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パーティーの裏側

……………………


 ──パーティーの裏側



 時間はエレオノーラがカミラとの友好を深めながらも、渡されていたアリスの人形を放って情報収集を始めたときにさかのぼる。


 アレックスたちはパレス・オブ・カイゼルブルクにいるエレオノーラを援護できるように可能な限りホテルに接近した位置に付き、ホテルの様子を窺っていた。


「あの……。お客さん。そろそろ降りてもらえませんかね? こんなところで停まっていたら……」


「あ?」


「ひっ! な、なんでもありません!」


 文句を言いたそうな馬車の御者をサタナエルが睨み、沈黙させる。


 アレックスたちは停車した馬車からホテルを見ていたのだ。


「アリス。まだ使い魔(ファミリア)から連絡はないのかね?」


「まだですよ。待ってください」


 アレックスは馬車からパレス・オブ・カイゼルブルクを見つめてアリスを急かし、アリスは使い魔(ファミリア)の下級悪魔から連絡がないかを待つ。


「おっと。来たですよ。聞こえてきました」


 アリスがそう言ってアレックスにも聞こえるように調整を行うとアレックスたちの耳にカミラの会話する声が聞こえてきた。カミラとトランシルヴァニア候の会話だ。


『で、トランシルヴァニア候。このようなパーティーの場でどのような薄ら暗いことを考えているのだ? 私にそれを手伝えというのだろう』


『殿下。この件は帝国側に既に警戒されています。それだけ我々が手を出そうとしているものは大きい』


『そうか。では、素人の私は関与しない方がよさそうだな』


 皮肉気なカミラの言葉が聞こえる。


「カミラ殿下の声ですね。本当にスパイだったとは……」


「だからそうだと言っただろう。さあ、集中して聞くんだ。聞き逃さないように!」


「うるさいです」


 アレックスとアリスがそう言い合って耳を澄まし続けた。


『殿下の協力がいただければ助かりますが、不注意に関わられても迷惑なだけという話ですよ。これはスパイごっこというお遊びではないのです』


『今さら私にその手の話をするのか、トランシルヴァニア候。いったいそのお遊び気分の私に何度そちらの面倒ごとを持ち込んだか覚えていないようだな。手を出すなと言うならば私は喜んで無関係を貫くぞ」 


『失礼を。しかし、殿下はこれまでの作戦が上手くいきすぎて油断なさっている様子でしたので警告させていただきました』


『ふん』


 今度は深そうなカミラの声。


「トランシルヴァニア候って誰なんです?」


「初代トランシルヴァニア候バートラム・ハーバートはアルカード吸血鬼君主国の重鎮である吸血鬼だ。王家よりも古い血筋の吸血鬼だと言われている。いわゆる古き血統(オールドブラッド)だね」


古き血統(オールドブラッド)。噂には聞いたことがありますが……」


「今はそれはいいんだよ、アリス! 今はカミラ殿下のスパイ行為だ!」


「はいはい」


 アレックスが注意し、アリスが続きを聞く。


『現在我々は帝国国防省内に資産(アセット)を構築する試みを行っています。その資産(アセット)の暗号名こそが『フィッシャーマン』です」 


『そいつには今日会うのではなかったのか?』


『予定が変更になりました。『フィッシャーマン』は自分が国家保衛局にマークされていると思っています。その疑いが晴れるまでは動くつもりはない、と』


『なんとまあ。使い物にならないな』


『それを使い物にするのが我々の仕事です。『フィッシャーマン』は重要な資産(アセット)になりえます。帝国の軍事機密に大穴を開ける可能性があるのです。手に入れられなければ大きな損失となります』


『では、どのように動くのだ?』


『それについてこれから簡単なご説明を』


 いよいよスパイ容疑の本題に入りつつある。


『我々が確認している限り『フィッシャーマン』は国家保衛局にマークされている様子はありません。ですが、『フィッシャーマン』が思い違いをして疑っているだけとも考え難い。我々が把握していないだけで動きがあるのかもしれません』


『つまり、国家保衛局を相手に調査を行うわけか?』


『まさか。それはリスクが大きすぎます。国家保衛局は我々の天敵。ネズミがネコに挑戦はしないでしょう』


 国家保衛局に対するカミラたちの話が聞こえてくる。


「国家保衛局の名前が出たね」


「内務省国家保衛局。帝国の秘密警察ですね」


 アレックスとアリスはそう言いながら続きを待った。


『『フィッシャーマン』は我々との直接取引を恐れています。であるならば、間接的な取引を行う態勢を整えればいいだけ。『フィッシャーマン』との間にある種のネットワークを形成しようと考えています』


