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第十三話「斑鳩の騎士」③

 いずれにせよ、僕の任務は単純明快。

 

 ゲートの突破は許容できないし、破壊活動を仕掛けてくるなら阻止する。

 そして、由良には指一本触れさせない。

 

 敵は精鋭潜行艦隊……戦いになったら、相当な苦戦が予想される。

 なかなかに、ハードな状況だけど、その程度はこなせして見せないとブラックウォッチの精鋭の名が泣く。

 

 戦況マップを注視する。

 

 下流方面に設置したソノブイに感あり……下流側の一艦が何かを射出する準備を始めたらしい。

 魚雷ハッチ解放……攻撃予備行動に属する動きだった。

 

「……注水音確認。何かを射出しようとしている……攻撃準備態勢に入った?」


 言ってみれば、これは銃を構えるようなもの。

 向こうもこちらに勘付かれたと判断して、臨戦態勢に入ったのだろう。

 

 こちらはすでに戦闘体制なのだから、そこは同様。

 いつでも撃てる……けれど、ここで早まって戦端を開く訳にはいかない。


「雷撃か? 随分距離があるようだが……」


「即座に反撃できるように……そんなところでしょう。かなり戦い慣れているようですね……遡上状態にもかかわらず、ほぼ無音で定位……これは相当練度が高い。一応、迎撃可能範囲には入っていますが……如何致しますか?」


 向こうも射程外で、攻撃準備態勢に入るほどマヌケじゃないだろう。

 向こうとの距離は、軽く200km? 超射程タイプの魚雷……向こうの潜行艦の情報もないから、詳細不明。


 これはもう、双方銃口を突き付けあっているようなもの。


 向こうは、どうなのだろう? こちらもアクティブソナーを定期的に飛ばして、向こうを探っている以上、相当な緊張を強いられているはず。

 

 こんな膠着状態……いつまでも続けられるものではない。

 向こうの不可侵提案からすると、退いてくれる……そう思いたいのだけど……。


「上流側の艦にも動きあり……? いつの間にかもう二隻……三隻もいます。うそっ! ……こ、こっちに一斉に撃って来ました!」


 由良の方がセンサー系は強力なだけに、こちらより早く察したらしい。

 

 けれど、その報告は信じがたいものだった。

 

 情報同期……戦術マップには、いつの間にか光点が三つに増えていた。

 一隻だけ、目立たせた上で、他の二隻は隠れていた? しかもいきなり撃ってきただって?

 

「由良っ! アマゾンっ! 急速浮上、機関全速の上で、直ちに迎撃行動に移れっ!」


 ……さすが、判断が早い。

 潜行状態では、まともな回避機動も迎撃も出来ない……。

 

 撃ってきたって事は、こちらの居場所もとっくにバレてる……もはや、潜行してる意味もなかった。

 浮上後、戦闘態勢への移行に三分ほどかかるけれど、それは何とかなりそうだった。

 

 それにしても、上流のガトー級、問答無用で仕掛けてくるとはまた……。

 

 緊張に耐えられなかったか?

 いや、二隻を伏兵としていて、一斉射を仕掛けたとなると、向こうは始めからやる気だったって事だろう。

 下流側のは囮? いや、上流側に注意を引き付けた上で奇襲狙い?

 

 都合12本の魚雷がこちらに向けて、接近中。

 

 セカンドの連中は、紳士的かと思ってたけど、そうでもないようだった。

 

 もっとも、向こうとの相対距離は50kmほどあって、弾着までは軽く20分はかかる……流体面下の戦闘ってのは、空の戦いやレールガン戦闘と違って、もっさりしてる。

 

 慌てる必要はないが、一手一手堅実に潰していかないと、確実に詰む。

 実質単艦での迎撃となると、なかなか厳しい。

 

「上流側の潜行艦群……一斉にアクティブソナーを放ちました……。自分から居場所をバラすなんて……これはまさか宣戦信号? どう言うこと、こんな好戦的だなんて聞いてないですよ! 上流側のガトー級……平文のモールス信号にて「敵艦隊ヲ殲滅スル」を繰り返し打電しています!」


 由良が慌てた感じで報告してくる……宣戦信号とか、随分ご丁寧なことを。


 潜行艦が居場所を晒した上での攻撃行動。

 こちらにも解るようにしたつもりなのか、モールス平文での戦闘開始宣言。

 

 間違いや牽制などではなく、明確な宣戦布告と言って良い。


 要するに、これは確信犯……向こうは、一戦交える気満々ってことだった。


 TV放送なんかを見ている分には、この世界の人々は平和的なように見えたのだけど、結局僕らは未知の異星人と同様だと言う事らしかった。

 

 まぁ、それは致し方ない。

 僕も話し合いだけで、戦いが回避できるとは思ってない。

 

 五分の立場で交渉するには、やはりある程度戦って、実力を示し、お互い血を流さないといけない。

 

