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第十四話「乱戦」③

「ご期待いただいてる所、悪いけど、人類製のエーテル潜行艦との戦いなんて、アタシも未経験なんだよ。いっそ、20世紀やら21世紀の潜水艦戦の記録でも参考にしたほうが良いかも知れないね」


 最後の潜水艦同士の戦い……第三次世界大戦の最終局面、USN戦略原潜コンラート(ファイブ)追撃戦。

 日本国国防海軍所属の特務潜水艦「剣193」と、統合軍に不法占拠された戦略原潜の戦いが、アタシの知る限りでは、潜行艦最後の戦いだった。


 戦略核攻撃を意図するコンラートⅤと剣193の追撃戦は、コンラートⅤ爆沈で終わってるのだけど、世界の主要都市、20箇所くらいが灰燼と帰す一歩手前というロクでもない状況にまで追い込まれていた。


 剣193の艦長、草馬少佐は個人的にも知り合いだったけど、彼と剣193の乗員は、人類を救った英雄と言えた。


 少佐以下48名の乗員は、コンラートⅤ共々日本海溝へと沈んでいったのだけど、彼らの名が歴史データベースに記されていないのは、嘆かわしい話だった。

 

 それを最後に、潜水艦の戦いなんてのは起きていない。

 戦う相手が居なくなったから。

 

 とにかく、過去の事例となると、そんな調子で、エーテル空間潜行艦同士の戦いともなると、完全に未知数だった。

 

「確かに、我々も身内での演習でしか、人類艦戦闘を経験していませんからね。もっとも、演習と言えど我々はお互い手を抜くこともなく、実戦を想定した訓練を積んできましたから、為す術無く負ける……ということもありえません」


 確かに、彼女達はかなり早い段階から、実戦想定で数多くの演習を重ね、装備や戦術を研究してきたようだった。


 それこそ、セカンドの桜蘭との接触以前から、そんな事をやっていたと言うから、驚くほかなかった。


「まぁ、本格的な戦闘は後続を待ってから仕掛けるのが正しいね。ハーダーとアルバコアとの連絡は? あの二人と連絡取れるのが一番早いんだけど」


「二人との連絡は、現在どちらもクローズドモードにつき、連絡途絶です。隠密潜行中なので、致し方ないでしょう」


 潜行艦戦の難点はコレ。

 隠密戦闘中は、事実上共鳴通信が使えない。

 

 だからこそ、味方同士の連携ってのが難しい。

 

 流体面上の艦艇と連携し、艦艇側から指示してもらうってのが早そうなんだけど。

 

 現状、流体面上は津波の影響で、大荒れ……海で言うところの大シケみたいな状態。

 高速航行は、さすがに無謀の一言に尽きる。

 グエン提督たちも、懸命に追いすがろうとしてはいるようだけど、どんどん遅れていっているようだった。


 幸い後続の潜行艦隊群は、そこまで遅れてはいないのだけど、キャビテーションオーバードライブの実装が間に合ったのは、伊201と伊10のみ。

 

 戦力的には、心もとない。

 ただ、この伊201とアタシの組み合わせ……これが思った以上にベストマッチングだった。

 

 実際に、潜行艦乗って初めて知った事実。

 アタシの持つ空間識別感覚……潜行艦乗ってても使えた。

 

 潜行艦って音波探知が基本なのに、敵の気配でその居場所が解るとか、ぶっちゃけチート。

 艦とのリンクシステムで感覚増強した上であれば、文字通り手に取るように解るのだから、なかなかどうして使える代物だった。


「空間識別感覚……噂には聞いた事があったんだが、まさか実物にお目にかかれるとはな。本来普通の人間には備わってない鳥とかが持ってるような感覚らしいな。ほんの数回の演習戦闘データしか取れなかったけど、それだけで如何にチートじみたものかよく解るよ」


「そうだねぇ……。エーテル流体面下なんて、視界はゼロ。音波観測と電波観測くらいしかまともな探知手段もない。それが常識なんだけど、感覚的に魚雷やら爆雷の位置が解る上に、潜行艦の気配すら解る。空中戦でも、元々死角なしってくらいの代物だったけど、潜行艦戦じゃもう反則だね」


