第六十八話 『その後の世界』
アキラへ
あれからどれほどの月日が経っただろう。アキラが居なくなってから、この世界ではいろいろな事が起きました。
例えばフェル爺。あの時の戦いでマナが枯渇したフェル爺はそのまま息を引き取りました。そして身内だけでお葬式をしたのだけれど、どうやら仮死状態になっていただけで生きてたみたい。お葬式の途中で起き上がったものだから皆びっくりしちゃった。特にアリアーネさんはびっくりしすぎて気を失っていたわ。
アキラのご両親、ヤクモさんとリンさんは、リーゼロッテさんやミュリエルさんと一緒に町の復興に尽力してくれています。お二人が居れば百人力、いや、千人力かな。おかげでどこの国の人も随分と活気を取り戻してきました。
それとロイスとキク、二人が正式に婚約したよ。結婚式は「師匠がいないからしない!」って言って先延ばしになったけど…。ロイスは騎士団に戻ってマルクス団長の補佐を、キクはからくり人形を使った戦闘組織の立ち上げを任されて忙しいみたい。
モミジはシノノメの国に里帰りしています。アキラがいなくなった当初は扉をこじ開けてアキラの所へ行くって言って聞かなかったけど、今はクレハの里に戻って後輩たちにいろいろと指導をしてるってさ。
キールはフェニクレインと一緒に魔獣ハンターをしながら各地を回ってます。特に旧ゼーカルマール帝国領は悪いマナの影響か、未だに魔獣が集まりやすい場所になっているから、そのあたりを中心に活動しているとの事です。
あたしは…、何も変わりありません。アキラがいなくなっても全然寂しくなんかない。そのうち直ぐに会えるので大丈夫です。メロディちゃんは強い子だゾイ!
嘘を吐きました。やっぱり寂しいです。アキラに会いたい、アキラに触れたい、アキラと生きていきたい。もう言わないと決めていたのに、弱音を吐いてしまいました。弱虫メロディは卒業したはずなのに、アキラがいないと点でダメです。
あれからどれほどの月日が経っただろう。あなたがいない世界はやっぱりなんだか物足りないです。
アキラ。アキラは今どこで何をしていますか?ちゃんとご飯は食べていますか?
服はちゃんと洗濯していますか?怪我とか病気はしてないですか?
あたしのことをまだ好きでいてくれていますか?
ずっと待ってます。そして無事を祈っています。
メロディ・リンデット
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魔族の世界のとある森。
「ぶえぇっくしょぉぉおい!チクショー、誰か俺の噂してやがる…」
「ぐぷ?風邪でぷか?風邪は万病の元でぷから気をつけるぐぷよ…」
「そーよそーよ。健康でいないとあたしのオリジナルが悲しむでしょーが、このすっとこどっこい!!」
「二人共気にしすぎだって…。まったく、いろんな意味で先が思いやられるわ…」
「ちょ、ちょっと、余を置いて話をするな!あと物理的にも置いて行くな!アキラっ、コラーッ!」
そこでは新しい四人(?)での旅が始まっていた。
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旧ゼーカルマール帝国領での戦いから一年後。モミジからの突然の便りでミスミティオン連合国家のとある邸宅の前に久々の顔ぶれが揃っていた。
「よぉー、キール!元気しとったか?」
「おう、見ての通り。俺もフェニーも元気だぜ!モミジも相変わらずだな」
「お久しぶりクレインですぅ」
「皆さんお久しぶりです」
「お久しぶりですよー」
「おぉ!久しぶりじゃー!ロイスとキクは婚約したんじゃったの!?めでたい!」
「こ、こんにちは…」
キクの後ろからちょこんと顔を出した幼女に、キールとフェニクレイン、そしてモミジが目を見開いた。
「こ、子供!?早すぎねえか!?」
「う、うわぁですぅ…」
「ロイスもやるのぉ…」
「ち、違う!この子はヴィヴィアンヌと言ってだな、話せば長くなるんだが…!」
ロイスが手をあたふたさせながら説明を終えた頃に、キールが本題を切り出した。
