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文学少女を調査せよ

……………………


 ──文学少女を調査せよ



 アレックスは翌日も何もなかったかのように授業に出て、エレオノーラと食事をしていた。あのようなことがあった翌日であってもアリスはアレックスに接触してくるようなことはない。


「エレオノーラ。アリスとは親しいかね?」


 食堂で軽い昼食を食べながらアレックスが同席しているエレオノーラに尋ねた。


「うーん。正直、あまり親しいとは言えないかな。挨拶しても返事してもらえなかったりで。向こうも忙しそうだから仕方ないとは思うのだけど。ひょっとしてアリスさんと何かあったの?」


「私は少し仲違いをしてしまった。仲直りがしたいのだが、どうしたらいいかと思って。君はアリスと同じ女性として仲直りには何をしたらいいと思うかね?」


 エレオノーラが答えるのにアレックスがそう問いを重ねる。


「そうだね。私だったら素直に謝ってもらって、ちゃんとこちらも謝れば気持ちよく喧嘩を終わらせられるけど。一般的にはこういう場合はプレゼント、かな?」


「ほう。聞かせてもらっても?」


「女性に限らないと思うけどプレゼントは人を喜ばせるものだよ。プレゼントそのものも嬉しいし、それを送ってくれるという気づかいも嬉しい。もし、プレゼントがまさにほしいものだったら少しぐらいのことは許しちゃう」


「なるほど。確かにプレゼントはいいものだ。君は何がほしい?」


「内緒」


「いいね。ミステリアスな女性は好きだよ」


 エレオノーラが悪戯気に笑って告げるのにアレックスもにやりと笑った。


「冗談は置いておいてアリスさんなら……本、かな?」


「本かね?」


「ええ。アリスさんはよく図書館にいるから。本を読むのが凄い好きみたいで、休み時間も本を読んでるよ。どんな本なのかは教えてくれないのだけれど」


「ふむふむ。文学少女というものだね」


 アリスが前にも図書館で本を読んでいたのはアレックスも把握している。


「あ。一冊だけ前どんな本を読んでいるのか後で借りたことがあったよ。『国王陛下が愛する月の乙女』って小説で……」


「内容は?」


「ちょっと恥ずかしいから自分で読んでみて……」


「そうしよう」


 エレオノーラからは貴重な情報が手に入った。


「では、楽しい時間が過ごせたよ。ありがとう、エレオノーラ。私は早速図書館に行ってみる。また食事を一緒にしよう」


「ええ。またね、アレックス」


 その情報を下にアレックスは行動することに。


 エレオノーラと分かれるとアレックスは図書館を目指す。


「全く、退屈な代物しかなさそうな場所だ」


「何を言っているんだい、サタナエル。これぞ究極の好奇心の砦だ。本は知識であり、知識と好奇心はいつだって人にするべきではないことをやらせてきた。まさにこの図書館の存在は神への冒涜ではないか」


「もっと刺激的な本でもあればそう言えるんだがな」


 サタナエルを連れたアレックスは図書館の中を進み、司書たちがいるカウンターに向かった。そこでは司書たちが忙しそうに蔵書の分類や修理を行っている。


「やあやあ。少し尋ねたいことがあるのだが、いいだろうか?」


「はい。何でしょうか?」


「『国王陛下が愛する月の乙女』という本を探しているんだが、どこにあるかな?」


「その本なら児童文学のコーナーに。確認しますね」


 司書が蔵書の貸し出し状況を確認する。


「児童文学コーナーのC-2書架に置いてあります」


「助かったよ。どうもありがとう」


 司書に礼を述べてアレックスたちは児童文学コーナーへ。


「ふむ。この『小さな騎士ピエールの冒険』は大昔に読んだことがあるよ。素朴だが胸躍るいい物語であったね。やはり子供の楽しめる文学作品は上品ぶったまがい物の知性ではなく、心に訴えかけるものがある」


