第四十三話 『メロディちゃん人形』
「ラケッソ村に行ってくる」
アキラの突然の言葉に皆が手を止めた。アキラの記憶が復活して早一週間。未だ帝国が動きを見せない為、ここ数日は各々シッフルで観光したりゆっくりしたりしていた。
そんな矢先の朝食時の一言だった。
「あ、あたしも行く!」
「わしもじゃ!!」
メロディとモミジはすかさずアキラとの同行を主張する。だがアキラは二人の申し出を断った。
「いや、申し訳ない。今回は一人で行きたいと思う」
「「えええーーーー!!」」
アキラの言葉に二人が同時に打ちのめされる。机に突っ伏していじけてしまった。
「ちょっと、知り合いかもしれない人たちに会ってくるんだ。二人共ごめんな」
「あーい」
「うむ、行って来い」
机に突っ伏していた二人が顔だけを向けて答える。こういう時にはある程度自重してくれるので助かる。
「これ食べたら出かけてくるから。留守を宜しくな」
「夫の留守を待つのは妻の務め」
「気をつけてのぅ!」
「デゴルベアに会ったら逃げろよー」
「師匠、お気をつけて」
「アキラさんいってらっしゃいですー」
アキラの言葉に皆が答える。頼もしい仲間たちだぜ…。
そして朝食を終えたアキラはラケッソ村へ行く準備を始めたのだった。
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ラケッソ村に向かうと言っても簡単なものである。なぜならモミジに教えてもらった竜人族の秘術の一つ“ゲート”があるからである。
「よいか、集めたマナを円状に敷いて出入り口を想像するんだ」
「おう!やってみるぜ」
ルフニールに言われた通りにマナを操作する。そして出入り口を強くイメージする。すると。
「うわっ!おお、できたか!?」
「上出来だぞアキラ。さすがだ」
見事、ゲートの魔術を出す事ができた。その様子を横で見ていたルフニールは満足そうに頷くとアキラの頭の上に戻る。
ゲートの転移先はイルシオン大森林を指定してある。上手くいっているならばそこに繋がっているはずだが、確証はないので恐る恐るゲートの中へと入った。空中に浮かぶ真っ黒の楕円へ足を踏み入れるとそこは。
『おや、アキラ。最近はよく来るのう』
見事イルシオン大森林に繋がっており、大精霊古き狼のククルルがいた。
まだ寝起きなのだろうか、大きくあくびをしながら尻尾を一振りした。
『ラケッソ村ならあちらぞ』
そう言ってとある方向を見る。
「わかるのか?」
『だいたいわかるわいのう。わしとて伊達に長く生きとるわけではない』
「さすがですククルル女史」
ククルルは嬉しそうに一鳴きすると、アキラの背中を大きな爪でトントンと叩いた。
『ほれココルル、出てきなさい。イルシオンの霧は人を迷わせる、アキラをラケッソ村まで連れて行ってやりなさい』
『はあい』
気の抜けた返事と共にあくびをしながら狼の姿のココルルが現れた。
「では、また来ますね」
『次はゆっくりお茶でもしようじゃないか』
「ええ、是非とも」
ククルルと軽く挨拶を交わしていると、ココルルが鼻先でアキラの腰を突いてきた。恐らく「私に乗っていけ」と言うことだろう。
『随分と仲良くなったものだな、ココルルよ』
『いえあ、私はアキラと共に在り、なのでーす』
白い巨狼と銀色の狼が向き合う。果たして何の話をしているのだろうか。
『それで良い。シンシンとルフニールもアキラを宜しくの』
いつの間にか現れたシンシンとルフニールがそれぞれ肩と頭の上でペコリとお辞儀をする。精霊の業界の挨拶みたいなものだろうか?
