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MagicaAnima(マギカアニマ)  作者: 丹下和縞
第三幕 全面戦争
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幕間Ⅴ話  『アスカルデの町の戦いⅡ』

 アスカルデの町を、ぐるっと大きくドーム状に覆う魔力障壁が展開されている。それを組み上げているのは一人の魔人族の老人であり、名前をブリュレ・リンデットと言った。



「くっ…そろそろ来てくれないとあたしも辛いさね…。老体に鞭打ってるわけだからさ」



直後に彼女の元に向かう一人の人物の気配に、ブリュレは気付いたのだった。マナ障壁に張り巡らせたマナ探知の魔術で、どんな小さな存在でも侵入を察知することができるのだ。

遥か上空から降りてきたのは銀髪を有した女の騎士であった。銀色の騎士は風魔術でゆっくり着地をする。



「すまないブリュレ、遅くなった」


「本当だよ。年寄りをもっと労りな!」



ぷんすかと怒るブリュレをなだめて、聖騎士ロゼッタは背中の二本の剣を抜いた。



「ここは任せてくれ」


「頼んだよロゼッタ」



ブリュレがマナ障壁を消すと同時にロゼッタが外へと駆け出す。一心十歩で踏み込まれた一歩は一瞬で数十メートルを進んだ。



「シェラザハウィード!」



右手の煌めく神剣を振るうとロゼッタ以外の全ての時がゆっくりになった。実際はロゼッタ本人の速度が普段の数倍以上になっているのだが、ブリュレと周りにいたゼーカルマール兵にはそのように見えたのだった。



「ミスティブルヘリア!!」



冥界で生まれた闇の神剣が振るわれるとロゼッタを中心に空間が大きく歪んだ。そして大きく広がる形に陣形を組んでいたゼーカルマール兵は一瞬で一箇所に集められてしまった。



「何が起きたか分からないって顔をしているな魔族ども。まあ、知った所で結果は何も変わらんだろうがな」



右手の煌輝剣が光を、左手の冥滅剣が闇を帯びて同時に振るわれた。相反する二つの属性がぶつかりあうことで発生するエネルギーはロゼッタの剣先で小さな爆発を起こす。それに触れたぜーカルマール兵は尽く爆発によって消滅していった。



「クハハッ!次ィ!!」



ロゼッタの視線が次の集団へ向けられると直後には剣撃によって消え去っていく。そんな聖騎士による魔族の蹂躙の繰り返しであった。



「あんっ!?」



ロゼッタは何かが飛んで来るのに気付くと、その場から一気に退いた。そして先程まで自分が居た地点を見ると、そこには数枚の木の葉が突き刺さっていた。

木の葉が抉った地面の様子から、帝国の異能力者の力であると推測できた。



「何者だ」



ロゼッタが鋭い瞳で二人の女を見つめる。一人は恐らく植物系の魔族、もう一人は竜魔族であるようだった。



「帝国十二狂月、四番目。樹木使いアプリコット」


「同じく、二番目。魔獣使いフェブライ。」



名乗りを上げると植物魔族のアプリコットが手を動かす。それに応じてロゼッタの足元から植物のツタが伸び、ロゼッタを拘束した。続いて竜魔族のフェブライが口に指を当てて口笛を吹くと、どこからか大型の魔獣が数匹その場に現れロゼッタへ攻撃を仕掛けてきたのだった。


それに対してロゼッタは唇の端を吊り上げて変な笑みを浮かべる。その笑みに萎縮した魔獣たちはロゼッタへ攻撃を当てる前に動きを止めてしまった。



「どうした魔獣たちよ!」


「気づかないか?」



フェブライの言葉にロゼッタが問う。



「お前の可愛い魔獣たちは本能で察したんだ。“ダメだ、この女には勝てない”とな」



即座にアプリコットが次の樹木を出そうと動くが、上手く能力が発動できない様子であった。



「樹木を使う能力なら、この辺り一体を“木の生えぬ状態”にすればいい。魔獣を使う能力なら、その魔獣に“理解”をさせればいい。それだけの事だろう?」



そう言ってロゼッタは自身に巻きついた植物を内側から崩す。ツタはパキパキと音を鳴らしてその場に落ちていったのだった。



「ありがとう、ブリュレ」


「なぁに、氷魔術は得意さね」



若かりし頃には氷晶の魔女と呼ばれたこともあるブリュレ・リンデットが、氷魔術を使ってこの辺り一帯を息すら凍る空間へと変えていた。その影響はアプリコットとフェブライにも及び、二人の体は氷の結晶によって包まれてしまった。



「相手が悪かったな。アプリコット、フェブライ」



ロゼッタの剣が、二人の首筋を捉えた。




◇◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「お前がリーゼロッテ・グライヴか!」




リーゼロッテがその声の主に視線を向けた直後、辺りの温度が一気に上昇した。それは先程からリーゼロッテが使っていた火魔術よりも高い熱量がその場に現れた事を意味していた。



「はい、私がリーゼロッテですが、何か?」


「この顔に見覚えはないか!!」



そう言って女はかぶっていたフードを取った。その顔を見たリーゼロッテは目を見開いて答える。



「全っ然、わからないわ」



そんなリーゼロッテの様子に怒りを露わにする女。



「数日前にお前が殺した水使いのジュアは私の妹だ!!帝国十二狂月七番目、熱使いジュイエがお前を殺す!!」



ジュイエが両の手の平をリーゼロッテに向けると、とんでもない温度のエネルギー波が放たれた。対してリーゼロッテは水と土の魔術を併用したオリジナル魔術で人型の泥人形を生み出し防御態勢を取った。



