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第十五話「アマゾン」①

 ……なんと言うか、底抜けのお人好し……というのがアタシの印象だった。


 こんな絨毯爆撃を食らってるような状況で、まだこちらへの信頼を捨てておらず、話し合いの余地があると暗に告げていた。 

 一体こいつは、なんなのだ? そんな疑問が頭をよぎる。


 ただやっぱり、案の定と言うか……上流のガトー級がアタシらの仲間か何かに思われてるっぽい。


 まぁ、それも当然だろう……あの連中、見つかるのを承知の上で、ご丁寧に銀河連合軍の識別コードなんか垂れ流してやがる。

 

 ハッキリ言って、悪意しか感じない。

 潜行艦がわざわざ識別コードなんて、垂れ流したりなんかしないだろう……ふざけてるとしか言いようがない!


 これはあれか? 銀河連合を代表して、宣戦を布告するとでも言いたいってのか?

 

 既成事実を作って、後戻りが出来ない状況を作る……それにこっちも巻き込んでやれと……そんな意思が伝わってくるようだった。


 何のために? こんな真似をして、状況がややこしくなるだけじゃないか。


 ……なめんなっ! ああ、もう、面倒くさいっ!

 もうあったまに来たっ! ここは、問答無用で上流のガトー級を一掃する!


 ここは、それで決まりだ!

 

「佐竹提督……。いっそハーダー達に強制コマンドでも送れないかな? 目標、上流ガトー級! 奴らを殲滅せよって。もう、いいから、あいつらやっちまおう。こう言うややこしいときは状況をシンプルにするに限るでしょ」


 ぶっちゃけ、めんどくさいっ!

 何処のどいつか解らんけど、こんな無茶やらかすような奴らなんぞ、ぶっ殺して、始めからいなかったことにしてしまうに限る。


 案外、別口の特務艦隊かなにかなのかもしれないけど、プロパテールはこんな奴らの事触れてなかったし、急進派かなんかの仕業……そう考えるのが妥当。

 

 抗議の一つくらい来るかもしれないけど、一発だけなら誤射かもしれないという迷言だってある!


 奴らを全員皆殺しにしてしまえば、死人に口なしだ……向こうが撃ってきたから、反撃して沈めた、銀河連合軍だとは思っても居なかったとでも言い張れば済む。


 要らんことをする友軍ほど厄介なものはいない。

 ならば、いっそ消し飛ばす……なぁに、戦場じゃよくある話だ。


「……それもそうだな。少なくとも俺はあんな奴らは知らん。よし、グエン……千代田経由で、広範囲通信で指令を送らせてくれ……ハーダーとアルバコア宛に、プライマリーオーダーで即時攻撃指令を下す。目標上流ガトー級……あいつらはこれよりボギー……敵扱いでとっとと沈める! と言うか、あの連中……なんなんだ。おまけにやたらと数が多いが……グエン、こりゃ一体どう言う状況だと思う……? 中将様のお前ならなんか聞いてんじゃねぇのか?」


「知らねぇよ。俺に聞くな……中央軍のそれも潜行艦の第一人者のお前が知らないんじゃ、俺が知ってるわけ無いだろ。まぁ、確かにこんなややこしい状況、景気よくぶっ放してスッキリさせるに限る! 俺は遥ちゃんの意見を支持するぜ!」


 うん、佐竹提督とグエン提督からも賛同は取れた。

 

 まぁ、グエン提督ってこう言う人。

 ……陰謀とか策略とかめんどくさいから、まとめて吹っ飛ばせってそんな感じ。

 

 こう言う人達相手に、政治的な思惑だの、搦手とかってあんまり通用しない。

 面倒がなくて、大変よろしい。

 

「遥提督……後方のナイアー君から、該当艦のデータが送られてきました! あの艦……ガトー級シルバーサイズ……ロストナンバーズの可能性が濃厚です。攻性デコイとか言うのを使って、ハッタリ群狼戦術みたいなのを使ってくるとか……」


 天霧からの緊急報告。

 どうやら、気を利かせて、後方のナイアーくんに確認をとってくれたようだった。

 

 ガトー級、シルバーサイズ……なるほど、ロストナンバーズの生き残りか!