 もう少し穏便に行くかと思っていたけど、現実はこんなものだ。


「いくらなんでも、性急すぎやしねぇか? こっちの情報はある程度、向こうも分析してると思うんだがな……」


「そうですね……こっちの数が少ないから勝算ありとでも思われたのかも知れませんね。要するに実力を図るには手頃な相手だと思われたのか。随分舐められたものですけどね」


「セカンドの奴らを刺激しないように、こちらに配置する戦力を控えめにしたのが裏目に出たか……。とにかく、雷撃防御! ただし、反撃は極力控えろ……こっちが本格的にやり返したら、それこそ泥沼だ!」


 なんとも難しい状況だった。

 相手もこっちやシュバルツのゲートを把握しておきながら、逆侵攻どころか、威力偵察行動すら行おうとしない程度には、慎重だった。

 

 非公式とは言え、向こう側のAI群は不可侵宣言までしていたのに、この攻撃……いったい、どう言うことなんだろう?


 ここに来て、唐突にやる気満々で仕掛けてくるなんて……。

 どうも、相手の意志というものが見えてこない……。

 

「セカンドも一枚岩じゃないって事だね……。ひとまず、僕が前に出ます! 由良は下がって……個艦防衛に専念して下さい!」


 要は、複数の意思で動いている……穏健派もいれば、急進派、過激派もいる。

 仕掛けてきたのは、セカンドの過激派の意向を受けた艦隊……そう言うことなのかもしれない。

 

 なんと言っても、敵艦の攻撃は威嚇でも何でもない……本気でこっちを殲滅する構えだった。


 誘導魚雷らしく、一斉にこちらへ向きを変えつつある。

 

 しかも、撃ってきたのは多弾頭魚雷……たちまち、12発の魚雷群は10倍、120発ほどの小型魚雷となって、襲いかかってきた。


「……こんな飽和攻撃……本気で仕留める気かい? 上等だっ!」


 すかさず、由良の盾となる位置へ移動。

 周回機動を取りつつ、最適効率による迎撃プラン制定……対潜砲弾や対抗雷撃で第一次迎撃を開始!

 

 斑鳩の技術陣による改装により、各種装備の精度、性能あらゆる面が向上している。

 しばしの時間を置いて、流体面下では激しい爆発が連鎖する。

 

 第一波は30kmラインにて、全て迎撃成功。

 この程度の攻撃……なんとでもなりそうだった。

 

 ……けれども、第二、第三波と次々雷撃が続く。

 とにかく数が多いから、こちらも相応の火力集中で対応。

 

 多弾頭魚雷とはまた……殺る気に満ち溢れてるな。


 一発一発は、さしたる威力もないけれど、駆逐艦や軽巡にとっては、その一発ですら十分脅威。


 潜行艦の天敵……駆逐艦や軽巡への対策として、最適な兵装を選んできたと言えよう。

 

 もっとも、多弾頭魚雷と言っても、速度は遅い。

 レスポンスタイムは十分取れる以上、展開前に可能な限り、落とすことで対応は可能だ。


 これが航空攻撃やレールガン艦砲との組み合わせとなると厄介かもしれないが、こんな数だけの雷撃などどうとでもなる。

 

 第二波は展開前に対潜砲撃で過半数を撃破……残りはオートマチック機銃などでも対応可能。

 回避アルゴリズムも単調だし、誘導性能も甘いようで、当たる可能性のあるものだけ、叩けば対応は可能……。

 

 第三波も対抗雷撃で相当数を撃破。

 今の所、対処は出来ている。

 

 けど、これが続くとキツい……。

 敵艦への反撃を封じられたままだと、そう長くは持たない。


 とは言え、反撃するかどうかは、佐神大佐の判断次第。


 ……どう判断する?

 

「由良、構わん! 上流のガトー級へ対潜砲撃を実施せよっ! 一方的に黙って撃たれてやる道理はない! 下流側のガトー級へも牽制砲撃を実施! 敵の包囲網が組み上げられるのを待ってやる必要なんぞねぇっ!」


「は、反撃するのですか? りょ、了解です……。あ、あの下流のガトー級もですか?」


「奴らはまだこちらに手出しはして来ていないが、奴らにもあの勢いで撃たれたら、さすがに凌げねぇ。こう言うときは、殺られる前に殺る! 迷ってると全滅するぞ? 撃ってから、宣戦布告とかふざけたマネしやがって……下手に手出しするとどうなるか、思い知らせてやれ!」


 佐神大佐の判断は、容赦なく周辺敵性艦を殲滅する……そう言う判断だった。


 概ね正しい判断だと言える……僕にも異論はなかった。

 

 そうなると、アタッカーは由良。

 ディフェンスは僕がって事だ……元々、僕はこの手の防衛戦闘の方が得意だ。


 由良と戦術リンクは確立済み……これなら、なんとでもなる。


 戦闘続行……願わくば、これが更なる混沌の入り口でないことを祈るのみだった。

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