「そんな泥人形で、この熱量に耐えれるかしら!?」


「くっ…!」



圧倒的な熱のエネルギーを受けた泥人形は水分を奪われ、崩れ落ちてしまった。その間に風魔術で移動を開始する。



「逃げても無駄よ!私の操る熱は自由自在!ジュアが受けた苦しみをお前も味わえ!!」



ジュイエの手からはひっきりなしに熱のエネルギーが放たれていた。それは空気を焦がし、木々を燃やし、石を炭へと変えていた。だがリーゼロッテはエネルギー波には目を向けず、ジュイエの使う微妙なマナの流れを見ていた。



「可視化魔術、展開…」



目を閉じてボソリと呟く。これによってリーゼロッテの視界はあらゆる力の流れを捉えることができる。そして一つの結論を導き出した。



「(熱を操るだけで体は全くの生身…それなら…)」



リーゼは長杖を放ると身体強化魔術と風魔術を併用してジュイエに向かって一気に距離を詰めた。それを好機と見たジュイエはすかさずリーゼロッテに向けて熱波を浴びせた。



「馬鹿ね!死にな!!」



ジュイエがリーゼロッテに攻撃を放った直後、リーゼロッテが熱波によって溶かされてしまった。溶けたリーゼロッテはそのまま倒れると、だんだんとぼやけて最後には水へ変わってしまった。



「残念、そっちはハズレ」


水人形ヴァーチェ・ドール!?」


「その通り」



ジュイエの懐まで入ったリーゼロッテは右肩、右肘、左拳でジュイエの胸部腹部に当身を入れた。リーゼロッテの全身を使った当身を受けたジュイエはかなりの速度で飛んでいく。そして肺から空気が体からすべての力が一気に抜けたジュイエは、地面に倒れたまま動けない様子であった。



「カハッ……お前、何を…」


「魔導師が魔術しか使えないと思ったら大間違い。私は体術も使える。全てヤクモの教え」



リーゼロッテは魔術で長杖を呼び寄せると、風の刃と闇魔術から生み出した大きな魚を出現させる。



「なっ、何を」


「申し訳ないけど、あなたのような異質イレギュラーはこの世界には残しておけない。その痕跡の一片も…」


「やめっ、やめろぉ!ぎゃぁぁああああああああ!!」



風魔術で切断されたジュイエを闇魚がむしゃむしゃと咀嚼をする。これによってジュイエは痕跡すら残さずこの世界から消えるのである。



「バランサーって、嫌な仕事ね……」



リーゼロッテは一言だけ小さく呻いたのだった。




◇◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 アスカルデの中心地、避難民の集まるエリアにずぶ濡れのヤクモと帝国十二狂月が一人、幻術使いのオーガスが対峙していた。



「ほっほ?その人魚がこのわしを狂わせる?よかろう、やってみよ」



オーガスは両手を広げると、“惑わしの術”を展開する。それをヤクモに向けて波打つ水のように放った。

そんな異質な能力を察知し、避けるヤクモであったが。



「ほぉれ、小童が!硬直の術じゃ!」



オーガスはヤクモが避けた先へ幻術“硬直の術”を当てる。それに当たってしまったヤクモの体が途端に動かなくなってしまった。



「ほっほっほ、これで終わりじゃ。喰らえぇぇ!」



ついにオーガスはヤクモの精神破壊へと乗り出す。



「あああががが…がががああがああ!!」


「そうじゃそうじゃ、そのまま狂ってしまえぇ。コイツが終わったらお前たちの番じゃ」



オーガスが避難民の方を見て唇の端を不自然に吊り上げた。


こうして、アスカルデの中心地は帝国十二狂月八番目、幻術使いのオーガスによって制圧されてしまったのだった。



※※※※※※※※※※※※※


※※※※※※※※※※


※※※※※※※


※※※※





『と言った感じで脳内を、そして実際はご覧の通りに』



シンシンの説明と手の動きに、ヤクモを含め避難民全員が視線を移した。そこにいたのは口からだらしなくよだれを垂らし、立ち尽くすオーガスであり、焦点の合わない目だけが忙しなくキョロキョロと動いていた。



『狂ってしまいました』


「このジジイの幻術を水魔術で防御反射しただけなんだがな」



ヤクモはオーガスが放った幻術をそのままオーガスへ返したのだが、結果はご覧の通りであった。見事オーガスは戦闘不能になり、アスカルデの避難民たちに平和が訪れたのだ。



「ヤクモ、大事ないか?」


「南門は終わったよ…」



ちょうどその場へロゼッタとリーゼロッテが駆けつける。それはアスカルデ防衛戦の事実上の勝利を意味していた。


それと時を同じくしてアスカルデの北側から大勢でやってきた者たちがいた。



「北側も終わったぞ。我らルフニエル王国と騎士団の勝利だ」



茶色い髪を短く切り、白い装甲に身を包んだ若き騎士団長、マルクス・コルケスと騎士団員たちであった。



「さすが閃光のマルくん……早いわね…」


「当たり前だ!我らの剣術が、魔術に引けを取る訳にはいかん!」


「まぁ、マルくんは夜の剣術も閃光の様に早いのだけれどね…ぷーくすくす…」


「リ、リリ…リーゼ!!貴様何をッ!!」



二人のやり取りを見て思わず笑みが溢れたヤクモが「よし!」と声を上げる。



「これにて、アスカルデ防衛戦終結だ!!」


「「「「ウォォォオオオ!!」」」」



各地で歓声が上がる。こうして三英雄二つ目の戦い、アスカルデ防衛戦は終わったのだった。

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