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秘密結社『アカデミー』

……………………


 ──秘密結社『アカデミー』



「さて。ようやく最初のメンバーを獲得したところで、我々の秘密結社について説明をしようではないか」


「え。私最初のメンバーなんです?」


「うむ。その通りだ、アリス。君の他は全員悪魔だからね」


「うへえ」


 アリスはアレックスが笑いながら言うのにちょっと呆れたような顔をした。


「で、だ。我々の秘密結社の名前を公開しよう!」


「どうでもいい……」


「よくない。大事なことなのだ。我らが秘密結社の名前は『アカデミー』だ」


「『アカデミー』?」


 アレックスが言うのにアリスが首を傾げる。


「秘密結社にしては妙な名前のように思えますが……。それって教育機関とか研究機関のことを指す単語ですよね?」


「そう、だから重要なのだ。我々が目的とするのはまず第一に黒魔術の追求であるということ。黒魔術の神秘を追及することこそが我々が最優先すべき目標であって、他のことは付随するに過ぎないということだ」


「へえ。てっきりあなたのことですから黒魔術で人に迷惑をかけようとかそういうことだとばかり思っていました」


「もちろん迷惑はかけまくるし、それでいて私は気にもしないつもりだ」


「控えめに言って最低ですね……」


 アレックスが自慢げに語るのにアリスが白い目で彼を見る。


「君だって散々周りに迷惑をかけてきたくちだろう。人のことばかり非難するのはよくないね。君も私も黒魔術なんてろくでもないものを少しでも使っている時点で、周りは大迷惑なのだよ?」


「まあ、それは……はい……」


 アリスがアレックスに批判されて渋々頷く。


「というわけで、秘密結社『アカデミー』の使命は黒魔術を追及することである。以上だ。次は我々の拠点となる場所を確保するとしよう」


「拠点、ですか?」


「今日は私の部屋に集まったが、これからメンバーが増えたら困るだろう? 我々の大いなる使命に相応しい拠点を手に入れなければね」


「はあ。心当たりはあるんですか?」


「あるにはあるが、ちょっとばかり問題もある」


 どのような組織にも拠点は大抵必要とされる。


 通信技術が未発達であるこの世界ならばなおのこと、メンバーが揃って、意見をを述べ、組織の方針を決定するための拠点が必要だ。


「おい。聞いてないぞ。拠点になりそうな場所があるのか? 聖騎士どもの目を逃れ、悪魔と黒魔術師が集えるような場所があると?」


「その通りだよ、サタナエル。あるのだよ。それもこの学園の中に」


「ほう」


 アレックスの言葉にサタナエルが興味深そうに目を細めた。


「このミネルヴァ魔術学園はかつて非常に苦しい困難見舞われたことがある。4世紀前に起きた『魔術は神に許されるものなのか』という論争を発端にした宗教戦争だ。大勢の魔術師が教会改革派によって火刑にされ、貴重な魔導書が焼かれた」


「それで?」


「帝国の当時の皇帝は反改革の保守派だったから魔術師たちを保護したものの、帝国内で完全に教会の動きを封じるなど無理だった。帝国諸侯たちも改革派と保守派に分裂して、争っていたぐらいだ」


 魔術とは神に許された行いのなのか? それを疑問にした改革派たちが引き起こした宗教戦争は血なまぐささを増して、帝国や周辺諸国を襲った。


「ミネルヴァ魔術学園は当時から存在し、各国から亡命してきた魔術師たちを受け入れたことで豊かな国際色を得たともいわれている。だが、今回重要なのはこの学園が戦争と迫害に備えていたという点だ」


 アレックスはそういうと本棚から古い地図を取り出す。


「これは古い学園の地図だ。みたまえ。ここに巨大な地下空間があるのは分かるかい? もっとも古いアドルフ3世記念講堂の地下だ。記録によれば丁度宗教戦争が起きた時期に改修工事が行われているんだ」