『ではかあさま。私はアキラをラケッソまで送らないと行けませぬので』
『引き止めて悪かったね。行っておいで』
アキラがココルルに乗ると、ココルルが不服そうな目でこちらを見てくる。
「ん?どうした?」
『そんなふわっと乗ってると落ちるよ。しっかり捕まって』
それもそうだなと思い、首辺りの毛を掴む。
『いたっ…毛は痛い、毛は痛いよ!首に抱きついて!』
「おお、ごめんごめん。こうか?」
そしてアキラがしっかりと首に手を回したのを確かめると、ココルルはすぐさま走り出した。後ろではククルルの『やれやれ』という声が聞こえた。
霧深い森の中を二人が風になって走り抜ける。獣道すらない木々の間を的確な位置取りで通っていく。まるで木がアキラたちを避けていっているようにも見えた。某映画で見た「木が避けていく」感覚というのはこの事なのだろう。
『そろそろ平原に出るよ。そしたら道が見えると思う』
ココルルの言葉で伏せていた体を少し起こして前を見た。霧がいつの間にか薄くなっていたので、森の中心から随分と走ってきたのだなと分かった。
『はい、通り抜けました!』
ココルルは森を抜けると速度を緩めていった。見ると小高い丘の上にいるようで、あたりを見渡すことが出来た。山々に囲まれているが道があり家もあり人も歩いている。まるで忍者の里のような一種の秘境のような場所に見えた。
「おー、いい景色だな。ラケッソ村はあれか?」
『うんうん、この辺は全部ラケッソ村だねー』
そんな会話を交わしていると少し遠くの方から二人の男が駆けてきた。見ると武器を持っており、その顔の色は青白い。
「ん?あれは…」
『魔人族だね。ここはミスミティオン連合国家と近いからラケッソ村の警備はミスミティオンの兵士がやってるのかも?』
「おい、貴様。先程《幻獣の森》を抜けてきたように見えたが、何者だ?」
武器に手をかけた二人の兵士が詰め寄ってくる。
「それにはあたしがお答えしましょー!」
突然アキラの肩掛けカバンから声がした。これはメロディの声…?
不審そうに見てくる兵士に頭を下げてカバンを開けて中を見る。すると何かがカバンから飛び出してきた。
「じゃじゃーん!メロディちゃん人形なのです!」
「うわっ!!びっくりした!!」
飛び出してきたのはメロディを模した布製の人形。髪の色、瞳の色、服装や持ち物に至るまで全てが素晴らしい再現率で作られていた。
「なんだこれ…メロディが入れたのか?」
「そうですねー。あたしはオリジナルのメロディ・リンデットが作った生き人形、メロディちゃん人形なのです。ぱちぱちぱちー!」
そう言って手を叩くメロディ人形。なんなんだこれは…。
「はい、そこのミスミティオン兵士のお二人!この紋所に目が入らぬか~!!」
そう言って何やらペンダントのようなものを取り出した。メロディが耳飾りとは別に身につけていたものだ。それを見たミスミティオンの兵たちは驚き飛び上がる。
「お、王家のペンダント!??ミスミティオン王家の使い魔か!!?」
「だから、オリジナルが作った生き人形だっていってるでしょ!このすっとこどっこい!」
ぷんすかぷんと怒るメロディちゃん人形。アキラにもココルルにも何が何だかわからない様子であった。
「まーあたしはメロディ・リンデットの記憶や性格、その他いろいろな特徴を持った魔道具って事ね!おわかり?この人はミスミティオンの王族の知り合いってこと!さー行った行った!」
しっしっ!と兵を払うメロディちゃん人形。メロディが王族?初めて知った事実であった。
「さてー、後はお任せして、あたしはカバンに入っておく…いててて!」
ごそごそとカバンに戻ろうとするメロディちゃん人形をアキラが掴み上げた。
「いったーい!アキラってば乱暴なのね、ぷんぷん!」
「いや、掴んだのは悪かったよ、ごめんな。ちょっといろいろ聞きたい事があるんだ」
ぷんすかぷん!と怒りを露わにするメロディちゃん人形。だがすぐにニコーッと笑ってみせた。
「アキラの頼みならあたしなんでも聞いちゃうんだから!はい、どうぞ!」
「いや、まずお前は何だ?」
「あたしは、メロディ・リンデットが作った魔道具の一つ。魔石動力自動操人形、通称“生き人形”のメロディちゃん人形2号機。簡単に言うとメロディ・リンデットの小さなコピー体ね!」
「そんなものもあるのかよ……。それで、メロディが王族ってのは本当なのか?」
メロディちゃん人形は見た目こそぬいぐるみであるが、仕草や話し方などは完全にメロディであった。顎に手を当てて考える仕草も本人と同じである。
「リンデット家はミスミティオン王族の分家なのよね。まあ、あたし…じゃなくてメロディ・リンデットはおばあちゃんであるブリュレ・リンデットの影響で随分自由奔放な性格になっちゃったみたいだけど」
メロディ本人から聞けなかった事をメロディのコピー体から聞いてしまった事に少し罪悪感のあるアキラ。だがメロディちゃん人形はそれを悟ったのかこう言った。
「別に隠してるつもりではなかったけど、今まで言う機会がなかったから言えなかっただけなのよねー。だからアキラは気にしないでね!」
そう言ってアキラの左肩にぴょんと飛び乗った。右肩がシンシンの定位置と知っての事だろう。
「さー、目的の場所へゴーー!!」
「えらく元気だなメロディちゃん人形」
その後はメロディちゃん人形に耳を引っ張られつつ、ラケッソ村唯一の宿兼酒場である《竜人の台所》へ向かったのだった。




