ!?」
翔はカデシュの全スラスターを吹かして逃れようとするが特殊溶解液に組み込まれたコンピューターウイルスによって上手く機動しない。地面に着地したカデシュの頭を除いた全身の装甲を9本の回転ノコギリが唸りを上げて切り裂いていく。
「翔!カデシュが!?」
装甲から噴き上げる火花に優歌は悲鳴を上げる。
「嬲り殺しにするつもりかよ!?」
翔は機体を動かそうとするが操縦桿も脳波コントロールも阻害されてカデシュは幼児の意のままになる人形の如く成すがままだ。
「そんな・・カルブンクルスまで・・!?」
牧野琴音はそのカデシュの上げる火花越しに自分の正面モニター上方に映るカルブンクルスが残り3体のサンバルテルミⅢSタイプのアシッドミサイルとアシッドキャノンの砲撃を受けて溶解しているのを見て絶句していた。
サンバルテルミⅢの特殊溶解液はカデシュだけでなく、カルブンクルスの装甲も溶かす特別製だった。
(負ける訳にはいかないんだ・・!)
翔は振り向いて琴音の言った事を確認し、天井を見る。そこに『変身』用のレバーは無い。
トリスメギストリスと戦った、あの時。
自分も優歌も琴音もレンも、生きて帰る為にその時出来る事の全てやっていたはずだ。
(ならば!)
翔はカデシュの背部ウイングを操作する。コンピューターウイルスの影響か、わけのわからない動きをする翼を望む角度に固定できず、その角度に翼が着た瞬間に付け根からプラズマソードを射出し両腕を縛るワイヤーを切断。
反動で仰向けに倒れた2体のサンバルテルミⅢが立ち上がるより前にカデシュは震える両手で翼を縛るワイヤーを掴み背後のサンバルテルミⅢを目の前の2機に叩きつける。
衝撃で敵機の炸裂装甲が吹き飛び、特殊溶解液の飛沫がカデシュの全身にかかり、白煙を上げるが翔は構わず、折り重なったサンバルテルミⅢをプラズマソードで芋刺しにした。
ビクビクと痙攣して敵機の動きが止まったのを確認するとカデシュはよろめきながらカルブンクルスを救援するために飛び上った。
「体内のワクチンは正常に動いているが!?合流できるか?」
翔はウイルスの影響で姿勢の定まらないカデシュの制御をしつつカルブンクルスへ向かう。
コンピューターウイルスの影響か、カルブンクルスはカデシュから見て奥の惑星の方へと徐々にスピードを上げて向かっていた。
「カケル、サンバルテルミ共を離れて叩くの必要がある。今のカデシュで迂闊に近づくのは危険だよ」
「でも、アイツらを安全に倒すにはかなり離れて攻撃しないといけないけど・・・」
優歌の提案に琴音も機体状況をチェックし同意する。
「Type・Gならなんとかできるかもしれないけど今の状態ではとても無理です」
「ウイルスは大分抜けている。短時間ならいけるよ!」
「・・・レン頼む!」
「了解!」
翔はレンにメインパイロットを譲るとカデシュはType・NからType・Gへ『変身』
全身にギザギザの傷跡を残したType・GはサンバルテルミⅢの背後から6連ホーミングレーザーナパームを撃ち込み、1機が吹き飛ばされうつ伏せに倒れるが、そのダメージは装甲にヒビが入った程度に過ぎない。
「クソっ、威力が落ちている!?」
レンは毒づきながら残り2機へ向けて機体を構成する金属分子から生成したフォトンライフルを右手に構え、後方へ下がりつつ敵の足を狙って連射する。
「ヒっ!?」
琴音の悲鳴にレンが振り返る。
後方のモニターにうつ伏せだった、例のサンバルテルミⅢが起き上がった。ひび割れた装甲が特殊溶解液を吹き出しながら剥がれ落ち、ガイコツその物といえる骨格のみのサンバルテルミⅢが勢い良く起き上がった瞬間手足がボキリと折れて今度こそ動かなくなった。
「何なのよ、あれ!?」
優歌も敵の悍ましい執念に息を飲む。
「さあね!?動かないならカカシ同然!!」
幽鬼さながらの展開にもレンは動じず再度6連ホーミングレーザーナパームを発射し、残った2機のサンバルテルミⅢS型のアシッドミサイルを迎撃する。だが明らかにミサイルの数は多く、撃墜したのは僅かな数に過ぎない。
「流石に多い・・・!」
「もっと手数があれば・・・!」
歯噛みにする翔と琴音はコンソールを操作し、カデシュのコンディションを上げる術を必死に探す。
「レン代わって!!Type・Fなら逃げきれる」
だがレンはユーカの提案を蹴った。
「冗談!ここまでやれるなら・・・最後まで根性見せてみな!カデシュ!!」
彼女の闘志に応えるようにコクピット天井にレバーが生成される。
「カデシュ・ダンType・G!!」
レバーを引く。
一瞬、カデシュの全身が石化すると、石の彫像にヒビが入る。
頭頂部の角が左右に展開し、U字状になると高精度射撃センサーユニットとしてデュアルアイの上にゴーグルの様に重なる
背部の6連ホーミングレーザーナパームは8連装になり口径が大型化
両肩付け根の前後に小型フォトン砲が追加
両腕部も前腕に射撃反動を抑えるスタビライザーを兼ねたプラズマエッジが追加
肉食恐竜を彷彿とさせる獰猛で力強い脚部
カデシュ・ダンType・G
1対多数の射撃戦を更に突き詰めた強化形態である。
『強化変身』を一瞬で済ませたカデシュ・ダンType・Gは両前腕装甲を変形させ大型の2丁のフォトンライフルにするとマシンガンの連射力を見せながらレンはトリガーを操作し、肩の砲と背部のホーミングレーザーナパームと同時に斉射する。
大型のレーザーナパームは8つの高熱弾は無数の子弾に分裂しフォトン砲と共に目前に迫ったミサイルの群れを焼き払った。
その間変身してから1秒足らずの出来事である。
2機のサンバルテルミⅢは標的の恐るべき変化に戸惑う様にブルっと身じろぎを一瞬見せると内1機がSタイプからAタイプへ『変身』する。
Aタイプは背部の可動式スラスターを吹かして飛び上ると左手のクローアンカーを叩きつけるように伸ばす。
「食らってやる道理はないね!」
操縦桿のセレクタスイッチを小気味よく鳴らしてレンはライフルをショットガンモードへ変更、散弾がアンカーを左腕ごと貫く。
光子の熱は相手の溶解液を完全に蒸発させ、カデシュ・ダン本体へ届かせることはない。
勝敗は決した。
だがサンバルテルミⅢのバイオブレインに逃走の文字は無い。ひたすらに指令された敵を襲う事以外彼らは考えられない様にされているのだ。
(こいつらに情けを掛ける義理はない)
レンの指が操縦桿のトリガーを引くより早く、彼女の意志を受けたカデシュ・ダンは通常弾に切り替えた2丁のフォトンライフルの引き金を引き、最後の1体を火球へと変える。
「急ごう。カルブンクルスが心配だ!」
何かに引き寄せられるがごとく未知の惑星へ向かうカルブンクルスを追ってカデシュ・ダン光の河を後にした。