「この学園に忘れ去られた地下空間がある、と?」


「その通りだ。その地下空間を我々はいただく」


 アリスが言い、アレックスがにやりと笑った。


「しかし、大昔の地下空間なんて危険じゃないですか? 崩れたりとかガスが溜まっていたりとか……」


「なあに心配することはない。恐らくは大丈夫だ。これは作られた後に暫く運用されている。それにこれを作ったのは優秀な魔術師たちだ。我々がちょっと工夫すれば快適な別荘になるだろう」


「だといいのですが」


 アリスは不安そうだった。


 確かに問題の場所は作られたのは4世紀前という骨董品の地下空間である。不安になるのもしょうがないというもの。


「とりあえず行ってみようじゃないか。ダメだったら他を探すさ」


「私も行くんですか?」


「当然だろう。君も『アカデミー』の一員だぞ?」


「うへえ……」


「さあ、出発だ!」


 乗り気でないアリスを無理やり連れてアレックスたちはまずアドルフ3世記念講堂へ向けて学生寮を出発した。


 アドルフ3世記念講堂は帝都に位置するミネルヴァ魔術学園の中心部からやや外れた東側に位置している。かつてはそちらが中心部だったが、施設の老朽化と学園の拡張で今は寂れた場所になっていた。


「そう言えばこの前の中間試験はどうだったかね、アリス?」


「メフィスト先生のおかげでばっちりでしたけど。ほとんどの講義が過去問のままでしたしね。ちょろいもんです」


「私も楽勝だったよ。ただ必須科目の記号学と魔術史学は過去問とは大きく違っていたがね。それに加えて意地悪な問題が多かった」


「ああ。記号学の教師はいつも生徒に対して意地悪で知られてるそうですから。魔術史学の方は担当の教師が変わったそうなので、そのせいでしょうね」


「なるほど。ぼっちの割には詳しいのだね、アリス」


「よけーなお世話です。私も一応実家から期待されていますから、勉学については頑張っているんですよ。友達がいない分、遊ぶ時間は少ないので勉強できますしー?」


「ははっ! 自分で自慢してて空しくならないかね?」


「……少し」


 アレックスが苦笑いを浮かべて指摘するのにアリスが視線を泳がせた。


「気にする必要ない、アリス。君には私がいるさ」


「メフィスト先生!」


 そこで現れたのがメフィストフェレスだ。


「これからどこかに出かけるのか? 私も同行しても?」


 メフィストフェレスはそう言ってアレックスたちを見渡す。


「ぜひ、先生。少し危険なところに行くみたいなんですよ」


「ふむ。どこだね?」


「この学園の地下にある昔の避難所、だそうです。そこに私たちの秘密結社『アカデミー』の拠点を置くとアレックスが」


 そう言ってアリスがアレックスの方を向いた。


「いかにも、その通りだ。メフィストフェレス、君にもついて来てもらえると助かるのだが、一緒に来てくれるかな?」


「いいだろう。同行しよう。我が愛する人アリスのためにも!」


「助かるよ」


 こうしてメフィストフェレスがパーティーに加わった。


 それから広い学園内を進む。中間試験が終わり、テスト後の休日が訪れており、そのせいで学園内の人出はまばらなものであった。


「しかし、地下とは。我々悪魔にとっては過ごしやすい場所ではあるものの」


「地獄自体が世界の下層に位置するものだからな。全ての世界という名の宇宙が存在する場所の、その全ての基底に存在するのが地獄だ。俺たちその基底から、地下からあらゆる世界に干渉する」


 メフィストフェレスが言うのにサタナエルがそう付け加えた。


 地獄は地下にある。それは概念的なものだ。実際にこの世界の地下にあるのは地殻でありマントルであり地質学的なものである。


 ただ、どの世界の地下という概念に必ず地獄の影がちらつくし、実際に悪魔たちはどのような世界でも地下を好む。


「つまり、我々が地下を拠点に選ぶのは素晴らしいということだ。さあ、いざ地底を征服しようではないか!」


そしてアレックスは意気揚々とアドルフ3世記念講堂に向けて進んだ。


……………………

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