外伝1「重巡洋艦利根」③
「あらやだ……大口を叩いた割には、大したことないのね。あっさり頭上を押さえましたわよ! 雪風さん、いただきですわーっ!」
さっそく利根の瑞雲が雪風の頭上を取った。
……雪風の正確な対空砲火と機銃掃射の嵐の中、一機でもそこまでたどり着けさせただけでも、なかなか大したものなのだけど……多分、これは……。
「対空戦闘の基本は……砲火と機銃掃射で相手の頭を押さえて、敵機の動きをコントロールするんだ……頭上を取られても、そこから乱数増速で……」
高度100mからの投弾……予測位置もタイミングも悪くないんだけど……雪風相手でその高度で当てるのはさすがに……。
「ええっ! 今のタイミングでなんで避けるのです? ウソ! 被弾っ! そ、そんなぁあああっ!」
予想通り、雪風の絶妙なタイミングでの増速で、瑞雲の投下した爆弾は遙か後方へ……更に正確な機銃掃射で、ダイレクトコントロール中の瑞雲が真下から撃ち抜かれて、容易く火を噴く。
「あはは……言ったじゃないか。投下タイミングさえ読めれば、水平爆撃なんて余裕回避なんだよ。そもそも、単機でかかってきてたんじゃ、話にならない。君の瑞雲は全部で6機もあるんだから、並列制御で全機連携してかかっておいで! 爆撃もどうせやるなら、突っ込ませるつもりで急降下爆撃にしてみなよ。あれって、意外と避けるの難しいんだ」
「ううっ……解りましたわ! でも、並列制御とか簡単に言わないでよね……あっちもこっちもいっぺんになんて、頭がわややになりますわ!」
「これが空母とかになると、70機とかの同時制御になるんだよ? 一機づつダイレクトリンクでの精密制御にこだわるんじゃなくて、空戦ドライバにある程度任せた群体制御……たぶん、それが正しい。ここぞと言うときに本命の機体の制御にリソースをつぎ込むようにすると良いんじゃないかな? それと利根の本体が遊んでちゃ勿体無い……せっかくだから、空海連携でやってみなよ。自艦の特性を理解して強みを活かす……基本的な事だけど、結局それが近道なんだ」
「ふん……さすが解ってるわね。元々航空巡洋艦と駆逐艦なんてハンデもらってるんだから、絶対勝ってやる!」
「そうそう……その心意気だよ。君の後にはサードフェイズ……本命が続くんだ。戦艦や空母の無人制御が実現出来れば、戦場で死ぬ人が激減する……。戦場で戦うのは僕達示現体だけ……意外と悪くない時代だと思わないかい?」
「そうね……わたくしの次には赤城とか加賀みたいな空母が続くのよね……。こんな機銃一発で落ちるような脆い戦闘機に人を乗せてるから、バタバタ死人が出て……ホント嫌になるわ。……エーテル空間の戦場に人間なんてお呼びじゃないのよね。でも……一人ぼっちで戦うのは嫌……貴女も艦長さんくらい欲しかったんじゃないの?」
「僕は……今のほうが気楽でいいかな……」
少しだけ寂しそうに呟く雪風。
……僚艦は皆沈む……そんな風に言われて、付いた渾名が「死神」
どんな状況下からでも生還すると言うのはつまるところ、そう言う事だった。
雪風同様、無茶な戦場で戦い続け……その度、生還するわたしに「不沈」の二つ名が付いたのとは対照的だった。
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「次世代兵器の搭載実験計画……ですか? この期に及んで……ですか」
利根さんと雪風さんの猛特訓の様子を眺めていると、柏木中佐が戻ってきた。
戻ってくるなり、別室に連れて行かれて、そんな話をされた。
「ああ、先のシミュレーション結果を鑑みて、駆逐艦初霜の装備増強が認可された。セカンドへの戦略偵察が失敗すると、いよいよ後が無いからな……。参謀本部もダメ元なんて、考えを捨てて、成功率を少しでも上げる為の最大限の支援をした上で送り出すべきだと言う方向になってな……。本来、雪風が改装される予定だったが、その装備を一式初霜に回す事にするとのことだ」
「どのような装備なのです?」
「まずは、127mm電磁加速砲……エーテル空間戦用の物がようやっと実用化されたらしい。火薬式とは比較にならないくらいの高性能砲だ。命中精度はよろしくないが、未来予測システムとの組み合わせなら、実用レベルの命中率を実現出来るそうだ。それに駆逐艦の高機動化改装、サイドスラスターと緊急加速ロケットブースターを搭載するそうだ。シミュレーターにデータ実装済みだそうだから、早速慣熟訓練に入って欲しいとの技術開発部からのオーダーが来ている」
「かしこまりました! けど、そうなると雪風は?」
「雪風は……次世代兵器の実装テストヘッドとして、艦体の基礎レベルからの抜本的な大改装を行うとのことだ。そして、今後続々と無人化される駆逐艦群の教導艦としての任につけるそうだ。今回の計画には……まぁ、オブザーバー参加ってとこだな。本人に話したら、怒りだしそうだな」
それを聞いて少しだけ安心した。
わたしが駄目だった時、雪風が投入される……そう雪風は言っていたけど。
教導艦を無茶な任務に投入するような真似はしないと思っていいだろう。
そう言う事なら、わたしも心置きなく出撃できる……たとえ、それが片道切符だとしても。
「……俺は、そんな帝国の将来が掛かった作戦なのだから、もう少し慎重にやるべきだし、そもそもセカンドへ単艦突入なんて無謀だと言ったんだがな。むしろ、君なら無事帰還する可能性が高いとか言い出してな……。その代わりと言っちゃなんだが、一応支援艦隊も出してもらえる事になった。ただし、戦艦空母級を含む主力じゃなく、軽巡由良と駆逐艦睦月、如月、有明と夕暮の5隻からなる水雷戦隊だ……ただし、これらは有人艦だからな……間違っても前衛に出すべきじゃないな」
「インセクターの領域に侵攻する以上、あまり大規模戦力は出せませんからね……それくらいがちょうどいいかもしれません。でも……有明と夕暮って……」
「君の同型艦だったかな? 一応、姉妹艦って事になるのか」
「そうですね……人間で言うと、妹達ってとこですかね……でも、示現体は非稼動状態なんですよね」
「残念ながらな……艦体制御システムとして、組み込まれた状態ってとこだ。戦隊長を努める軽巡由良の艦長は、俺の先輩でな……。お前達、示現体についても、理解のある気の良い奴だから、そう悪い扱いは受けていないと思う。なんでも、艦の女神とか兵隊達も呼んで、毎朝拝んでるらしい……なんとも先輩らしい」
「……姉妹艦……一度くらい会ってみたかったです」
「過去形で言うなよ……。これから、お仲間も続々と増えるんだぞ? お前は、最古参の先任艦として新人共の面倒を見てもらう事になる。それと、無事に戻ってこれたら、また喫茶室のスイーツ端から端まで食わせてやるから、楽しみにしとけ」
「ふふっ……お気使いありがとうございます……柏木中佐」
「……それともう一つ……今後、俺のことは提督と呼んでくれ。実は今回、色々口出してるうちに、本作戦の指揮官を拝命されてな。……ついでに俺も大佐に昇進だそうだ。君も正式に俺の部下と言う事になる……そう言うことでよろしくな!」
そう言って、柏木大佐……もとい、柏木提督は笑った。
こうして、わたしの出撃前夜は、奇妙な出会いを経て、私も予想外の展開を見せることとなった。




