第14話 決戦、スカルドラゴン
【ノームの洞窟:199層】
岩に囲まれた洞窟、その深層にて。
ルクスはある一匹の魔物と対峙していた。
「見た目は竜の骨って感じだな。でも、骨なのに何で動いてるんだろうか。さすがダンジョン、色んなことが起こる!」
得体の知れない魔物を前にしながらも、ルクスは嬉しそうに笑う。
ダンジョン愛好家のルクスにとってみれば、未知の魔物との遭遇も喜ぶべき事象だった。
――グシュルルルル。
ルクスが表現した通り、現れた魔物はさながら動く竜の骨だ。
スカルドラゴン――。
剥き出しにされた骨が動く様がまさに異質であり、これまでルクスが相手にしてきた強靭な魔物たちよりも更に強い戦闘力を持つ個体である。
明らかに他の魔物とは異なると。
それはルクスも肌で感じ取っていた。
何故無機物であるはずの骨が動いているのかという疑問については、ゴーレム種も岩が動いているようなものだし同じようなものかと、ルクスはひどく単純な解釈で締めくくる。
「他の魔物は……出てこないな。とするとこの階層はコイツ一匹なのかも。でも目立った動きはな――って、うぉっ!?」
スカルドラゴンを観察していたルクスが突如その場を離れる。
直後、ルクスの立っていた場所とその周辺の地面を削るようにして何かが通過する。
それはスカルドラゴンの尾だった。
スカルドラゴンは上体はそのままに、長い尾の部分だけを鞭のように払ってきたのである。
初見であれば回避することすら難しい攻撃だっただろう。
躱すことができたのは、ダンジョンに潜り戦闘を重ねてきたルクスの戦闘勘ゆえか。
「これでも喰らえっ!」
宙に浮いた状態で、ルクスはスカルドラゴンに対し反撃を仕掛ける。
《魔弾の射手》による光の弾丸の連続射出。
その全てが的確にスカルドラゴンに向けて飛んでいき、命中――するかに思われた。
「いっ!?」
ルクスがその光景に目を見開く。
放たれた光の弾はスカルドラゴンをすり抜け、後ろにある壁面に衝突したのである。
――コカカカカ。
スカルドラゴンは無傷であり、口部分の骨をカタカタと震わせている。
硬い装甲を持つゴーレム種ですら有効なはずの魔弾の射手による攻撃。
それをもってしてもスカルドラゴンにダメージを与えることはできなかったらしい。
いや、正しくは着弾していないといったところか。
スカルドラゴンの外殻はその全てが尖った骨でできている。
つまり、魔弾の射手による攻撃では衝突面が無いということなのだろうとルクスは理解した。
「射属性の攻撃じゃ相性が悪いか。しかしどうするか……」
スカルドラゴンがまた尾撃を繰り出してきて、ルクスはそれを回避しながら思考する。
命中すれば致命傷を与えられる臓器のようなものも見当たらない。
加えて、尾が岩盤を削るほどの強度を持っていることからも、骨自体が相当な硬さだと推測された。
(火や水の魔法とかにも耐性ありそうだよな。かといって《念操作魔法》で干渉できるような大きさじゃないし。それなら……)
――グゴォオオオオ!
攻撃が当たらないことに業を煮やしたのか、スカルドラゴンが接近してきた。
そのままルクスめがけて体当たり攻撃を仕掛けてくる。
(よしっ。今だ!)
間合いを詰めてきたスカルドラゴンに対し、ルクスは迎撃を試みた。
「《岩石墜下》――!」
突如、スカルドラゴンの頭上から岩石の雨が降り注ぐ。
――ガッ!?
スカルドラゴンは回避しようとするが、勢いよく突進していたためにその全てを避けきることはできなかった。
体の何箇所かを石の雨に押しつぶされ、見るからに動きが鈍る。
そして、その隙をルクスは見逃さなかった。
「《土釜の檻》――」
ルクスが両手を広げて唱えると、スカルドラゴンを囲うように洞窟の地面がせり上がっていく。
それはまさに、土で形成された檻だった。
――ガ、ゴガァ……!
土に覆われ、もがきながら飲み込まれていくスカルドラゴン。
その状況を危機と感じてのたうち回るが、脱出することは叶わなかった。
そして――。
「閉じろ」
ルクスが広げていた両手を合わせると、土の檻が閉じ込めた対象を押しつぶすかのように圧縮される。
合掌が解かれ、土の檻がただの土くれに戻る頃には全て終わっていた。
「よし、これで残る階層はあと一つ」
粉々に粉砕された白い骨が土の中から姿を現すが、それらはもうピクリとも動かない。
ルクスが199層の主に勝利した瞬間だった。





