第12話 無双
【ノームの洞窟:198階層】
「さて、さっそくお出ましだな」
土色の岩壁に囲まれたダンジョンの深層にて。
意気揚々と歩いていたルクスの前に大量の魔物が現れる。
獰猛な牙を持つ大型ウルフ種や素早く飛び回る有翼種、岩がそっくりそのまま動いているかのようなゴーレム種、等々。
ざっと数えただけでも50はいるだろうか。
現れた魔物はそのどれもが鋭い目付きで、侵入者であるルクスに敵意を向けていた。
中には危険種として教本に載っている魔物までいて、さすがに最難関のダンジョンといったところか。
「よし、それじゃまずはコイツらからだな」
しかし、それらの魔物を見て、ルクスは逆に目を輝かせる。
まるでこれから始まる戦闘が楽しみだとでも言わんばかりに。
――キシャァアアアアア!
そんなルクスの様子を挑発と受け取ったわけではないだろうが、魔物たちは一様に牙を剥いた。
対するルクスはぐるぐると腕を回し、コウモリ型の魔物――ブラックバットの群れに向けて手を伸ばす。
「《念操作魔法》――」
すると、ルクスに向けて滑空してきたブラックバットの群れが、突如翼を失ったかのように地面へと落下する。
いや、「ような」ではない。
実際にブラックバットたちは翼を失っていた。
――キッ!?
小型であるが故に素早く飛び回り、敵対した者を撹乱しながら攻撃を仕掛けてくるブラックバットは、単体で出現しただけでも脅威と言われる。
それが群れで襲ってきたのだ。
通常であれば、その対処に追われる内に他の魔物の攻撃を受けてしまうことだろう。
しかし、ルクスの《念操作魔法》の前には、ブラックバットご自慢のスピードも意味を成さなかった。
人間程度の大きさまでなら様々な干渉が可能というその効果により、ブラックバットたちは翼をへし折られたのである。
「よし、上手くいった。お次はあのウルフたちだ」
ルクスは言って、次なる標的を見定める。
――グガァアアアアア!
四足で地面を蹴り、牙を剥き出しにしながら迫ってくる大型ウルフたち。
《念操作魔法》で干渉できる限界を超えているために、ルクスは別の魔法で対処を試みる。
「白の魔弾よ、貫け――」
ルクスが唱えると、洞窟内に閃光が走る。
――グギュッ!?
その閃光を受けてまず一匹。
「どんどん行くぞ」
ルクスが呟き、立て続けに白い閃光を放つと、大型ウルフが次々に数を減らしていく。
そして、ウルフたちはルクスに接近することすら叶わず、地面に倒れ込むこととなった。
「うしっ。やっぱりこの魔法は使い勝手が良いな」
《魔弾の射手》と呼ばれる、ルクスお気に入りの攻撃手段の一つ。
八大精霊ダンジョンの一つ、《ウィルオウィスプの地下神殿》というダンジョンの第10層で習得した魔法である。
ルクスの手から放たれる光の弾丸は、瞬速にして高威力。
その一つ一つは小指大の大きさであるにもかかわらず、大型魔物ですら屠るという破壊力を兼ね備えていた。
「残るはゴーレム種だな」
準備運動が済んだとでも言わんばかりにルクスが呟くと、岩の塊が恐れおののくように後退りする。
そして数分後――。
「よっし、198層クリアー!」
洞窟内にはルクスのそんな声が響き渡っていた。