 天霧からのナイアーくん情報のデータを照合してみても、それは間違いなかった。

 

 なるほど、これで話が繋がった。

 要は、これは銀河連合艦隊を偽装したBDS残党の仕業ってことか。

 

 奴らとしては、斑鳩艦隊と銀河連合艦隊を衝突させて、共倒れとなれば、好都合……だからこそ、無言の休戦協定が成立していた斑鳩艦隊に、銀河連合艦隊を偽装した上で仕掛けた……そんなところだろう。

 

 もっとも、斑鳩艦隊の連中は思った以上に理性的だった。

 おまけに、アタシらは揃いも揃って、友軍だからって遠慮するような行儀のいい指揮官じゃなかった。


 こうなってしまえば、話はシンプルだった……単純にシルバーサイズを叩き潰すだけの話。


 何もかもが、奴らの計算違いってところだったのだろう。

 毎度毎度、考えが浅はかなんだっての。


 かくなる上は……容赦など無用!


 何もかも、景気よくぶっ飛ばせってね! 結局、これが一番正しかったってのは皮肉な話だった。


 なんか、アタシもグエン提督の影響受けてるっぽいなぁ……。


「千歳、千代田……制空戦闘機隊を現場上空に進出。その上で対潜哨戒機を出して、上流のガトー級を一掃してくれ。斑鳩の連中には、我々が責任を持って反乱分子を処理するので、この場は退くように打電しておいてくれ」


「了解、了解。んじゃま、グエン艦隊航空隊、進出しまーす! やっちゃえーっ!」


「こっちも、ハーダーとアルバコアの識別信号を確認したぞ。連中、派手に動き出したようだな……まったく、いい感じの場所に潜り込んで、機を狙っていた……なんだ、アイツらしっかり奴らを守るつもりでいたんだな。うんうん、日頃から色々仕込んどいた甲斐があったねぇ。あとで褒めてやらんとな」


 戦術マップ上では、ハーダーとアルバコア……斑鳩艦隊を追い越して、シルバーサイズとの間に割り込んでいる様子が映し出されていた。


 なんだそれ?

 誰にもさとられずに、そんなところにいるとか……。

 要するに、この展開を読んでて、斑鳩艦隊にすら察知されずに、絶妙な位置取りをしていた。

 ……そう言うことだった。


 どれだけ、良い勘してるんだ、あいつら?

 潜行艦ってのが単独行動も多いし、指揮官に指示を仰げない状況も珍しくない。

 そう言う状況で、戦略的に考えて、最適行動を取れる。

 

 ……やはり、潜行艦の頭脳体ってのは侮れないな。

 年中、常夏気分のイロモノとか思ってたけど、ごめん……取り消す。


 続いて、ハーダー、アルバコアの両艦から、雷撃が開始される。

 

 行動方針さえ、伝われば連中は迷わない。

 オートマチックで最適な戦術で最適な行動を取る……まさにプロの仕事だ。


 飽和雷撃の群れの中で、ハーダー達の放った数発の魚雷が起爆。

 一撃で、シルバーサイズのはなった魚雷の群れに、大穴が開くのが解る。

 

「……なんだか、とんでもない威力の雷撃みたいだけど。ハーダー達はどれだけ強力なのを撃ったんだい?」


「恐らく重圧弾ハイプレッシャーではないかと。重衝撃波で広範囲を巻き込むタイプの魚雷で、流体面上の艦艇には直撃でも無い限りさしたる効果はないですが、あの手の魚雷や小型潜行艦には、極めて効果的……ほぼ一撃で探知システムか推進系が破損……事実上無力化されます。どちらかと言うと防御兵器の一種と言えますね」


 アタシの質問に、蛍が答えてくれる。

 なるほど、シューティングゲームで言うところの弾消し範囲ボムみたいなものか。

 

 そうなると、百発単位の飽和雷撃でもハーダー達には、さしたる脅威でも無かったということか。

 身内で延々実戦想定訓練やら装備開発を進めていたそうだけど、面白いものを用意しているものだと感心する。

 

 けれど、この状況に敵も本気を出したようで、新手が更に追加される。

 二隻、四隻……全部で、十隻にも膨れ上がっている。

 

