エスケープ・フロム・パレス
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──エスケープ・フロム・パレス
急にエレオノーラが出席しているパーティーの場が騒がしくなった。
「どうしたんですか?」
「ああ。何やら警察が来たとかで……」
エレオノーラがホテルスタッフと話をしていた招待客に話しかけるのに、招待客は困惑した表情でそう返す。
エレオノーラがパーティーが開かれている部屋を少し出て前庭を除くとパレス・オブ・カイゼルブルクの前庭にグリフォンが着陸していた。さらにはそこに武装した警察軍の兵士たちが立っている。
警察軍の兵士たちは黒い制服に赤いベレー帽。そのベレー帽には警察軍及び陸軍の精鋭にのみ皇帝から授けられる黄金に染められたグリフォンの羽根が刺してあった。
「騒々しくなったな」
「カミラ殿下。これって大丈夫なんですか?」
カミラもパーティー会場から出てきてグリフォンと兵士を眺めて言うのにエレオノーラが思わずそう尋ねた。
「後ろめたいことがなければ問題はない。とはいえ、痛くない腹を探られるのも気分が悪いものだし、痛くない腹を殴って苦痛を与えるのが、あの手の警察の仕事だ」
グリフォンから展開した兵士たちがホテルスタッフに警察軍の所属であることを示す警察手帳を見せ、ホテルに入ろうとしている。
「エレオノーラ。不快な扱いを避けたければさっさと帰った方がいいぞ。奴らは本当に不愉快な連中だからな」
「そうします」
エレオノーラはカミラにそう言われてホテルを出ようとする。だが、そこで外にいた警察軍の兵士たちがホテルに入ってきた。帝国鷲獅子衛兵隊の黒と赤の軍服を纏い、サーベルを下げた兵士たちだ。
「止まれ! 我々は警察軍だ! これから誰も外に出ることは許可しない!」
「え!?」
警察軍の兵士にそう言って呼び止められ、エレオノーラが驚く。
「お客様方。落ち着かれてください。警察軍が捜査に協力を求めています。すぐに終わりますので協力をお願いします」
ホテルの支配人も出てきてそうエレオノーラたち客に向けて求めた。
そして、そこで帝国鷲獅子衛兵隊の軍服に少佐の階級章を付けた男が前に出る。
「私はアルトゥール・ヴォルフ警察軍少佐だ。我々はここでスパイ行為が行われているとの匿名の通報を受けた。これより手荷物検査や事情聴取を行う。許可があるまでホテルから退去することは禁止される」
その将校はヴォルフ少佐と名乗り、捜査に協力するように高圧的に要求した。
「これから名簿とここにいる人間を照合する」
既にヴォルフ少佐はホテルスタッフからパーティーの招待客のリストを入手しており、その名簿と残っている客の照合を行う。
「初代トランシルヴァニア候バートラム・ハーバートはどこだ?」
「帰った。パーティーに深夜まで付き合うのには年を取りすぎたとな」
「ふん」
カミラが皮肉るように言い、ヴォルフ少佐が不快そうに鼻を鳴らした。
「ここにいるのは全員スパイ容疑がかかっている。捜査には協力してもらう。ひとりずつ呼び出すので呼ばれたら応じるように」
そして招待客がリストに従ってひとりずつ別室に呼ばれる。
「キップリング卿に連絡を取れ。内務省に圧力をかけて、捜査をやめさせろ。奴らは一度も令状を見せていないから、そこを突くように言っておけ」
「ただちに」
カミラがそう命じ、人狼の護衛要員が頷き、キップリング卿に連絡。
「ど、どうしよう……」
エレオノーラはホテルが帝国鷲獅子衛兵隊によって封鎖され、捜査が強行されるのに戸惑っていた。彼女はこれまで警察の取り調べを受けたことなど当然ながらなかったので仕方がないと言えよう。
「私は帝国議会議員だぞ!」
「一体、いつまで我々を拘束するつもりだ!」
既に不満は噴出しており、パーティーに招かれていた有力者たちが警察軍の兵士たちに食って掛かっている。しかし、警察軍の兵士たちはそのような文句には一切応じず、鋼鉄の規律で行動していた。
「次!」
取り調べは進んでおり、招待客は全員が取り調べられるようになっていた。