「どうでもいい。問題の本はどこだ?」


「待ちたまえ。ちょっとぐらい思い出に浸らせてくれないか?」


「断る。さっさと探せ」


 サタナエルがアレックスにそう命じ、アレックスは本棚を見渡す。


「あった。これだね。さてさてどんな本だろうか?」


 アレックスは問題の『国王陛下の愛する月の乙女』という本を発見。


 表紙はごく普通の文学作品のそれだ。紙の表紙で厚さもほどほど。


 このイオリス帝国において出版はさほどハードルの高いものではない。既に帝国には印刷機と機械化された製紙産業が存在しており、大量の安価な本を生み出せた。


「なるほど。なかなか興味深い本だな」


「素直に言え。どんな本だ?」


「子供向けだよ。イケメンの男性に美しい女性の繰り広げる煌びやかで砂糖を吐きそうなほど甘い恋物語。なんてことはない」


「そういう趣味か」


 アレックスが肩をすくめ、サタナエルが秒で興味を喪失。


「だが、彼女の趣味というのが分かった気がするよ。そして、彼女に対してプレゼントするべきものも。そのために君の力が借りたい、サタナエル」


「手ならいつでも貸してやる。何発ぶん殴ればいい?」


「違う、違う。君の配下の人間を貸してほしいんだよ」


「ほう?」


 そのアレックスの言葉で再びサタナエルが興味を持った目をする。


 地獄の頂点に立つサタンたる彼女の配下には様々な存在がいる。


 かの有名なハエの王にして強大な大悪魔ベルゼブブや天界最大の背信者たる大悪魔ルシファーと言った強大な存在たち。それとは対照的に名前すらないような雑多でありながら邪悪にして醜い低位の存在たち。


 そのひとりにアレックスは用事があった。


「君に貸してほしいのはあの七つの大罪のひとつ“傲慢”の──」


「傲慢?」


 そこで場違いな少女の声が聞こえた。


「おやおや。どうされましたかな、聖騎士(パラディン)殿? 本をお探しで?」


 アレックスが余裕の笑みを浮かべて振り返って見るのは、他でもないブリギット法王国からの留学生にして聖騎士(パラディン)ガブリエルだ。


「いえ。少し調べ物をしていまして。昨日これに似た人形を持っていませんでしたか、アレックス・C・ファウストさん?」


 ガブリエルがそう言ってみせるのは布製の子供向けの人形──昨夜アリスが呪術を使ってアレックスにけしかけた人形の1体だ。


「ええ。それならば探し人に届くように預けておきましたが。遺失物取り扱いの窓口までご案内しましょうかね?」


「結構です。どうも妙な感じがしたので調べていましたが……」


「妙な感じ、とは?」


 アレックスはぞくぞくするものを感じながら問いを続ける。


「硫黄の臭いです。この臭いはあまりいいものではありません」


「それは地獄の臭いであり悪魔の臭い」


「……何を知っているですか?」


 ガブリエルがその青い瞳でアレックスを見つめた。とても冷たい目だ。


「いえいえ。一般的な伝承の話ですよ。地獄には硫黄が煮えたぎる池があって罪人は悪魔とともにそこで苦しめられるとかいう。私も悪いことをするとそうなるよと脅されて子供時代に躾けられましたから」


「ああ。そういうことでしたか。これは失礼を。あなたは『殺すべき悪い人間』ではないようで安心しました」


 ガブリエルはそう言って笑みを浮かべるとアレックスの下を去った。


「『殺すべき悪い人間』か。ある意味では我々と実に相性がよさそうだ」


 アレックスはガブリエルが言った言葉に不気味に笑う。


「スリルを楽しむのは結構だが、また間抜けにも殺されたりするなよ。何度も貴様の転生に付き合わされては迷惑だ」


「重々承知しているよ、サタナエル。次は勝利しなければ」


 サタナエルがそんなアレックスに警告し、アレックスは頷く。


「で、話を厄介な聖騎士(パラディン)のお嬢さんがしゃしゃり出てくる前に戻そう。君かしてもらいたいものがある。君に従う地獄の国王の一柱にして大罪“傲慢”のルシファー──その眷属のひとりだ」


「ルシファーの眷属か。具体的には誰だ?」


「あのルシファーに仕える彼女と同じくらい傲慢なナルシストな悪魔さ。心当たりはあるだろう?」


「ああ。なるほど。あいつか」


 アレックスの言葉にサタナエルは小さく笑った。


……………………

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