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第十六話「混沌の契約者」②

「遥提督……前方50km、深度50m地点にて、潜行艦反応が出現! 魚雷撃ってきました!」


 ……現場付近まで来た所で唐突に蛍から警報。

 さすがに、手慣れてるようで、指示する前に迎撃魚雷を放ち、迎撃態勢を整え始める。

 

「こんな所で待ち伏せ? 敵なのかい? 無警告で撃ってきたって事は敵とみなしていいだろうけど、いったい何者だ?」

 

 なお、斑鳩艦隊については、すでに上流側にいたシルバーサイズの攻性デコイを破壊しつくし、戦闘を停止している。


 ハーダーやアルバコアは、アマゾン達の護衛として、周辺警戒中の任を与えていた。

 

 当然ながら、その警戒網は極めて厳重と言えるもの。


 敵の潜行艦がそんな容易く抜けられるようなものでは決して無い……だが、コイツはここに居る!

 

「艦種不明に付き、詳細解りませんが、IFF識別信号には応答なし。アンノウン敵性艦として対処します。スーパーキャビテーションモード解除、静音タイル起動の上で隠密戦闘モードに移行します。上空の千代田の哨戒機から続報……音紋照合結果……艦種は推定ガトー級とのこと。状況的にシルバーサイズと思われます」


 嫌な予感がしていたのだけど、当たってしまった。

 こんな形で、敵とバッタリ遭遇するとは……なんて状況なんだ!

 

 戦術モニター上でも、魚雷同士が接触寸前となる。

 やがて、シルバーサイズの魚雷が起爆したらしく……遠雷のような爆発音と共に各種センサーがホワイトアウト。

 

「……嘘っ! いきなりジャマー魚雷なんてっ! すみません、センサーアウトです! 後続の伊10へ警報発令!」


 初手でこっちの目を潰しに来るとは……やるな。

 

 やけに戦いなれてる印象を受けるのだけど……。

 こちらが把握している限り、シルバーサイズはまともな戦闘を経験していないはずだった。


 もっとも、オリジナルの戦果はガトー級でもトップクラスの武勲艦。

 ロストナンバーズらしく、特殊装備と独自チューンを施したスペシャルカスタム艦。

 

 カイオスは潜行艦は情報収集と索敵に用いる以外、有効な運用はしていなかったようで、これまで戦ったシュバルツの潜行艦との戦いは、非武装の相手を様々な手段を用いて、発見の上で叩き潰す一方的な狩りのような戦いばかりだった。

 

 本格的な攻撃型潜行艦との戦いとなると、こちらも未経験の領域。

 

 蛍たちも、攻撃型潜行艦との戦いを想定して実戦訓練を重ねていたようだけど、初っ端からセンサーアウトなんて状況を強いられている。

 

 明らかに戦慣れしている……侮っていい相手じゃない。

 

 なにより、こんな場所にいたとなると、ハーダーとアルバコア、斑鳩のアマゾンの警戒網を抜けてきたってことだった。

 

 この状況……撤退一択だと思うのだけど、であれば何故、こんな所にいた?

 狙いは一体何だ? こいつは……危険な敵の匂いがする。


 それに……さっきから、じっと見られているような感覚がつきまとう。

 何処に居る? センサーアウトの状態こそ、アタシの力が頼りになってくるはずだ……。


 けれども、妙な感覚だった。

 やけに気配が薄いと言うべきか……ソナーの反応と自分の感覚の不一致?

 前方のシルバーサイズからではなく、別の位置から気配がするような気がする。


 いかんせん、アタシもこの潜行艦のソナー表示と自分の感覚の調整ってのがまだまだ不十分。

 実戦で、この能力に頼るのは危険だった。

 

「蛍……他の敵の兆候は無かったかい? なんて言うかな……敵の気配が薄くってさ、少し気になった」


「……ホワイトアウト直前の情報を監査しても、敵影は認められません。上空の対潜哨戒機からの情報でも敵艦らしきものは、前方の一隻のみしか反応はありません。遥提督の能力は認めるには十分ではありますが、索敵ともなると過信は出来ないのではないでしょうか?」


 ……うーん、考え過ぎか。

 とにかく、現状は初手のジャマー魚雷で、目潰しをされてしまっている。

 向こうもこちらを観測する手段がない以上、奇襲される可能性は低い。

  

 遭遇戦と言える状況なら、速やかに対処するのみ!