「……真後ろですら、死角にならない上に無音潜行状態ですら看破されると言うのは、我々からすると恐ろしいほどの脅威ですね……。我々には、遥提督の空間識別感覚と言うのは良く解らない……それは、遥提督の固有能力のようなものなのですか?」


「いや……どっちかと言うと、実戦を重ねた人間特有の戦場の勘みたいなもんだと思う。実際、この世界にも何人か同じような超感覚持ちがいるみたいだしね……そんなに、珍しい能力って訳でも無いと思う」


「……この世界の人間に、そんな超感覚持ちがゴロゴロいるってのか? 信じられねぇ話だな」


「まぁ、確証はないんだけどね。少なくともエスクロン子飼のテストパイロットは、アタシと同じ空間識別能力持ちだと思うよ。もっとも、これがあっても、艦対艦戦闘ともなると、頭脳体には及ばない。実際、VRでの模擬戦じゃ蛍には全然刃が立たなかったよ。伊10との演習で全勝したのは、蛍とアタシの相性の良さと超感覚者相手のノウハウ不足が原因だろうね」


 残念ながら、そんなチート能力持ってても、頭脳体相手だと勝ち目はほぼ無いってのが実証されている。

 

 反応速度、同時演算能力、操艦技量……その辺はまったくもって勝負にならない。

 結局、自分の体同然に操艦出来る上に、疲れ知らずの連中相手じゃ、人間様なんてお呼びじゃない。

 

 如何に、何の手がかりもなく敵を捉えることが出来ても、力技で圧倒される。

 その程度には、能力に差があるのだから、仕方がない。


 もっとも、同時に頭脳体の補助として、人間が付くことで、その戦闘力を倍加させる可能性があると言うのも事実だと示せたんだけど……。


 この事実が広まったら、この世界の住民たちのこの戦争への動員って話も現実味を帯びてくる。


 実際問題、この世界のゲーマー連中だって、相当なレベルのがゴロゴロしてる。

 例のライバル格……ユーリィなんて、別格もいるけど、他のプレイヤー達も最近は色々研究しているようで、前みたいに常勝無敗って訳にはいかなくなってる。

 

 勝率で言うともはや、五割を切りつつあるのが実情……。

 所詮は数百年前のロートル古参兵に過ぎないって事だった。


「VRゲームねぇ……おじさんにゃ、良く解らん世界じゃあるな。どうなんだ、静丸? お前らもよくVR演習とかやってるけど、あれってそこまで実戦に近いものなのか?」


「実際、良く出来てますよ。中央艦隊の他の艦隊でも、VR演習が出来るからこそ、練度の維持ができてるって言ってますから。戦闘シミュレーションゲームと言っても、VR演習シミュレーターを簡略化して、民生用に仕立て上げた代物なので、再現度はかなり高いはずです」


「なるほどねぇ……。そうなると日頃から戦闘シミュレーターをやってるようなもんなのか。まったく、自ら銃を取る覚悟とは、頭が下がる思いだ」


「いえいえ、実際は単なる趣味ですから。けど、戦場で相対ししたくないようなのもチラホラいますからね。民間人のゲーマーだからって馬鹿に出来たもんじゃないですよ」


「俺もこの世界の連中の平和ボケっぷりには呆れてたけど、意外とそうでもないんだな……」


「そうですね。何だかんだで人口が尋常じゃないから、優れた戦闘適正を持った連中ってのは確実に存在しますね。あの連中が戦場に出て来たらって思わなくもないですが。このエーテル空間の戦闘は生身の人間が戦うには、あまりにも過酷。我々としては、そんな日が来ないようにしなければなりませんね」


 自らが示した可能性とは言え、この世界の人間をこのエーテルの海へと動員するなんてのは、気が引けた。

 戦えば、確実に人が死ぬ。

 人の死なないVRの戦場とはワケが違うのだ。


 あたしら、再現体が死ぬのは構わない。

 死者が死者に還るだけの話なのだから。


「確かにな。俺達は、この人類世界の要……エーテルロードの守護者。俺達が戦わねぇでどうするって話だよな。しかし、実際問題、なかなかどうして、状況が判然としないな。静丸……ハーダーとアルバコアは無事なんだろうな?」


