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第十三話「斑鳩の騎士」②

 またしても、ゲートの出現位置が流体面下にズレたみたいだけど、すでに全艦艇が流体面下潜行を可能としているので、あまり問題にならない。

 

 さすがに、専門の潜行艦ほどではなく、短時間しか潜行出来ない上に、使用可能兵装も大幅に制限されるのだけど、被発見率は劇的に下がる上に、潜行状態の艦艇への攻撃手段はかなり限定されるので、僕も可能な限り潜行するようにしていた。

 

 と言うか、この潜行隠蔽は元々、僕が持っていた技術ではある。

 もっとも、それは艦体を沈めるだけがやっとで、沈没しているように見せかける死んだふり……程度のものだったのだけど。

 斑鳩の技術陣は、それを進化させ、長時間の潜行や10m程度ながら、完全な潜行状態とすることに成功していた。

 おまけに、いとも簡単に全艦に応用してしまったのだから、大したものだった。

 

「……アマゾン、すまんな。長々と残置斥候なんぞさせちまって……。どうだ、さすがに疲れただろう? 一度、戻ってゆっくり休んで来い。アカスタ達も心配してたぞ」


 由良より、入電……佐神大佐だった。

 事実上の最前線司令官、斑鳩艦隊のナンバー2。

 

 ……豪放磊落を絵に描いたような気さくな人物で、僕ら相手でもまるで人間の子供でも相手にするかのように振る舞う。

 変わり者じゃあるんだけど……とても嫌いにはなれない。

 

 この人もやっぱり、柏木司令と同じように僕ら示現体を人と同様に扱い、共に最前線に立つことを好む……どうも、これは斑鳩の人達の共通の価値観のようなものらしい。

 

「佐神大佐……こんな危険な任務に、あなたまで同行されていたのですか? せめて、護衛を付けて下さいよ」


 常識的に考えて、そんな重要人物が最前線に単艦で出張ってくるなんて、ない。

 けれど、佐神大佐が前線に出てくると言うのは、いわば責任者として、判断が難しい状況になる可能性が想定されているということでもある。


「まぁ、そう言うな。俺も一度セカンドのコリードールを直に見てみたかったんだ。ふむ、エーテルの空の色が違うのだな。青みががったキレイな空……おとぎ話で伝え聞いた地球の空のようだな」


「そうですねー。空間ガス濃度がこちらの方が低いようですよ。その分、たまに強烈なプラズマ嵐などが起きるようですが……空間放射線濃度も低いので、条件次第では人間でも生身で外に出られるんじゃないですかね」


 いつものほほんとしてる由良。

 過激派ばかりになってしまった斑鳩艦隊でも数少ない穏健派。

 

 割と僕とも気が合う……確かに、こっちのコリーロードは刺激が少なくて、居心地が良かった。


「僕としては、こんな危険なところに出てくるのは、あまりお勧めできません。いくら、セカンドから不可侵協定の提案があったからと言って、安心材料にはなりません」


「ごもっとも! だか、アマゾン……お前も一度斑鳩に帰還しろ。さすがにそろそろ活動限界が近いだろ。残置斥候任務は俺と由良が引き継ぐ事になった。とりあえず、待てど暮らせど、セカンドの奴らもここらに進出する気配もない上にあんなメッセージをよこしてきたからな。第二段階として、由良の索敵機を進出させて、向こう側の領域に対しての積極的な戦略偵察を実施しようという事でまとまったんだ」


「戦略偵察ですか? あまり刺激するべきではないと考えますが……」


「いかんせん、向こうの出方がさっぱり解らんからなぁ。偵察機の進出で向こうがどう反応するか……それによって、こっちも対応を変えなきゃいかん。なぁに、護衛艦についても、直に有明と夕暮が配置に着くことになってる。連中、また新型兵装を搭載してな……案の定不具合が出たもんで、後から来ることになってる」


 非武装の偵察機……相手もそんなのが出張ってきたら、対応せざるを得ない。

 迎撃なり警告なりの、リアクションくらいはする……問答無用で迎撃となれば、向こうはやる気だと言う事だし、穏便に警告や威嚇射撃程度で済ませてくれるようなら、比較的理性的な対応と言える。

 

 警告という形でも、コミュニケーションが取れれば、今度は交渉の余地が出てくる。


「なるほどですね。そう言う事なら、由良と佐神大佐が出張ってきたのも納得です。ただ、少々タイミングが悪いですね。先程、こちらの索敵網に反応がありまして……恐らく潜行艦が接近中です。なかなかの腕利きのようで、完全に見失ってしまったのですが……」


「なんだと? 向こうも動いたってことか……。確かにタイミングが悪いな。言ってくれりゃ、ゲート生成は中断したんだがな」


「ちょうどゲート開放のタイミングでしたので、警告も報告も間に合いませんでした。恐らくゲート開放時の重力震反応を探知されのではないかと。どうやら潜行艦で遠巻きに見張られていたようで、威力偵察を受けつつあるようです……すみません、見られてる感じはしてたんですが、確信が持てず、報告が遅れてしまいました」


 潜行艦による無音潜行偵察。

 さすがにこれをやられたら、対応は難しい。

 

 おまけに、アクティブソナーの探査も引っかかったのは、最初の一瞬だけ。

 それっきり、反応消失……恐らく、高度な音波ステルスシステムを実装していると見ていいだろう。

 流体面下の索敵は、音波頼みだから、こうなると為す術がない。

 