「蛍……一隻だけの様子だし、もうあれが本体だと、断定しよう。けど初弾でジャマー使ってくるとは……やってくれるな」


「そうですね……通常のエーテル空間戦闘で言うと、初手からスモーク弾使われるようなものですよね。セオリーとは言い難いですが、案外回り込んだ所をこちらに見つかって、苦し紛れ……なのかもしれません」


 ジャマー魚雷自体は、こちらも装備してる防御用魚雷の一種だった。


 こちらのは、重音響爆雷とも呼ばれている音だけ盛大な爆雷の長射程バージョン……向こうのは、持続時間がやけに長い……立て続けに爆音が一定間隔で響き渡る事で、長時間ソナー使用不可と言う状況をつくられてしまっている。


 恐らく独自に改良されたカスタマイズ兵器なのだろう。

 ……なかなかに贅沢な相手だった。


「状況的には、そう思うのが妥当だけど、苦し紛れにしては、なんと言うか芸がない。持続型ジャマーとか厄介だけど、センサーアウトってのは向こうも条件は一緒……ひとまず落ち着いて、静止状態で様子を見るんだ。後続の伊10と合流してから、数の優位を確保した上で多角的に包囲してしまえば、あとはゴリ押しで勝てる。潜行艦戦とかよく解んないけど、陸戦や空戦でも多対一の状況に持ち込めたなら、正面の囮役が敵戦力を拘束。別働隊で側面や後背を突くってのが基本だからね」


 数の優位は戦場では絶対の優位と言われるのは、そう言う事。

 どんな猛者でも、正面の敵の相手をしながら、後ろから斬りかかられたら、案外脆い。

 

 空戦でもそれは同様だし、エーテル空間戦でもアタシの艦隊は、敵の死角を突く奇襲攻撃や後背を脅かすことで、敵から主導権を奪い取り、戦場の流れを変えたりしたものだ。

 

 潜行艦戦といっても、戦闘フィールドが三次元である事と、索敵手段が限られている事程度しか、違いはない。

 この場における最適戦術は、敵を拘束して、逃さなければそれでいいのだ。


「……センサー回復します……報告っ! 敵艦反応、二つに増えてます。どちらかがデコイ? 同時に撃ってきました!」


 ……攻撃してくるデコイとか、面倒な話だった。


 有効な兵器だと認めざるを得ないけれど、ネタはすでに割れている。

 

 センサーアウトさせた上でデコイを展開。

 デコイを用いた戦術としてはむしろ順当と言える……多分、これがシルバーサイズの基本戦術。


 けれど、二択状態とか、両方共撃てば済む話。

 

 距離もそう離れていない以上、シンプルに火力が増えただけ。

 数に惑わされなければ、どうと言うことはない。

 

 この様子だと、蛍の言うように追い詰められて悪あがきってところか?

 けれど、一方的に撃たれるこの状況はあまり面白くはない。

 

「まったく、イニシアチブを完全に取られてるな。魚雷は下手に迎撃しない方がよさそうだ。相手はこちらのセンサーアウトを狙ってるはずだ……ここは機動力で大きく躱してみせろ」


「了解! ギリギリまで引き付けて、スーパーキャビテーションモードで増速回避します!」


 直角に曲がってくる宇宙戦の対空誘導弾やら、光速のレーザーなんかに比べたら、潜行艦の誘導魚雷程度、全然生易しい。

 おまけに、距離もある……案の定、こちらの動きに追従しきれず、敵艦の魚雷は逸れる。

 うん、さすが伊201……条件次第では魚雷を振り切ることも可能だろう。


 蛍も牽制魚雷を放って、敵艦付近で自爆させた上で、再び静音モードに戻して、慣性航法状態に入る。

 

 音もなく移動する……アクティブソナーもある程度は無効化するとなれば、文字どおり透明化しているようなものだ。


 蛍もなかなかどうして、上手いもんだ。

 この状態なら、さすがに敵もこちらを見失った事だろう。


「うん、悪くない判断だね。ひとまず敵を拘束して時間稼ぎに徹しつつ、後続と合流することを最優先としよう。佐竹提督も状況を察しただろうから、直に駆けつけてくれるはずだ」


「……ですが、向こうは更にデコイを追加した模様……反応6に増加……」


 6対1……デコイがほとんどとは言え、なかなか、厳しい状況だった。


 デコイと言えど、撃ってくるなら十分戦力に数えられる。

 シルバーサイズ……何とも厄介な相手だった。

 