「あの二人がそう簡単に沈められるとお思いですか? 沈んだなら、そうと解ると思うんですが、それもない。となると、現状維持に努めているかと思われます」


「相手のガトー級について、君らも心当たりはないんだね?」


 ここは、確認すべきだった。

 データベースを確認した限りだと、この第9艦隊は、数ある潜行艦を取り仕切ってる知られざる一大勢力。

 

 正体不明のガトー級についても、何らかの情報があるかもしれない。

 

「そうですね……。銀河連合の正式部隊で、潜行艦の集中運用を行っているのは、我々第9艦隊くらいのはずなんですよ。他にも流体面下の警戒艦隊として、辺境艦隊にも900番台のうちの分艦隊扱いの艦隊はいますが、いずれも所在は確認出来ており、今回の件に関係はしていません」


「となると、やはりあのガトー級はセカンド……ブリタニア艦の可能性が高いね。確かにそれだと、色々と辻褄も合うんだよな……」


 ブリタニアのRN系とUSA系の反目。

 

 両者はすでに交戦状態の可能性が高い……アタシの推測どおりだとすれば、斑鳩艦隊は確実にブリタニアの内乱に巻き込まれている。

 

 そうなると、この戦いはブリタニア同士の戦いがこちらの世界に波及した争い。

 その線が一番濃厚だった。

 

「なんともはた迷惑な話だな……おい。俺達としちゃ、いっそまとめてお引取り願いたいところだな」


「確かにそうですね。ただ、我々としても好きにやらせるわけにはいけませんからね。何より、ハーダーとアルバコアを見捨てる訳には行きません」

 

 この分だと、ハーダーとアルバコアは完全に奴らと同一視されていると見ていいだろう。

 その上、撤退を指示しようにも、二人とは連絡途絶状態にあった。

 

 どうやら、核兵器を使ったようなのだけど、その影響で中継プローブ網が壊滅してしまい、結果的に完全に情報空白地帯が出来てしまっていた……。

 

 頭脳体共鳴通信を使えば、通信できると思われたのだけど、その手段は現在使えない。

 頭脳体共鳴通信にも欠点はあって、同じ頭脳体同士であれば、通信内容はともかく、至近距離だと通信してることが何となく分かるらしい。

 

 あくまで理論上と言うことながら、潜行中の共鳴通信は潜行艦の現在位置と言う致命的な情報が漏れる可能性があり、ハーダーとアルバコアの置かれている状況から、呼びかけは危険。

 

 向こうも、その事実は周知の事なので、隠密行動中である以上、意図的に控えている……そう判断されていた。

 

 いずれにせよ、ブリタニア系の艦が出てきてるとなると。

 情報がないぶん、こちらは不利だった。

 

 あまり考えたくはないのだけど、例によってあのカイオスが絡んでいる可能性も否定できなかった。

 

 なお、後続の随伴艦は二隻の伊400、攻撃型潜行艦のHMSヴェンチャラー。

 

 二隻の伊400は今更言うまでもないのだけど、ヴェンチャラーは、第二次世界大戦中、潜水艦で潜水艦を直接撃破した三次元雷撃戦術を確立し、その後の対潜水艦戦闘に多大な影響を与えたという逸話のある艦。

 

 第九の三羽ガラスとも言われるエース格の一角……無口で物静かな頭脳体ながら、相当な強者。

 

 それに加え、後方支援艦として、フランス製機雷敷設潜行艦のサフィールとノーチラス。

 同じく機雷敷設潜行艦のアルゴノートも同行している。

 

 第二次世界大戦中では、この手の機雷敷設艦なんてのは、早々に廃れてしまったのだけど。

 第九艦隊では、戦場形成や超長距離攻撃や、補給艦として……そのような目的で、基本的に攻撃型潜行艦とセットにして運用しているようだった。

 

 それに加え、高速偵察潜行艦の伊201と旗艦の伊10。

 都合、8隻……第九潜行艦隊は、他にもいるんだけど、ひとまず動員できたのは、花鳥風月にいたこのメンツだった。

 

 天霧達とグエン艦隊も後続しているのだけど、今回は第九艦隊が矢面に立つことになる。

 この編成は、斑鳩艦隊を相手取る事を想定した編成だった。

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