 けれど、何もしないのに一隻反応消失……。

 なるほど、短時間で自滅同然に消滅する……攻撃力を持ったよく出来たデコイってところか。


 ソナーによる音波探知では、本物とデコイの区別が全くつかない。


 動きのパターンとか、攻撃パターンで識別するしか無い……まともに戦ったら厄介な相手だ。


 シルバーサイズ……有象無象と考えていたけれど、意外と面白い艦だった。

 こんなのが居たなら、潜行艦を交えた様々な戦術が使えただろうに……。

 

 けど、カイオスには過ぎたおもちゃだった。

 悪いが、すでに過去形で語らせてもらう。

 

 更に、デコイが二隻、三隻とまとめて消える。

 飽和雷撃に隙ができたことで、斑鳩の二隻の本格的な反撃が始まったようだった。

 

 斑鳩の二隻も、本格的に反撃するかどうか、今の今まで迷っていたようだったのだけど、ハーダー達の動きを見て、暫定的に味方と判断したようだった。


 しかし、あの距離で砲撃で潜行艦を沈めるとは……どうも見た感じ、こちらでも採用されている初霜由来の対潜スピアー砲弾のように見える。 


 100kmは優に離れているのに、無造作に当ててる辺り、対潜センシティブ能力も相当高いようだ。


 装備系統も初霜の持つ装備と同じ系統……まったく、敵に回さなくて正解だ。

 真面目な話、あのアマゾンあたりなら初霜とすら互角に戦えるのかもしれない。


 もっとも、ハーダーとアルバコアは、そんなアマゾンにすら、気付かれることもなく真下を通過したって事でもあるのだけど……。


 そんな至近距離に近付いて何もせず、むしろ飽和雷撃の盾になるとか、まさに行動で味方だと示した……そんな感じだったのかもしれない。

 

 戦場では、百の言葉より一発の支援射撃の方が遥かに雄弁……そんなもんだ。

 ハーダーとアルバコア、伊達にダブルエースとか言われてないな。


 これは、なかなかどうして、悪くない流れだった。

 

「千代田……斑鳩艦隊との通信回線は接続できそうかい? レーザー通信なり、短距離電波通信とか、何とかならないかな? 向こうとせめて情報共有くらいはしないと、落ち着かない」


「あのですね……むしろアマゾンから回線接続要請が来てますよ。これは銀河連合標準プロトコルのようですね。えっと、誰に繋ぎましょうか?」


 ちらっとグエン提督と佐竹提督に視線を送ると、二人共揃って笑顔でどーぞ、どーぞみたいな仕草をしてる。

 このオヤジども……仮にもファーストコンタクトだってのに、結局、人に丸投げかよ!

 

「どうやら、アタシが交渉役としては適任みたいだ。……しょうがない、アタシが話してみるよ」


 ……斑鳩艦隊のアマゾン。

 果たして、どんなヤツなんだか。

 

「……御機嫌よう。銀河連合艦隊の皆様。お初にお目にかかります」


 小さな迷彩柄の服の黄色いショートカットの女の子が、そう言っておしゃまな感じでスカートをつまみ上げながら、丁寧にお辞儀をする。

 

 てっきり百戦錬磨の武人然としたのが出てくると思ったのだけど。

 なんと言うか……予想の正反対と言える、ほわほわとした雰囲気の癒やし系ロリが出てきた。


 背とかめちゃめちゃ小さい……これじゃ、小学生低学年とかそんなだろ。

 むしろ、母性本能みたいなのを刺激されて、可愛いーなんて黄色い嬌声が漏れそうになってしまう。


「か、かわ……じゃなくて……。わ、私は、銀河連合特務艦隊「裏門集」司令の天風遥特務一等武官……まぁ、大佐相当だと思ってほしい! は、始めまして……ブリタニアの諸君!」


 流石に上ずった声が出てしまって、相手はキョトンとしながら、自分を指さしている。

 諸君って言ってるけど、相手は一人だ……もういきなりグダった。


 確かに駆逐艦の頭脳体は、小中学生程度のまさにロリって感じの奴らなのは知ってるんだが……。

 こんなところまで、一緒とは……ああ、もう。


 ……こんなもん、一発で戦意とかくじけるよ。

 なんかもう、戦争とかバカバカしくなってきた……。

アマゾンたん、この子のキャラクターを一言で言うと、ぐう聖。

理由はそのうちお察し。

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