 対するコチラは不利は否めない。

 

 なにぶん、伊201は偵察用だけに、火力が低い。

 高機動型と言っても、流体面下で使える武装は魚雷くらいしかない。

 

 あとは、近距離迎撃用のバラマキ小型機雷……通称「スターマイン」と、迎撃用の近距離小型魚雷程度。

 潜行艦の武装については、まだまだ研究の余地がありそうだった。

 

 けれど、不意にプレッシャーを感じる。

 

「蛍! 緊急増速! スターマインを撒けるだけ撒いて、一斉起爆っ!」


 紛れもない殺気……半ば反射的に怒鳴る。

 

 これは……至近距離に何かいる!

 蛍も条件反射的に指示に従いつつ、アクティブソナーによる索敵を実施!

 

「……シルバーサイズ! め、目の前に居ます! 側面方向約ご、500m?! ぎょ、魚雷接近中です……スターマイン起爆……迎撃に失敗……回避、間に合いません!」


 デコイに目を集めておいて、至近距離まで静音状態で接近。

 モニター上のシルバーサイズとの距離は数百m……ほとんど目の前だった。

 

 そう……こちらが発見した本体と思っていたシルバーサイズは、初めから偽物だったのだ!

 

 完全にやられたっ!

 

「くっ、そう言うことか! 本体は初めから、無音でこちらに忍び寄っていたのか……回避……間に合うのか?」

 

 魚雷の探針音が自前の耳にすら聞こえてくる。

 ここまでの超近距離……ひょっとしたら、誘導されていた可能性もある……なんてヤツだ!


 魚雷の直撃とかどうなるか、想像も付かないけれど、伊201は防御力も耐久力も決して高くはない。

 ガトー級クラスの魚雷なら駆逐艦どころか軽巡クラスでも一撃で沈むくらいの威力がある。

 

「……魚雷、振り切れません。直撃……来ます」


 蛍から絶望的な言葉が告げられる。

 

 ……これは覚悟を決めないとダメか。

 もっと早く、あれがデコイだと気付いていれば!

 いや……もう少し自分の勘を信じていれば、こんな事には……。


 よもや、こんな所で倒れることになるとは……無念としか言いようがなかった。

 佐竹提督の静止を無視したばかりに……。

 

 後悔ばかりが過る中、アタシに出来たことは、目をつぶって、衝撃に備える事くらいだった……。


 ……直後、重たい金属音が響く。

 

 釣り鐘の中に入った状態で、思いっきり鐘を突かれたらこうなる……そうとしか表現しようのない音。

 艦体が激しく揺さぶられ、照明が一瞬暗くなる。

 

 けれど、爆発音も装甲が砕かれる音も一向にしない。

 

「な、なにが……起きた? 被害報告っ!」


 息をするのも忘れていた事に気付いて、大慌てで息継ぎをしつつ、蛍に報告を促す。

 この様子だと、幸運にも魚雷は不発……恐らくスターマインで巻き込んだ事で信管がイカれたのかもしれない。

 

 とにかく、命拾いした……けど、そこで安心して、トドメの一発をもらうとかそれこそ阿呆だ。

 敵はまだ近くにいる!


「……本艦側面部に魚雷が直撃……けれど、不発だったのか起爆しませんでした。損害報告……外殻装甲に亀裂とヘコみが出来ただけです……損傷軽微っ! 電装系……エーテル流体侵入で一部断線していましたが、予備系統に切替、復旧しました。現状、戦闘続行は可能……ダメージコントロール稼働中! ひとまず、上昇転舵します!」


 コクピット内の照明が復旧する。

 システム再起動中……各種パラメーターは正常に見える。

 

 問題はなさそうだった……けどっ!


「待て! 今はまだ動くなっ! シルバーサイズは? まだ近くにいるぞ! こちらもジャマーで相手に目くらましをかけろ!」


 気配を感じる……魚雷が不発とか、まさに運が良かっただけ。

 ここで慌てふためいて、第二射を受けたら、今度こそ確実に沈められる。


「申し訳ありません! ロスト中……了解、ジャマー魚雷射出後、直ちに起爆ッ! センサーホワイトアウト中! 今のうちに離脱します」


 ……吉と出る凶と出るか。

 いずれにせよ、仕切り直しが必要……全くハードな状況だった。

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