 インセクターの潜行種は、基本的に騒がしいし、そこまで深くは潜らない。

 なにより、こんな風にアクティブソナーを無効化するような術は持っていない。

  

 少なくともこの潜行艦は、完全に対人類戦を想定したセカンドの最先端レベルの精鋭だろう。

 恐ろしく厄介な奴らだった。


「気にするな。ゲート開放しちまった以上、どっちみち一緒だ。恐らく、こっちが動くのを待ち構えてたんだろうさ。とにかく、先制攻撃は控えるべきだが……見えないってのは厄介だな。数はどの程度だ? 向こうはやる気なのか?」


「少なくとも下流側に二隻。それと上流側にも一隻。パッシプでは、これ以上は解りかねる状況です。距離があるとは言え、こうも静かに動いてるとなると、いずれも相当な腕利き達ですね……。艦種はどうも米軍系……ガトー級ではないかと」


「ゲートは、後二時間ほどは持つらしいんだが……増援を手配すべきか、或いは即時撤収すべきか、迷う所だが、柏木に投げるとアイツのことだから、永遠に迷い続けるだろうからな……。ここは俺達だけで、決断すべきだろう。俺もその程度の決断を任さられる程度には権限はあるから、安心するんだな」


「了解です……僕としては、交渉するにせよ、撤収するにせよ、やっと向こうに動きがあったんですから、ここで引き下がるのはないと思います。ひとまず様子見が良いかと。ただ、万が一、向こうがこちらのゲートへの突入を目論んでいたら、厄介なことになりかねない。最優先戦略目標を今のうちに制定すべきかと」


「さすがに、慎重だな……有明や夕暮にも、見習って欲しいな。柏木も駆逐艦共の中ではお前が一番マトモだっていつも言ってるよ。けど、お前はお前で、味方の窮地に迷わず捨て身を選ぶとか、危なっかしい部分もあるからな。あまり無理はするなよ。今も最悪自分が捨て駒になって……とか考えてるだろ」


 ……さすがに、鋭いね。

 由良に、秘匿回線で最悪想定時の行動方針を打電しようとしてたのだけど思いとどまる。


「ご心配ありがとうございます。けど、もしも戦闘になったら、即時撤退をお願いします。佐神大佐が乗艦されている以上、由良へは被弾すら許されない……そう自覚しています」


「馬鹿言うなよ。俺は、誇りある桜蘭の軍人だぞ? 命を惜しむようなヘタレじゃねぇよ。どっちにせよ、俺達の方針はこのゲート受信システムを絶対死守する構えだ。こいつをやられたら、俺達はまた袋のネズミだ。それだけは避けなきゃいかんだろ」


 戦略目標は、ゲートの絶対死守。

 命令受理と認識……けど、佐神大佐の言葉にはどうしても納得は出来かねる。


「佐神大佐……命はむしろ惜しんでください。いつも言ってますよね? 矢面に立つべきは、常に僕らであるべきです。我々ブリタニア艦からすると、人間の指揮官が前線に出てくるなんて、非常識なんです。桜蘭の軍人さん達のその考えだけは、理解に苦しみます。あなた方人間は後方の安全地帯で悠々と指揮を取る。戦ってリスクを負うのは我々であるべきです」


「まぁ、そう言うなよ。大の男がお前らみたいなお嬢ちゃん達を矢面に立たせて、その背中に隠れてるなんて、情けねぇ話なんだぜ……。せめて、共に戦場に立つ位のことはして見せねぇとな……ってな訳で気遣い無用だ。と言うか、そんな気負ってんじゃないぞ。柏木もそう言ってたぞ?」


 ……まったく、これだから人間ってのは。

 けど、共に戦場に立つ……その覚悟を見せてくれるだけでも、気分が高揚してくる。

 僕らも、なんとも単純だった。


「由良さんも止めてくださいよ……。ここはいわば敵地なんですから、直ちに撤収して欲しいと言うのが僕の本音です」


「ごめんなさい。止めたいのも山々なんですが、大佐の気持ちも解るので……私も守られてばかりとか、イヤですから、こう言う状況に立ち会ってしまった以上、最後までお付き合いしますよ。一緒に頑張りましょうっ!」


 揃いも揃って、似た者同士……こりゃ、説得は無理か。

 

 僕ら駆逐艦は、格上の艦艇の盾となり矛となり、いざ突撃命令が下れば、先陣を切って突入し、味方の撤収時には、率先して殿や捨て駒になる。

 

 桜蘭の駆逐艦連中も同様みたいだけど、そこら辺は僕らRN駆逐艦だって一緒だ。


 エーテル空間戦闘のワークホース……主力戦闘艦と言えば、僕らを指す。

 

 桜蘭の娘達が半ば崇めているような駆逐艦……初霜の戦いぶりを僕も間近に見たのだけど。

 あれは、凄い……有明や夕暮も相当なレベルなのだけど、そのプロトタイプでありながら、恐るべき能力を持っていた。

 

 僕もアレと同じくRNデストロイヤーズでも、最古参に属するプロトタイプ実験艦なのだけど、あやかりたいものだった。

アマゾンは、RN組の初霜みたいなもんで、ブリタニアでも一番最初に実戦投入された無人駆逐艦の祖だったりします。

言ってみれば、皆のお姉さん的な感じ。

ただし、見た目はロリ。(笑)

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