その様子にエレオノーラが不安を抱き始めていたときだ。
「貴様! 何をする──」
エントランスを封鎖していた警察軍の兵士が叫び、鈍い打撃音が響いた。
「何事だ!」
警察軍の兵士たちが音の気づいてかけてくるとそこにはサタナエルがいた。手の拳は握り締められ、殴り飛ばした警察軍兵士の血が滴っている。
「貴様、そこで何をしている! 我々は警察軍──」
「知るか。くたばれ」
警察軍の兵士たちが駆け付け、警棒などでサタナエルを制止しようとするのに彼女がさらに拳を振るって相手を殴り倒した。次々に兵士たちが殴られ、地面に倒れていく。
「何の騒ぎだ?」
「少佐殿! 暴徒がホテルに押し入っています! 交戦の許可を!」
「クソ。どういうことだ。速やかに制圧し、どういうことなのか調査しろ」
取り調べ中のヴォルフ少佐が命じ、交戦を許可された警察軍の兵士たちがサタナエルに向かって行く。
「総員、抜刀を許可! 構え!」
警察軍の下士官が命じ、兵士たちが一糸乱れぬ動きで一斉に黒い特殊な金属で形成されているサーベルを抜いて構える。
「ほう。やるつもりか? 叩きのめしてやろう。『七つの王冠』よ、来たれ」
そこでサタナエルの両手に刀身2メートルあまりの両刃の剣が握られ、さらには空中に同じ形状の5本の剣が浮かぶ。そして、計7本の剣が剣呑に輝き、込められた殺意を警察軍の兵士たちに向ける。
「な、何だ、あれは……」
「怯むな! 隊列を維持しろ! 前進!」
その異様な様子に恐れをなした兵士たちがうろたえ、下士官が号令をかける。
一度号令がかけられれば、兵士たちはサーベルを構えて怯むことなく前進を始めた。隊列を組んでサタナエルに向かって行く。
「愚かな連中め。死ぬがいい」
サタナエルが『七つの王冠』と呼んだ剣が一斉に警察軍の兵士たちに襲い掛かる。
「引くな! 構え──」
警察軍の兵士たちはサーベルで迎撃を試みるが、サーベルは弾き飛ばされ、兵士たちは一瞬でバラバラに解体された。
「雑魚が。相手にもならん」
ホテルのエントランスに警察軍の兵士だった肉塊が転がり、サタナエルが吐き捨てた。エントランスにいた警察軍に生き残りはいない。
「アレックス。片付いたぞ。後は好きにしろ」
「全く。君は派手に散らかすのだから困る。さ、エレオノーラを迎えに行こう」
サタナエルが軽く手を振って言い、アレックスがエントランスからホテルに侵入。ホテルスタッフは既に逃げており、無人のエントランスからエレオノーラを探して内部へ進んで行く。
「おっと。まだまだ警察軍の兵士がいるな」
ヴォルフ少佐が連れてきた警察軍の兵士たちがホテル内を制圧しており、先ほどの騒動の影響で警戒態勢にある。
アレックスは気づかれぬように移動しつつ、エレオノーラを探した。
「あれはカミラ殿下だね」
カミラは警察軍の兵士に監視された状態で人狼の警備要員と話している。エレオノーラの姿は近くない。
「鈴が鳴らないということは非常事態ではなさそうだが急いだ方がいいだろう」
アレックスはエレオノーラに渡しているマジックアイテムの鈴が鳴らないかを確認したが、鈴が鳴る様子はなく、エレオノーラは今はまだ大丈夫だと思われた。
警察軍の兵士を避け、アレックスはエレオノーラを探す。
「エレオノーラ!」
「アレックス?」
そして、ホテルのパーティー会場からやや離れた招待客が集まっている場所でアレックスはエレオノーラを発見。集まっているのは帝国の関係者ばかりでアルカード吸血鬼君主国の吸血鬼や人狼はいない。
「逃げるぞ、エレオノーラ。見張りの警察軍はサタナエルが片付けて、アリスが馬車を確保して待っている。長居は無用だ。行こう!」
「ええ。やっぱりカミラ殿下のせい?」
「この騒ぎの原因分からないが、カミラ殿下がスパイなのは間違いない。君のおかげで情報を掴むことができたよ」
「よかった。無駄じゃなかったね。なら、逃げよう」
「こっちだ」
そしてアレックスはエレオノーラを連れてホテルから脱出した。
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