『ネットワーク?』


『我々がこれまで転向させた資産(アセット)を使った連絡網とでも言うべきものです。『フィッシャーマン』が当局に拘束されて困るのは我々も同じこと。ですので、『フィッシャーマン』を保護できる態勢を整えます』


『なるほど。私の役割はネットワークの水漏れ防止というところか」 


『ええ。殿下にはこれまで転向させた資産(アセット)の信頼評価を行っていただきたい。その結果に従って『フィッシャーマン』と伝言ゲームを行う人間を決めていきます。ご協力いただけますかな?』


『よかろう。しかし、その前に掃除をした方がよさそうだ』


 そこで下級悪魔からの通信が乱れる。


「ま、不味いです! 見つかったですよ!」


「どうにかしたまえ!」


 この突然のことにアリスとアレックスが慌てる。


『おや。使い魔(ファミリア)ですか? 魔力が探知できませんでしたが……」 


『だろうな。下級悪魔を使い魔(ファミリア)にして従わせたものだ。黒魔術だな』


 トランシルヴァニア候とカミラが人形が盗聴を行っていることを察知。


「パーティー会場には人狼がいる。臭いを嗅がれればエレオノーラが人形を持ち込んだと知れてしまう。対処を急げ、アリス!」


「くう! 分かりましたよ!」


 そしてアレックスに言われ、アリスが動いた。


『黒魔術ということは国家保衛局ではありませんな』


『危惧すべきは鉄血旅団、か。人狼の警護要員を呼べ』


 カミラがそう言ったときアリスの対処が間に合った。


 下級悪魔との使い魔(ファミリア)の契約が解除され、下級悪魔は消え、人形もチリとなって消えたのだった。


「ふう。ギリギリセーフでしたよ」


「よくやった、アリス。これで我々はついにカミラ殿下のスパイ疑惑の手掛かりを得たぞ。我々が追うのは『フィッシャーマン』」なるスパイだ!」


「はいはい。で、どうやってその『フィッシャーマン』を見つけるんです?」


「それはこれから考える」


「はああああ……」


 考えなしなアレックスにアリスは大きくため息。


「そう簡単に問題が解決したら面白くないだろう? 問題はいろいろとアプロ―チして、挑戦と失敗のトライ&エラーの中で解決してこそ達成感があるというものだ。人生は挑戦で楽しくなる!」


「スパイ探しはスマートに済ませたいですよ。そもそも挑戦ってどう挑戦するんです? エレオノーラさんがカミラ殿下と親しくなっても、あの様子だとスパイのことまでは漏らさないと思いますよ」


「アリス。君は人に諦めるのが早いと言われるだろう。短気は損気だぞ」


「うるせーです。実際問題として挑むのに失敗し続ければ、警戒されてカミラ殿下はぼろを出さず、仲間にもなってくれないですよ?」


「うむ。その点は考えてある。安心したまえ!」


「本当に安心していいんです……?」


 アレックスが笑いながら言うのにアリスは不安そうに彼を見たのだった。


「アレックス。客が来たようだぞ」


「ふむ? あれは……グリフォンか」


 サタナエルが外を見て告げるのにアレックスも外を見て呟く。彼らの視線の先には獅子の半身とワシの半身を持った巨大な動物が4体飛行していた。背中には武装した兵士を搭乗させている。


 鷲獅子──グリフォンだ。


 グリフォンは元来は魔物ではあるのだが長年の品種改良によって家畜化され、今では移動手段や輸送手段として人類に使われている。今では馬よりわずかに高価な程度のものとして普及していた。


「王冠と剣を握ったグリフォンの紋章旗(バーナー)。帝国鷲獅子衛兵隊か。どうやら内務省が友人を訪問に来たようだね」


「帝国鷲獅子衛兵隊?」


「警察軍の公安部隊だよ」


 帝国鷲獅子衛兵隊は帝国内務省隷下の警察軍に所属する部隊のひとつだ。


 帝国の警察機構は中央集権化に当たって様々な改変を辿った。


 皇帝は地方の貴族や教会に左右されない強力な国家警察を望み、それに応じたのは内務省だった。内務省は国家憲兵隊とも表現される警察軍を編成し、皇帝の望み通り強力な国家警察を組織した。


 警察軍は純粋な警察業務の他に治安作戦や国境警備なども担当している。


 その警察軍の中でも国家保衛局との繋がりが濃い公安部隊が、あのグリフォンが翻している王冠とグリフォンの紋章を有する帝国鷲獅子衛兵隊なのだ。


「微妙に不味いくないです?」


「不味いね。エレオノーラが拘束されると厄介なことになる。救出に向かおう!」


「了解です」


 そしてアレックスたちはパレス・オブ・カイゼルブルクに向かった。


……………………

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