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吸血鬼の友人

……………………


 ──吸血鬼の友人



 エレオノーラは引き続きカミラとの友好のために行動していた。同時にこれはカミラを見張るためでもある。


 カミラは丁度、食堂で食事をしており、エレオノーラはそこを訪れた。


「カミラ殿下。この間はどうもです」


「ああ。エレオノーラか。パーティーの件はすまなかったな。招かれざる客が押しかけてしまって台無しだったな」


「あれはあれでちょっと面白かったよ」


 カミラが苦笑いを浮かべるのにエレオノーラはそう言って返した。


「またパーティーをやるときは誘わせてもらおう。この前の詫びのようなものだ」


「楽しみにしています。ところでカミラ殿下は甘いものは嫌いじゃない?」


「嫌いではないが」


「これ、よかったらどうぞ」


 エレオノーラはそう言って綺麗な紙袋に包まれたお菓子を差し出した。中身はクッキーの詰め合わせだ。


「ありがたくいただくとしよう。菓子作りは趣味なのか?」


「ええ。昔から好きで。食べてくれる人がいればいくらでも作っちゃう感じだね」


「そうか。器用なものだな」


 カミラはエレオノーラにそう言って紙袋を開くと砂糖がまぶしてあるクッキーを口に運び、バターの香りが香ばしいそれを味わった。


「うむ。美味いな」


「それはよかった」


 カミラは満足そうに頷き、エレオノーラは微笑んだ。


「ところで、エレオノーラ。ぬいぐるみか人形を失くさなかったか?」


「ん? いえ、失くしてないというか、そもそも持ってないよ」


「そうか」


 どうやらカミラはパーティーの会場で見かけた人形の出所を探っているようだ。あれに黒魔術で下級悪魔が封じられており、それを使って盗み聞きをしていたことは既にばれている。犯人が分かっていないだけだ。


「人形に何かあったの?」


「気にするな。こっちの話だ。だが、もし心当たりがあれば教えてほしい。こんな感じの人形を作っている玩具会社を知っているか?」


 そう言ってカミラがスケッチブックを見せる。そこに描かれていたのはアリスが忍び込ませた人形であった。


「ああ。前にそういう人形の郵便販売をしている会社のパンフレットを見たことがあるよ。確かここに通っている生徒の実家の会社だったかな?」


「知っているのか? できれば思い出してくれ」


 エレオノーラはここでカミラにちょっと恩を売ることで近づくことを考えた。アリスが人形を売っている会社に関係があるとしても、アリス自身とカミラを結びつける線は存在しないので大丈夫だ。


「えっと。ハントさんの家だったかな。似たような人形を売っていたと思うよ」


「そうか。助かった」


「カミラ殿下は人形を買うつもりなの?」


「そうではない。少しばかり気になることがあってな」


「そっか」


 これで少し近づけただろうと思うエレオノーラであった。


 と、エレオノーラがそう思ったとき、視界の隅に動くものを見つけた。少し注意を移すと見つけたのはアリスの人形だ。


 早速アリスもエレオノーラの周辺を調べだしたようである。


「何か困ったことであれば、私でよければ相談に乗るけど?」


「お前はお人よしだな。私が犯罪行為にかかわっていたらどうするんだ?」


「そのときは一緒に悪いことをするよ」


「面白い奴だな、お前は」


 エレオノーラの言葉にカミラが笑う。


「そうだな。なら、お前の友人を紹介してくれないか? 交友関係を広げたくてな」


「もちろん! 是非とも紹介させて!」


「そうか。次の休みにでもまた会おう」


 カミラはそう言ってエレオノーラと分かれ、寮の自室に向かった。


「殿下。何かお考えなのですか?」


「ああ。あの人形に関する情報が正しければ、パーティー会場で盗み聞きをしようとしていたのはエレオノーラの関係者だ」


 今日は吸血鬼の護衛がおり、その女性がカミラに尋ねてカミラはそう返す。


「あのパーティーに招いていた学園の人間は複数いるとエレオノーラは思っていたようだが、実際にはエレオノーラしか招いていない。よって学園の生徒の家で売られている人形とパーティーを結びつけるのはエレオノーラだけだ」


「なるほど。では、あの娘は国家保衛局と何かしらの関係が?」


「それは分からん。エレオノーラ自身が特に私をはめようという目的を持っていなかったとしても利用されている可能性はある。よって、まずはエレオノーラの周辺を調べておきたい」


「それで友人を、と」


「そうだ。警戒しておけ。国家保衛局は私を捜査対象にしている。連中が学園で行動しないという理由はない」


「畏まりました、殿下」


 既に学園内に国家保衛局が捜査の手を入れている可能性はあった。彼らはパーティー会場を令状もなく襲撃し、無理やり捜査を行おうとしたのだから。


 カミラが護衛たちに注意を促していたとき、エレオノーラは紹介する友人として真っ先にアレックスを上げるつもりで行動していた。


「アレックス! やったよ!」


「おお! それは何よりだ! ……で、何を?」


 アレックスの部屋に入ってきてエレオノーラが声を上げるのにアレックスが怪訝そうな顔をして彼女を見る。


「カミラ殿下が私の友達を紹介してほしいって。それでね。アレックスのことを紹介するつもりなんだ。これでもうカミラ殿下を調べる必要はなくなるよ」


「私を紹介して、カミラ殿下に『アカデミー』に加入してもらうつもりなのだね?」


「そう! そうしたら目的は達成でしょう?」


 確かにアレックスたちの目的は別にカミラのスパイ容疑をはっきりさせることではないのだ。あくまでカミラを『アカデミー』に勧誘することが目的であり、それが果たせるならばスパイ云々はどうでもいい。


「しかし、エレオノーラ。恐らくただ私を紹介しただけではカミラ殿下は『アカデミー』には加わってくれないよ。彼女には『アカデミー』に加わることに特にメリットはないんだから」


「そうなの?」


「黒魔術を扱う秘密結社だよ、『アカデミー』は。犯罪行為そのものだ。既にスパイがどうので面倒ごとに首を突っ込んでいるカミラ殿下がこれ以上トラブルを抱えたいとは思えないね」


「確かにそうだけど……。けど、ならどうして私の友達を紹介してほしいと?」


「少し不味いことになっているのかもしれない」


 エレオノーラが疑問に思うのにアレックスがそう答える。


「カミラ殿下は我々がカミラ殿下を調べていることに気づいたという可能性だ。我々を疑っており、君や私を調べようとしているのかもしれない」


「それは不味いね……。どうしようか?」


「隠せば逆に疑われるし、どうせいつかは我々が調べていることに気づくはずだ。ここは堂々と彼女と話そうではないか。その過程で彼女がぼろを出すか、我々がぼろを出すかの勝負と行こう!」


 アレックスはそう宣言して見せた。


「分かった。でも、アリスさんは気づかれない方がいいよね?」


「うむ。彼女は直接カミラ殿下を監視しているからね。気づかれない方がいい。とりあえず私を紹介することにしたまえ」


「そうする。ありがとう、アレックス」


 エレオノーラはそうしてアレックスをカミラに紹介することに。


「それではいつ私をカミラ殿下に紹介してくれるんだい?」


「次の休みの日。都合はいい?」


「問題なしだ。楽しみにしているよ!」


 アレックスはエレオノーラににやりと笑ってそう言った。


……………………


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