「で、モミジ。ここはどこなんだ?」
「あー、ここはじゃな…」
「ここはリンデット邸。メロディのご実家ですよ」
口をもごもごさせていたモミジの代わりにロイスが答えた。ロイスとキクからしてみても約一年ぶりのリンデット邸であった。
「メロディの実家?なんでここに?」
「まぁ…入ればわかる。たのもー!モミジじゃー!」
モミジが玄関の戸をノックすると、中から大勢の使用人とメロディの両親が出てきた。
「メロディの父、ブライです」
「母のリーナです。今日は皆さんありがとうね…うっ…」
突然泣き出してしまったリーナの肩をブライが支える。優しい良いご両親であるようだった。
「早速じゃがお邪魔させてもらう!」
「ええ、ごゆっくりどうぞ」
そうしてキールたちは使用人とモミジに案内されてメロディの部屋へと向かったのだった。
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「腐ってるな」
キールの一言目の感想であった。
「その通りじゃ、腐っとる」
モミジも同じ意見である。
メロディの部屋はリンデット邸中央本棟の屋根裏にある。そこに入った直後の発言であった。
「ういー…ひっく…、なぁんだよぉ~モミモミ…なぁにしに来たんだよぉ…ひっく…」
酒樽を抱え、頬を赤くして寝そべる魔術師の姿がそこにあった。一年ぶりのメロディは完全に飲んだくれへと変貌していたのだった。
「なんでこんな事になってんだ?」
「師匠がいないからでしょうか…」
実際その通りであった。魔族の世界、略して魔界へと門を閉じるためにアキラがいなくなってから一年が経った。それによってアキラ不足に陥ったメロディが酒に溺れてしまったと言う事である。
「部屋もぐちゃぐちゃですね…」
「魔道具制作の後が見えるですぅ…」
キクとフェニクレインが部屋に散乱した物を見ながら感想を述べる。それほどにメロディの部屋もメロディ自身も荒れていたのである。
「どうするんだモミジ?何か考えがあるのか?」
「うむ、その通りじゃ。おーいメロディも良く聞け!」
メロディの元へ皆が集まるとモミジが一枚の書状を取り出す。それはルフニエル国王の印が押されている素晴らしく質の良い書状であった。
「読むぞ。えー、ルフニエル国王、フェルゼー・シュトラーン・ルフニエルの名において、英雄アキラ・シモツキを魔族の世界より召喚し呼び戻す計画を進める事を宣言する。よってルフニエル王国、ひいてはシッフル、ミスミティオン、シノノメ各国にて魔術に精通する者はこれに参加せよ。特に、ミスミティオンのメロディ・リンデットは必ず計画に協力するように。以上、って事なんじゃ…ごファッ!?」
モミジが読み終わると同時に、目に生気を取り戻したメロディがルフニエル国王からのありがたい書状をぶんどってそれを読み始めた。上から下へ何度も視線を動かして書状を確認するメロディは以前の活発な彼女そのものであった。
「モミモミ、これいつから始めるの?」
「えっ…?確か三十日程後からじゃったと思うが…」
「遅い!!あたしフェル爺の所に行ってくる!」
目を輝かせ、荷物をさっさと準備してしまったメロディはカバンを抱えて出ていこうとする。
「ぼさっとしてないで!皆も行くよ!ほらキール、モミモミも!ロイスとキクも!なにやってんの!前の召喚は術式組むのに五年かかったんだから、急いで!今回は一年で組み上げるよ!!」
そう言って部屋から出ていってしまった。その様子を見ていたキールたちは目を合わせて笑った。
「こんな時アキラならなんて言うじゃろうか?」
「“やるっきゃねぇなぁ!”だろ、モミジ!」
「やるっきゃないですぅ!」
「ええ、行きましょう。師匠呼び戻し作戦です!」
「やるっきゃないですね!」
「私も助けるよ…」
こうしてキールたち四人、そしてフェニクレインとヴィヴィアンヌの二人も、メロディに続いてルフニエル王国へと向かったのだった。
これにて第三部完結になります。
第四部に続きます。




