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第十四話「乱戦」①

 佐竹提督との通信から、半日ほど経っていた。

 

 アタシは第九艦隊所属艦、伊201に乗艦し、問題の流域へと向かっていた。

 恐ろしく狭い操艦ブリッジのコマンダーシートは限りなく戦闘機のコクピットのよう。

 

 伊201頭脳体の「蛍」とは、知り合って間もないのだけど、臨時の相方となっている……まぁ、命を預ける相手としては、あまりに気心も知れていないのだけど。

 

 共に戦う以上、アタシも覚悟は決めている。

 

「……了解、天風遥提督を本艦の臨時艦長として、承認します。艦長、最終警告……本艦は、最も危険な先行偵察を主任務とする艦です。撃沈可能性は常にあるとお考え下さい。今ならば後続を待った上でのランデブーも可能です」


 前方の操艦シートに座る頭脳体「蛍」が淡々と告げる。

 艦長とはまた……どうやら佐竹提督の気遣いらしい。

 

「……一応、蛍には遥ちゃんを艦長承認させたから、現状、伊201は完全に君の指揮下って事にはなる。だが、何も好き好んで最前線の最先鋒艦なんぞに、乗る事はないだろう。一度、浮上した上でこっちの伊10に乗り換えることを勧めるぞ?」

 

 モニターに映る臨時艦隊司令官たる佐竹提督の表情は、余裕がまったくない。

 

 なんでこんな状況になったのか?

 端的に言うと、高速潜行艦伊201にテスト実装した流体面下での三次元高機動航行システムのテスト中に、緊急出撃ってなったから。

 

「そ、そうです! 提督、そんなにそのダウナー系ロリっ娘が気に入ったんですか! 私、要らない女って事で捨てられたんですか! 私のところに戻ってきてくださいよぉっ! 私、提督が居ないと……夜も眠れないんですよっ!」


 対して、天霧は……平常運転。

 ハンカチを咥えて、引き裂かんばかりになってるのは、多分ギャグでやってるんだと思う。

 

 ちなみに、伊201の頭脳体「蛍」は一言で言うと、喪服みたいな黒い和服着た黒髪ロリ。

 

 ちんまりとしてるんだけど、本人曰く省スペース仕様らしい。

 愛想は悪いけど、仕事は出来る……別に文句はない。

 

「天霧、お前はちょっとだまってろ! と言うか、佐竹提督……乗り換えとかそんな悠長な事やってる場合じゃないでしょ! 蛍、気にしなくていい……ここは、最大戦速で現場へ急行して欲しい。嫌な予感がしてならないんだ」

 

 実際問題、浮上してアタシを乗せ換え……なんてやってたら、それだけで30分位は時間を浪費する。

 この感じ……かなり状況は切迫している。

 

 駆逐艦より足が速い伊201に便乗するってのが、一番早い。

 

「任務了解……佐竹提督、本艦は最大船速で現地へ向かいます。静音モード解除、キャビテーションロケット推進機関始動……本艦先行します。オーバー」


 ゴバゴバと言う発泡音、キーンと言う高周波音と続き、シートに押し付けられるような加速度が加わる。

 潜行艦としては、非常識なほどの高速、100相対ノット近い速度で動き始める。

 

 流体面下潜行艦独特のゆらぎが感じられる。

 

 ふわりふわりと重力と浮遊感の入り混じった奇妙な感覚。

 

 まるで、星の世界の船に乗ったときのようだった。


 まぁ、実際かつては亜宇宙と呼ばれる領域でも、敵とやりあってたから、むしろ、この感触は懐かしくもある。 

 

 ……第九潜行艦隊、支援ドッグ艦「花鳥風月」と合流してからしばらくは、至って気楽だった。

 

 ハーダー達の連絡によると、斑鳩艦隊も偵察艦らしき駆逐艦がゲート付近に張り付いているだけで、まったく動きも見せなかった。

 

 おまけに、この件に関しては、銀河連合の統括超AIのひとつ「プロパテール」なんてのが出張ってきて、斑鳩のアマゾン宛に不可侵条約の提案を行ったとの宣告があった。

 

 ……「調停者アビトレイター」とも言う、銀河連合の影に潜む超AI。

 言ってみれば、天照の遠い子孫達。

 

 これが直接、意思を示すのは、極めてレアだと言う話だったのだけど。

 

 その存在は、銀河連合の調停者とも言うべきもので、政治中枢とも言える惑星評議会の影に潜んで、議会に問題解決の提案を行ったり、色々な形で介入しバランスを取ってくれる……そんな存在として知られていた。

 

 彼女達は強制もしなければ、命令もしない。

 あくまで提案と言う形で、人に干渉してくる。


 その姿勢は徹底しており、その存在は銀河連合の要職に付く者しか知られていないのだけど。

 ごく普通の一般人達がネット上で、政治議論をしていたりすると、ひょっこり紛れ込んできたり、特定の人物に有形無形の援助を人知れず行ったり、妙に腰の軽いところもあった。

 

 そして、思い出したように、要所要所へメッセージを送って来て、人の了解を取り付けると、準備万端と言った様子で、最善の対応を実施する。

 

 その手際は毎度毎度、見事なもので……概ね、こいつらが出て来たら、ややこしい事になってても、解決の方向へと向かう……そんな風にも言われていた。

 

 実際問題、エーテル空間に黒船が出てきた時も、当初は為す術無かったのだけど。

「調停者」達の本格介入をきっかけに、旧時代の戦闘艦の再現……実戦投入、ロストテクノロジーだった「再現体」の技術提供とトントン拍子に話が進んで、今の体制が構築できた……そんな話も聞いていた。


 つまり、あたしらをこの世界に招いた張本人と言ってもいい存在だった。

 

 そして、再び訪れたこのややこしい混迷の中、連中は介入してきた。

 もっと早く動けと思わなくはなかったけれど、彼女達は基本的に表立って動くことを嫌う。

 

 あくまで、人を主体とし、人に提案し、決断をさせる。

 決して、表に出て来て、人を導いたりはしない……危機的状況になってから、水面下で動き出し、万端の準備を整えて、その時点で始めて接触し、提案を持ってくる。

 

 この辺りの消極性と回りくどさは、あの天照達と何ら変わってなかった。

 時代や世代は随分と跨いでいるみたいだけど……良くも悪くも天照達の後継者……としか言いようがなかった。

 

 とにかく……銀河連合としての斑鳩艦隊への対応は、穏当路線で行くと言うのが各方面の総意。

 

 おまけに、半ば公認のような形で、アタシや佐竹提督がその対応に当たることになってしまった。

 

 とは言っても、現場流域については、緩衝流域とし、シュバルツも斑鳩も積極的に刺激はせずに、基本的に放置。

 向こうの出方待ちと言う消極策となったのだけど……。

 

 まぁ、これはこれで正解と言える。

 

 評議会や民間なんかでは、シュヴァルツへ逆進出して、向こう側へ足がかりを確保し、侵略行為を牽制する……なんて意見や、ゲートを破壊して異世界人達の進出の足がかりを徹底して消失させるべし……なんて話もあるのだけど。


 その辺は置いといて……。

 佐竹提督や、楼蘭の窓口担当となりつつある永友提督とも協議の上で、こちらとしては、問題の流域から数百キロ離れた位置に封鎖線を引き、監視体制を整えると言うことにした。


 まぁ、消極策ではあるのだけど……向こうが積極的に出て来ない以上、こちらも合わせる事で非戦の意思を示せるだろうと判断されたのと、敵に回すにはあまりに強大である事……コレに尽きる。

 

 元々は、問題の流域も物流の要ではあったのだけど、そんなややこしい流域に民間船が入り込むとか勘弁してくれと、プロパテールに提案したら、そう来ると読んでたみたいで、随分前からパイパスルートを制定し、立入禁止流域としてくれていた……なんと言うか、抜かりがない。

 

 まぁ、シュバルツの出先機関みたいなクリーヴァ社のエーテルロードの不法占有問題とかは、相変わらずではあるんだけど……。

 そこら辺は、真っ向からバチバチやりあってたエスクロンを中心とする有志星間国家連合が対応してるらしいので、その辺は丸投げ。

 

 どっちみち、セカンドの急先鋒過激派だったシュバルツが、そのエーテル空間戦力をごっそり失った以上、争いの主軸は通常宇宙の勢力争いに移ってる。

 

 エスクロンあたりになると、自前のエーテル空間強襲艦やら、子飼のエーテル空間戦闘艦隊とかも動員できるし、地上戦力とかも持ってるから、銀河連合上層部からの圧力や物理的な邪魔者が消えた以上、力づくでケリ付けるとばかりに、勝手にやりあってるらしかった。

 

 銀河連合軍は、星間国家紛争に肩入れをしてはならないと言う建前もあるから、その辺はあたしらはノータッチ。

 

 あたしらなんかも、技術開発協力やら兵器の実戦テストなんかでしっかり肩入れしてるけど……。

 天霧達、エーテル空間戦闘艦は、通常宇宙やら惑星上戦闘じゃ、何も出来ないので、介入のしようがない。

 

 ……そこまでは順調。

 これで少しは楽ができる……そんな風に思ってもいた。

 

 けれど、ハーダーとアルバコアからの緊急入電。

 それは、問題の流域での超空間ゲート発生の報だった。

 

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